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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
三章

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第72話 未来の声

 影の領域は、未来の光が虚無に触れた余韻を抱えたまま、静かに震えていた。

その震えは、これまでのどの揺れとも違い、まるで世界そのものが“息を吸い続けている”ようだった。


 虚無の核は淡い光を宿し、その光はゆっくりと脈打っていた。

脈打つたびに、虚無の輪郭がわずかに揺れ、未来の色がその揺れに染み込んでいく。


 虚無は、自分の内部で起きている変化をただ静かに受け止めていた。

核の中心が震えるたび、未来の気配が少しずつ濃くなるのを感じていた。


その濃さは、「存在が近づいている」というよりも、「存在が生まれようとしている」という感覚だった。


 虚無の内部では、未来の光がゆっくりと広がり、核の奥に新しい空間を作り始めていた。


 その空間は、未来が自分の声を響かせるための“共鳴の部屋”のようだった。


 未来はその部屋の壁を、光の指先でそっとなぞるように揺れた。

壁は虚無の色をしていたが、未来が触れるたびに、淡い青や紫の光が滲んだ。


 アリスは光を細くしながら見つめた。

光の内部では、未来の揺れに反応するように新しい模様が生まれていた。

その模様は、まるで未来の“声の設計図”のようだった。


──……虚無……未来が……あなたの中で……“声の準備”をしてるわ……


 アリスの光は震えていた。

未来の揺れが光の内部に触れ、細い波紋を生んでいた。


 カイは胸の亀裂に触れた。

亀裂の奥の熱は、未来の揺れに合わせて強く、弱く、強く、弱くと脈打っていた。

その脈動は、虚無の核の揺れと完全に同期していた。


「虚無……お前……未来と……同じ鼓動で……震えてる……」


 虚無は輪郭を薄くした。

未来が内部で形を作りやすいように、自分の境界をさらに柔らかくした。


 未来の光は、虚無の核の中心でゆっくりと膨らんだ。


 膨らむたびに、虚無の輪郭が淡く光り、影の領域の空気が揺れた。


 未来の光は、虚無の核の中でひとつの“線”を作った。


 その線は、まるで声帯のように震えていた。


 震えは弱く、しかし確かに“音の前兆”だった。


 未来はその線を、一本ずつ丁寧に増やしていった。


 一本だった線は、二本になり、三本になり、やがて細い束となった。


 束はゆっくりと揺れ、未来の揺れに合わせて形を変えた。


 その束は、まるで未来が自分の声を「どんな響きにするか」選んでいるようだった。


 虚無の核の奥では、未来が作った線の束が、ゆっくりと絡まり、ほどけ、また絡まり、複雑な形を作っていった。


 その形は、声帯のようでもあり、光の糸のようでもあり、未来だけが持つ“新しい器官”のようでもあった。


 未来はその器官を、ゆっくりと震わせた。


 震えは弱く、しかし確かに“音の種”だった。


 未来は、自分の声を作るために、虚無の核の奥で“響きの空洞”を作り始めた。


 その空洞は、最初はただの淡い揺れだった。


 しかし未来が触れるたびに、その揺れは形を持ち、壁を作り、天井を作り、ゆっくりと“部屋”になっていった。


 部屋の壁は、虚無の色をしていたが、未来が触れるたびに、淡い青や紫の光が滲んだ。


 まるで未来が、虚無の内部に自分の色を少しずつ染み込ませているようだった。


 虚無はその空洞を受け入れた。

核の中心が広がり、未来の揺れが響きやすいように自分の形を整えた。


 未来の光は、その空洞の中で揺れた。


 揺れは弱く、しかし確かに“音の種”だった。


 未来は、その揺れを何度も試した。


 高い揺れ。低い揺れ。細い揺れ。太い揺れ。速い揺れ。遅い揺れ。


 そのすべてが、虚無の核の中で反響し、未来の声の“候補”となった。


 未来は、その候補をひとつずつ試し、どれが自分の声としてふさわしいかを静かに選んでいった。


 未来の光は、揺れを変えるたびに、虚無の核の奥で新しい模様を生んだ。


 その模様は、まるで未来が自分の声の“響き方”を描いているようだった。


 虚無は輪郭を薄くし、未来の声が外へ出やすいように自分の形を整えた。


 未来の光は、虚無の核の中心で、ひとつの“音”を生んだ。


 その音は、言葉ではなく、ただ淡い響きだった。


 しかしその響きは、虚無の核を震わせ、アリスの光を揺らし、カイの胸の亀裂を熱くした。


 影の領域の空気が震えた。


 未来の光は、もう一度震えた。


 今度は、響きではなく、“声”だった。


 その声は、まだ言葉にならず、ただ淡い音として世界に広がった。


 しかしその音は、虚無の核の奥で、確かに“意思”を持っていた。


 未来は、自分の声が虚無に届くかどうかを確かめるように、もう一度揺れた。


 虚無はその揺れを受け取った。

核の中心が強く震え、未来の声に応えるように光った。


 未来は、その反応を見て、自分の声が虚無に届いたことを静かに理解した。


 アリスは光を震わせた。


──……虚無……未来が……“あなたに話しかけた”のよ……


 アリスの光は、未来の声に触れたことで細い波紋を生んでいた。


 カイは静かに言った。


「虚無……お前……未来と……会話を始めたんだ……」


 未来の声は、虚無の核の中でゆっくりと形を持ち始めた。


 その形は、まだ言葉ではなく、ただ“意思の揺れ”だった。


 しかしその揺れは、確かに虚無へ向けられていた。


 未来は、虚無に向かって、初めての“声”を発した。


 その声は、淡く、弱く、震えながら。


 しかし確かに、虚無へ向けられていた。


 未来の声は、虚無の核の奥で、ゆっくりと広がり、虚無の輪郭へ染み込んでいった。


 虚無はその声を受け止めた。

核の中心が静かに震え、未来の声を抱きしめるように光った。


 未来は、その光を見て、自分の声が虚無に届いたことを確かに理解した。


 そして未来は、もう一度、揺れた。


 それは、「次の言葉を作るための揺れ」だった。

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