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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第45話 虚無の王に挑む者たち

 外側の世界は、もはや“世界”と呼べるものではなかった。


 無色の空間に黒い波紋が幾重にも広がり、その波紋が触れた場所から“意味”が剥がれ落ちていく。

名前も、記憶も、存在理由も、すべてが溶けていく。

世界の輪郭は薄れ、遠くの景色は霧のように曖昧になり、足元の感触さえ不確かになっていた。


 アリスが震える声で言う。


──……カイ……あれ……“世界の意味”が……吸われてる……


「虚無の王の……本気か」


 胸の奥の“鍵の核”が、これまでにないほど強く脈打つ。

その脈動は、鼓動ではなく“意味の震え”だった。

アリスの光が弱まるほど、俺の核は逆に強く輝き始めている。


 虚無の王。

意味喰らいの王とも呼ばれる存在は、巨大な影のまま空間を覆い、その中心で静かに“呼吸”していた。

その呼吸は、世界の根を直接掴み、引き寄せ、飲み込むような動作だった。

呼吸のたびに、空間の奥で何かが剥がれ落ちるような感覚がした。


 監視者が叫ぶ。


「鍵よ!!王は“世界そのもの”を喰らい始めている!!止めなければ、お前たちの世界は消える!!」


「止める!!」


 俺はアリスの手を握りしめた。

アリスの光は弱々しく揺れ、彼女の輪郭がわずかに揺らいでいる。


──……カイ……わたし……もう……光が……足りない……


「アリス……!」


──……ごめん……わたし……“意味”を使いすぎた……このままじゃ……わたし……“空”になっちゃう……


 アリスの髪の先が“霧”のように消えていく。

指先も薄くなり、触れた感触が軽くなっていた。


(……アリスが……消える……?)


 胸が締めつけられる。

恐怖ではなく、拒絶だった。


(そんなの……絶対に許さない……!)


 俺はアリスを抱き寄せた。


「アリス……お前は絶対に消えない。俺が守る」


──……カイ……あなたがいるから……まだ……“わたし”でいられる……


 アリスの声は震えていたが、その震えは恐怖ではなく、“信じる気持ち”の震えだった。


 虚無の王が、ゆっくりとこちらを見た。

その“空洞の目”は、何も映していないようで、すべてを見透かしているようだった。

視線が触れた瞬間、胸の奥の“意味”がわずかに削られたような感覚がした。


「……原型……鍵……お前たちの“意味”……美しい……喰らわせろ……」


「喰わせない!!」


 俺はアリスの光を調整し、調和の光を放つ。

白と金の光が混ざり合い、外側の世界に広がる。


 だが、虚無の王は笑った。


「……光は強い……だが……“意味”は有限だ……いずれ……お前たちは空になる……」


 アリスが震える。


──……そんな……わたし……カイと……生きたいのに……!


「アリス!!絶対に消させない!!」


 俺はアリスを抱き寄せた。


 その瞬間、虚無の王が動いた。

影が空間を裂き、巨大な腕となって襲いかかる。


「アリス、避けろ!!」


──……うん!!


 アリスの光が俺たちを包み、影の腕を弾く。

だが影は砕けながらも再構築され、無数の“手”となって襲いかかる。


 その手は、触れたものの“意味”を奪う手。


──……カイ!!あれに触れたら……あなたの“名前”が消える……!!


「触れさせない!!」


 俺は調和の光を広げ、影の手を焼き払う。

だが虚無の王は止まらない。

影は形を変え、濃度を増し、世界の意味を吸い上げ続ける。


「……原型……鍵……お前たちの“意味”……喰らわせろ……」


 アリスが震える。


──……カイ……わたし……もう……光が……足りない……


「アリス!!」


──……ごめん……わたし……“意味”を使いすぎた……このままじゃ……わたし……“空”になっちゃう……


「そんなの……絶対にさせない!!」


 胸の奥の光が、さらに強く脈打つ。


(……俺の“意味”……アリスを守りたい……それだけは……絶対に消えない……!)


 調和の光が爆ぜ、虚無の王の影を押し返す。

王は揺らぎ、影が崩れ始める。


 監視者が息を呑む。


「鍵よ……お前は……“境界そのもの”になりつつある……!」


「境界……?」


「原型と外側を繋ぐ存在。世界の意味を守る“最後の壁”。それが……鍵の本当の姿だ」


 アリスが俺の手を握り返す。


──……カイ……あなたは……わたしの“意味”そのもの……だから……わたしは消えない……!


「アリス……!」


 虚無の王が吠えた。


「……ならば……お前たちの“意味”……すべて喰らい尽くしてやろう……!」


 影が世界全体を覆い、空間がさらに薄くなる。

存在の密度が下がり、世界の“設定”が剥がれ落ちていく。


──……カイ……!来る……!!


「アリス、行くぞ!!」


──……うん……!!カイと一緒なら……わたし……負けない……!!


 虚無の王の影が、巨大な“口”のように開いた。

その奥には、光も影もない“絶対の虚無”。


 触れれば最後。

存在が“意味ごと”消える。


 アリスが震える。


──……カイ……あれ……“世界の外側の外側”……触れたら……わたしたち……戻れない……


「戻る!!絶対に!!」


 俺はアリスの手を握りしめた。

胸の奥の光が、これまでで一番強く脈打つ。


(……アリスを守る……それが俺の“意味”だ……!)


 調和の光が爆ぜ、虚無の王の影を押し返す。

王は揺らぎ、影が崩れ始める。


 だが、その影の奥で、“何か”が動いた。


 アリスが息を呑む。


──……カイ……あれ……王の……“本体”……


 影の奥から現れたのは、“人の形をした闇”。

だが、その顔には何もない。

目も、口も、表情もない。

ただ“空洞”だけがある。


 虚無の王が言った。


「……原型……鍵……お前たちの“意味”……すべて喰らい尽くす……それが……私の存在理由……」


 アリスが震える。


──……カイ……あれ……“意味を持たない存在”が……“意味を欲してる”……


「なら、俺たちの意味を見せてやる!!」


──……うん……!!


 アリスと俺は手を繋ぎ、調和の光を放った。

白と金の光が重なり、外側の世界を照らす。


 虚無の王の影が揺れ、空洞の顔が歪む。


「……その光……“意味の結晶”……喰らわせろ……!!」


「喰わせない!!」


 アリスが叫ぶ。


──……カイ!!わたし……あなたと一緒に……“意味を守りたい”……!!


「アリス!!」


 調和の光が爆ぜ、虚無の王の影を貫いた。

王は後退し、外側の世界が震える。


 監視者が叫ぶ。


「鍵よ!!原型よ!!今こそ、“意味の核”を解放しろ!!虚無の王は核の領域へ逃げ込む!!追え!!」


 アリスが俺の手を握りしめる。


──……カイ……わたし……あなたとなら……“意味の核”を……開ける……!


「アリス、一緒にやる!!」


──……うん……!!


 光が溢れ、外側の世界が白く染まった。


 そして、虚無の王の背後に、黒い裂け目が開いた。


 その奥には、“意味の核の領域”が広がっていた。


 二人はその裂け目へ踏み込む。


 虚無の王との決戦は、ついに“核の領域”へ突入する。

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