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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第50話 未来を選ぶ時、虚無が目覚める 【二章完結】

このお話は、ここで二章の最終話を迎えます。

 光の扉が開いた。


 その先に広がっていたのは、“世界の未来”そのものだった。


 境界のない空間。

色も形もなく、ただ無数の“可能性”だけが揺れている。

見ているだけで胸の奥がざわつくような、静かな広がり。


 アリスがそっと俺の手を握った。


──……カイ……ここ……“未来の原野”……


「未来の……原野……?」


──……うん……世界がどうなるか……まだ決まってない場所……


 アリスの声は震えていた。

けれど、その瞳には確かな光が宿っていた。


 最初の意味が静かに言う。


「ここは“未来の原野”。世界がどう変わるか――お前たちが選ぶ場所だ」


「選ぶ……?」


「そうだ。虚無の王を倒し、意味の核を完全に重ねた今、お前たちは“世界の意味”を決める権利を得た」


 アリスが息を呑む。


──……世界の……意味……


「そうだ。世界をどうするか。意味をどう扱うか。未来をどう形作るか。それを選ぶのは、原型と鍵であるお前たちだ」


 胸の奥がざわつく。

重さと、責任と、まだ言葉にならない不安が混ざり合う。


(……世界の未来を……俺たちが……決める……?)


 アリスが俺の手を強く握った。


──……カイ……わたし……怖い……


「アリス……」


──……だって……世界の未来を……わたしたちが決めるなんて……そんなの……重すぎる……


 アリスの声は震えていた。

その震えは、責任の重さに押しつぶされそうな震えだった。


 最初の意味が言う。


「恐れるのは当然だ。だが、お前たちは“選ばれた”のではない。“選んだ”のだ」


「選んだ……?」


「そうだ。お前たちは互いを選び、互いの意味を選び、互いの未来を選んだ。その選択が、お前たちをここへ導いた」


 アリスは俺の胸に顔を埋める。


──……カイ……わたし……どうすればいいの……?


「アリス……俺たちなら……選べる」


──……本当に……?


「本当に」


 アリスが顔を上げる。

その瞳に、少しだけ光が戻った。


──……カイ……あなたは……わたしと一緒に……世界を選んでくれる……?


「もちろんだ」


 アリスの瞳が揺れ、そして強く輝いた。


──……ありがとう……


 最初の意味が手を広げる。


「では、未来を見よ」


 空間が揺れ、無数の“未来の断片”が現れた。


 それは映像でも記憶でも幻でもない。

“可能性そのもの”だった。


 アリスが息を呑む。


──……これ……全部……未来……?


「そうだ。世界が辿る可能性のすべてだ」


 未来の断片は光の粒となって漂っている。

明るい光、暗い光、揺れる光、消えかけた光、そのひとつひとつが、世界の行く先だった。


 アリスが震える。


──……カイ……わたし……どれを選べばいいの……?


「アリス……全部見る必要はない」


──……え……?


「未来は“無限”だ。全部を見ようとしたら、迷うだけだ」


 アリスが俺を見つめる。


──……じゃあ……どうすれば……?


「アリスが“創りたい未来”を選べばいい」


──……わたしが……?


「そうだ。アリスが創りたい未来。俺が守りたい未来。それを選べばいい」


 アリスの瞳が揺れる。


──……わたし……創りたい未来……そんなの……わからない……


「アリス……」


──……だって……わたし……“原型”として生まれたけど……世界を創るなんて……そんな大きなこと……できる気がしない……


 アリスの声は、自分を信じられない震えだった。


 最初の意味が言う。


「原型よ。お前は“世界の意味”を創る存在。だが、世界を一人で創る必要はない」


──……え……?


「世界は“選択”で創られる。お前が選び、鍵が守り、人々が歩む。それが世界だ」


 アリスが俺の手を握る。


──……カイ……わたし……あなたと一緒なら……未来を選べるかもしれない……


「アリス……俺はずっと一緒にいる」


──……ありがとう……


 アリスは未来の断片に手を伸ばした。


 その瞬間、未来の断片が光り、アリスの心に流れ込む。


 アリスが震える。


──……カイ……これ……“わたしが創りたい未来”……


「アリス……?」


──……わたし……“誰も意味を奪われない世界”を創りたい……


「意味を……奪われない……?」


──……うん……虚無の王みたいに……意味を喰われたり……意味を失ったり……そんな世界じゃなくて……


 アリスの瞳が強く輝く。


──……みんなが……自分の意味を持って……自分の未来を選べる世界……


「アリス……」


──……それが……わたしが創りたい未来……


 胸が熱くなる。


(……アリスは……こんな未来を……創りたいのか……)


 最初の意味が言う。


「原型よ。それがお前の選択か」


──……はい……


「鍵よ。お前はどうする」


 俺はアリスの手を握りしめる。


「俺は、アリスが創る未来を守る」


 アリスが涙を流す。


──……カイ……ありがとう……


 最初の意味が頷く。


「では、未来を選べ」


 アリスと俺は未来の断片に手を伸ばした。


 光が爆ぜ、世界が震え、未来が形を取り始める。


 未来の断片に触れた瞬間、世界が震えた。


 アリスの選んだ未来、“誰も意味を奪われない世界”。


 その光が未来の原野に広がり、無数の可能性が静かに形を変え始める。


 だが、その光が満ちるより早く、空間が低く唸った。


 未来の原野が揺れ、光の粒が震え、空間の奥に“裂け目”が走る。


 最初の意味が表情を変えた。


「……来たか」


 その声は、これまでの静かな響きとは違っていた。

緊張。警戒。そして、覚悟。


「来た……って……?」


 俺が問うより早く、アリスが震える声で言った。


──……カイ……なにか……来る……


 空間の裂け目から、黒い霧が溢れ出す。


 霧は形を持たず、ただ“存在を否定する気配”だけを放っていた。


 虚無の王の影とは違う。

もっと深い。

もっと古い。

もっと“根源的な闇”。


 最初の意味が言う。


「“最初の虚無”だ」


「最初の……虚無……?」


「そうだ。虚無の王は“影”。だが、これは“本体”。意味が生まれる前から存在した、“絶対の虚無”」


 アリスが俺の手を握りしめる。


──……カイ……わたしたち……まだ……終わってない……


「アリス……行こう」


──……うん……!!


