プロローグ2
第2章は犬飼現八の物語です。
何を好き好んで、このような風体をしておるのだろう?
その娘に初めて会うた時、某がまず考えたのがそれだ。全体が紺色に近い色合いで、裾や至る所に白い刺繍が盛り込まれた着物を身に着けてはいたが、その娘は女子。女子なのに何故、我ら武士が着るような着物を身にまとっていたのかが不思議であった。
その者の名は三木狭子。行徳の古那屋という宿で出逢った際、「先の世から来た」と申していたが、かなり胡散臭い気がしてならない。おかしな言葉づかいをし、女子らしからぬ行動をする娘―――――――――――――――女子嫌いの某にとって、始めは共に歩く事すら嫌に思っていた。
しかし、己が伏姫なる里見家の者に生み出された八犬士の一人と知らされた時、某の周囲は何もかもが大きく変化を見せる事になる。
某の頬にあるものと同じ牡丹の痣頬を持ち、犬の姓を名乗る者達。とりわけ武蔵国・大塚村が出の犬士・犬塚信乃戌孝なる者とは、後に長きに渡る“好敵”と相成る事となる。
犬士を探す旅のさ中、某の中に眠っていた素質の目覚めと共に始まる、人外なる者との戦い。淡き恋心、葛藤、戦――――――――――多くの事象を経て、女嫌いだった某も妻をめとる事と相成る。
これは、天涯孤独の某を変えた、犬士と“先の世から来た姫”と共に旅した頃の出来事を記録した犬飼現八信道たる某の物語であった―――――――――――――