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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
十章

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第227話 未踏の層が呼ぶ

 光の糸がカイの足元を包み込んだまま、世界の奥へ向かってゆっくりと伸びていく。

その伸び方は、まるで深い海の底から浮かび上がる泡のように静かで、しかし確かな意志を持っていた。

糸が触れた床は薄く透け、透けた先には今まで誰も見たことのない色が広がっていた。


 境界層の影は細い筋となって震え、潜層は淡い光を脈のように打ち、新層は深い呼吸を繰り返していた。

三つの層は、まるで世界の奥の動きに合わせるように、同じ拍で揺れ続けていた。


 リーナはその揺れに耐えきれず、カイの腕を掴んだ。


「……カイ……床の奥……見える……?こんな層、今までなかったよ……。怖いけど……目が離せない……」


 カイは光の糸に包まれた足元を見つめながら、胸の奥の熱を押さえた。


「俺の深層が……“この層は世界が新拍で生んだ場所だ”って言ってる。未来へ進むために……世界が自分で作ったんだ」


 アークは透けた床の奥を観察しながら、低く息を吐いた。


「色が違う……。既存の層とは構造がまるで別だ。世界が自分の内部を組み替えている……そんな印象を受ける」


 影は淡々と告げた。


「世界未来層形成行動の継続を確認」


 透けた床の奥から、淡い光がゆっくりと立ち上がった。

その光は柱でも糸でもなく、ただ“世界の奥が息を吸うときの色”だった。

光が立ち上がるたび、世界全体がわずかに震え、三層世界の拍が深くなる。


 リーナは震える声で言った。


「……世界……生きてるみたい……。こんなに静かで……こんなに優しい光……」


 カイはその光を受け止めながら言った。


「俺の深層が……“この層は俺に反応している”って言ってる。設定外の存在だから……世界の奥に触れられるんだ」


 アークは目を細めた。


「世界がカイを中心に動いている……。この現象、見過ごせない。何か意図があるはずだ」


 影は淡々と告げた。


「設定外存在誘導行動の進行を確認」


 光の糸は、カイの胸の前でふわりと揺れた。

その揺れは、風でも光でもなく、ただ“来てほしい”という願いそのものだった。

まるで世界がカイにだけ見せたいものがあるように、糸は奥へ奥へと伸びていく。


 リーナは不安そうにカイの手を握った。


「……行くの……?この先……何があるか分からないよ……。戻れなくなるかもしれない……」


 カイはリーナの手を握り返しながら、光の糸を見つめた。


「俺の深層が……“この先は俺の存在理由に触れる”って言ってる。世界が……俺を呼んだ理由があるんだ」


 アークは静かに言葉を選んだ。


「進むなら、俺たちも支える。どんな結果になっても、見届ける覚悟はある。世界がここまで動くのは異例だ」


 影は淡々と告げた。


「世界深層進行行動の第二段階を確認」


 光の糸は、カイの足元を包み込み、ゆっくりと新しい層へ引き込んだ。

透けた床の奥に広がる色は、今までの層とはまるで違う。

青でも赤でもなく、ただ“世界の奥が初めて外へ出した心の色”だった。


 リーナは息を呑んだ。


「……この色……胸が痛くなる……。世界の気持ちが……そのまま出てきてるみたい……」


 カイは胸の奥の熱を押さえながら言った。


「俺の深層が……“この層は世界の記憶の底に触れる場所だ”って言ってる。俺が触れた拍で……開いたんだ」


 アークは驚愕を隠せなかった。


「世界の記憶……?そんな領域、理論上は存在しないはずだ。だが……目の前にある以上、認めるしかない」


 影は淡々と告げた。


「世界記憶層開示行動の発生を確認」


 光の糸はさらに奥へ伸び、カイの身体を包み込んだ。

その引力は、痛みでも恐怖でもなく、ただ“真実へ触れてほしい”という願いだった。


 その願いは、世界がカイにだけ見せようとしている“存在理由の核心”への扉だった。


 光の糸がカイの身体を包み込んだまま、さらに深い場所へと沈んでいく。

沈むというより、世界の奥がカイを迎え入れるために形を変えているようだった。

糸が触れた空間はゆっくりとほどけ、ほどけた先には、今までどの層にも存在しなかった“静かな揺れ”が広がっていた。