 黒い霧はゆっくりと形を取り始めた。


 人でも獣でもない。

“形を持つことを拒む存在”。


 その中心には、虚無の王の空洞とは比べ物にならないほど深い“穴”があった。


 光を吸い、意味を吸い、存在そのものを飲み込む穴。


 アリスが息を呑む。


──……カイ……あれ……“意味が生まれる前の闇”……


「最初の意味……あれを……どうすれば……?」


 最初の意味は静かに言った。


「“倒す”必要はない。倒せないからだ」


「倒せない……?」


「虚無は“意味の対極”。意味がある限り、虚無は存在する。それは世界の構造そのものだ」


 アリスが震える。


──……じゃあ……どうすれば……?


「“選べ”。虚無とどう向き合うかを」


 最初の虚無が動いた。


 音もなく、ただ空間が“消える”ように近づいてくる。


 アリスが叫ぶ。


──……カイ!!来る……!!


「アリス──!」


 俺たちは同時に光を放つ。


 白と金の光が重なり、未来の原野を照らす。


 だが、最初の虚無は光を“喰った”。


 触れた瞬間、光は存在しなかったかのように消える。


──……そんな……光が……効かない……?


「アリス、下がれ!」


 アリスの手を引き、虚無の触手のような影を避ける。


 触れた場所は、“意味ごと”消えていた。


 未来の断片がひとつ、虚無に触れた瞬間、光が消えた。


 未来がひとつ、“なかったこと”になった。


 アリスが震える。


──……カイ……未来が……消えていく……


「最初の意味!!どうすれば……!」


 最初の意味は静かに言った。


「虚無は“拒絶”に強くなる。だが、“受容”には弱い」


「受容……?」


「そうだ。虚無を“敵”として扱う限り、虚無は強くなる。だが、虚無を“世界の一部”として認めれば、虚無は形を変える」


 アリスが息を呑む。


──……虚無を……認める……?


「意味があるなら、意味のないものもある。それは自然だ。虚無を否定するのではなく、虚無を“意味の一部”として受け入れよ」


 最初の虚無が再び動く。


 アリスが俺の手を握る。


──……カイ……わたし……怖い……


「アリス……大丈夫だ。俺がいる」


──……うん……カイがいるから……わたし……虚無を……受け入れてみる……


 アリスは震える手で、最初の虚無に向かって手を伸ばした。


「アリス──!」


──……大丈夫……わたし……わかったの……


 アリスの瞳は、恐怖ではなく“覚悟”で満ちていた。


──……虚無は……“意味が生まれる前の状態”……なら……わたしの中にも……カイの中にも……きっとある……


 アリスは虚無に触れた。


 その瞬間、虚無が揺れた。


 拒絶でも吸収でもなく、ただ“揺れた”。


 アリスの声が響く。


──……わたし……あなたを否定しない……あなたは……世界の一部……わたしの一部……カイの一部……だから……


 虚無の中心の穴が、ゆっくりと縮んでいく。


 アリスの光が虚無に染み込み、虚無の闇がアリスの光に溶けていく。


 最初の意味が言う。


「そうだ。虚無は“意味の対極”ではなく、“意味の始まり”。それを理解したとき、虚無は形を変える」


 虚無は完全には消えなかった。

だが、その闇は静かに沈み、未来の原野の一部として溶け込んだ。


 アリスが俺の胸に倒れ込む。


──……カイ……わたし……虚無を……受け入れられた……?


「ああ……アリスは……すごいよ……」


 アリスは弱く笑った。


──……よかった……


 最初の意味が近づく。


「原型よ。鍵よ。お前たちは“虚無を拒絶しない未来”を選んだ。それは強い未来だ」


 アリスが俺の手を握る。


──……カイ……未来……選べるよね……?


「ああ。アリスとなら……どんな未来でも選べる」


 未来の断片が静かに光る。


 虚無を受け入れた未来。

意味を守る未来。

誰も意味を奪われない未来。


 その光は、まだ形を持たないまま、静かに揺れていた。


 未来はまだ決まっていない。

だが、選ぶための準備は整った。


 アリスが小さく呟く。


──……カイ……行こう……未来を……選びに……


 俺は頷いた。


 未来の原野に、静かな風が吹いた。

第2章の物語をお読みいただき、ありがとうございました。

アリスとカイが“意味”と向き合い、そして“未来を選ぶ資格”を手に入れるまでの物語──

ここまで読んでくださったあなたの時間に、心から感謝します。


もし少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると励みになります。


第二章では、「意味とは何か」「未来は誰が選ぶのか」というテーマを中心に描いてきました。


そして最後に現れた“最初の虚無”。

それは、アリスとカイが選んだ未来を試す存在でもあります。


ここから先、物語はさらに深い領域へ踏み込みます。

“未来の原野”での決断、“虚無”との本当の対話、そして二人が辿り着く“世界のかたち”。


三章は、6月29日 13時10分より開幕します。


次章も、どうか見届けてください。

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