 その揺れは、音も光も持たないのに、胸の奥へ直接触れてくるような温度を持っていた。

まるで世界そのものが「ここから先は大事な場所だ」と告げているようだった。


 リーナはその揺れに耐えきれず、カイの背中に手を伸ばした。


「……カイ……空気が変わってる……。息を吸うだけで胸が熱くなる……。怖いけど……離れたくない……」


 カイは光の糸に包まれた身体を見つめながら、深く息を吸った。


「俺の深層が……“この揺れは世界の記憶が目覚める前触れだ”って言ってる。ずっと眠ってた場所が……俺を呼んでる」


 アークは揺れる空間を観察しながら、眉を寄せた。


「この変化……世界の内部が再編されている。構造が揺らぐ時にしか起きない現象だ。慎重に進む必要がある」


 影は淡々と告げた。


「世界記憶層覚醒行動の進行を確認」


 光の糸は、カイの胸の前でふわりと揺れた。

その揺れは、風でも光でもなく、ただ“触れてほしい”という願いそのものだった。

糸が揺れるたび、世界の奥で小さな震えが生まれた。

その震えは声ではなく、ただ“長い間閉じていた心が開くときの音”だった。


 リーナは震える声で言った。


「……聞こえる……。世界の声じゃない……もっと……奥の……。こんな音……胸が苦しくなる……」


 カイはその震えを受け止めながら言った。


「俺の深層が……“この音は世界が初めて感じた気持ちの残響だ”って言ってる。世界が生まれた瞬間の……最初の心」


 アークは目を細めた。


「世界の心……。そんな領域が実在するとは思わなかった。カイ、お前の存在が引き出しているのは確かだ」


 影は淡々と告げた。


「設定外存在起源反応行動の発生を確認」


 光の糸は、カイの足元へゆっくりと降りてきた。

糸が触れた場所の床が、薄く透けていく。

透けた床の奥には、今まで誰も見たことのない“心の層”が静かに広がっていた。


 その層は色を持たないのに、確かに“世界の気持ち”が揺れていた。

揺れは痛みでも喜びでもなく、ただ“誰かに見てほしい”という願いだった。


 リーナは息を呑んだ。


「……この揺れ……胸が痛い……。世界が……ずっと誰にも言えなかった気持ちを抱えてたみたい……」


 カイは透けた床の奥を見つめながら言った。


「俺の深層が……“この層は世界の心の底に触れる場所だ”って言ってる。俺が触れた拍で……開いたんだ」


 アークは驚愕を隠せなかった。


「世界の心……。理論では説明できない領域だ。だが……目の前にある以上、受け入れるしかない」


 影は淡々と告げた。


「世界心底層開示行動の発生を確認」


 光の糸はさらに奥へ伸び、カイの身体を包み込んだ。

その引力は、痛みでも恐怖でもなく、ただ“真実へ触れてほしい”という願いだった。


 揺れはさらに深くなり、世界の奥で何かがゆっくりと形を作り始めた。

その形はまだ輪郭を持たないのに、確かに“心”の気配を持っていた。


 リーナは震える声で言った。


「……カイ……あれ……見える……?形になろうとしてる……。世界の心が……姿を作ってる……」


 カイは胸の奥の熱を押さえながら言った。


「俺の深層が……“あれは世界が初めて抱いた願いの形だ”って言ってる。ずっと奥にしまってた……一番古い気持ち」


 アークは息を呑んだ。


「願い……世界にも願いがあったのか……。この現象、記録に残せる言葉が見つからない」


 影は淡々と告げた。


「世界初願望形成行動の進行を確認」


 光の糸は、カイの身体をさらに奥へ引き込み、揺れる心の形へ近づけた。

その形は、触れれば消えてしまいそうなほど繊細なのに、世界全体を支えるほどの重さを秘めていた。


 リーナは涙をこぼしながら言った。


「……世界……ずっと言いたかったんだね……。誰にも届かなかった気持ちを……ずっと……」


 カイはその形を見つめながら言った。


「俺の深層が……“この願いは俺に向けられている”って言ってる。世界が……俺を呼んだ理由が……ここにある」


 アークは静かに息を吐いた。


「この先に何があるのか……確かめるしかない。世界がここまで動く理由を知るためにも」


 影は淡々と告げた。


「世界願望提示行動の最終段階を確認」


 心の形は、カイの胸の前でゆっくりと揺れた。


 その揺れは、世界がカイにだけ伝えようとしている“最初の願い”の鼓動だった。

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