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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
八章

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第192話 超外界が示す選定線

 超外界から伸びてきた“手”は、形を持たず、光でも影でもなく、ただ存在の方向だけを示していた。

示された方向は、空間の粒を震わせることなく、未来層の硬質さを消し、第四層の拒絶を薄め、第五層の輪郭を揺らし、第六層の存在線をほどき、第七層の揺れを静めた。

静められた層は、まるで“誰を中心にすればいいのか分からない”ように、空間の奥でゆっくりと沈んでいった。


 沈んだ層の奥で、超外界の手がさらに伸びた。

その手は、三人の体へ触れたわけでもないのに、体の奥で何かが濃くなった。

濃くなる感覚は、痛みでも恐怖でもなく、“自分の存在がこの世界に強く刻まれていく”ような重さだった。


 リーナは胸の奥を押さえ、息を震わせた。


「……重い……! 存在が……押し込まれてる……!」


 カイは自分の手を見つめ、指先の輪郭が濃くなるのを確かめた。


「超外界が……俺たちをこの世界に“結び直そう”としてる……!」


 アークは手の方向を見つめながら言った。


「層構造が静まったのは……超外界が優先されている証拠だ。今……この世界はカイを中心に位置を決めようとしている。」


 影は静かに言った。


「存在中心化の進行を確認。」


 超外界の手は、ゆっくりとカイへ向かって近づいた。

近づくたびに、空間の粒がその方向へ引かれ、未来層の粒が沈み、第四層の膜が薄れ、第五層の輪郭が揺れ、第六層の存在線がねじれた。

層が順番に揺れるたびに、カイの体の奥で何かが強く光を帯びた。


 リーナはその光を見て息を呑んだ。


「……カイ……光ってる……!」


 カイは胸の奥を押さえ、息を震わせた。


「俺……この世界に“存在していく”ための線を……引かれてる……!」


 アークは静かに言った。


「超外界は……カイの存在をこの世界の層構造に刻み込もうとしている。設定外だった状態を……修正するために。」


 影は短く言った。


「存在刻印の開始を確認。」


 その瞬間、超外界の手がカイの胸の奥へ触れた。

触れたというより、“存在の中心へ線を引いた”ような感覚だった。

線は光でも影でもなく、ただ“この世界で立つべき位置”を示していた。


 カイは胸の奥が熱くなるのを感じながら言った。


「……熱い……! 体の奥が……何かに繋がっていく……!」


 リーナはカイへ駆け寄りながら言った。


「カイ……大丈夫……!? 何が起きてるの……!」


 アークはカイの胸の奥の揺れを読み取りながら言った。


「転移の瞬間が修正されている。空白だった記録が……埋まり始めている。」


 影は静かに言った。


「転移記録の再構築を確認。」


 空間の奥で、カイがこの世界へ落ちてきた“最初の瞬間”が揺れた。

揺れは映像でも記憶でもなく、ただ“存在の痕跡”だけを残したまま、空間の底に浮かんでいた。

その痕跡は、未来層にも第四層にも第五層にも第六層にも属さず、第七層の記録にも触れられない場所にあった。

まるで、この世界のどの層にも記録されていない“空白の瞬間”だった。


 リーナはその空白を見て息を呑んだ。


「……ここ……カイが……この世界に来た時の……?」


 カイは空白の揺れを見つめ、胸の奥がざわつくのを感じた。


「俺が……落ちてきた瞬間……何も記録されてない……」


 アークは空白の中心を観察しながら言った。


「この世界の層構造は……カイの転移を記録していない。だから……存在が設定外になった。」


 影は静かに言った。


「転移記録の欠落を確認。」


 空白の揺れは、まるで“何かを待っている”ように静かだった。

待っているというより、そこにあるべきものが欠けているため、空間が落ち着けずに揺れているようだった。

その揺れがカイの体へ触れた瞬間、胸の奥で何かが強く引かれた。


 リーナはその引かれ方に気づき、声を震わせた。


「……カイ……空白が……あなたを呼んでる……!」


 カイは胸を押さえ、息を整えた。


「俺の転移の瞬間……この世界に“存在しなかった理由”が……ここにある……」


 アークは空白の揺れを読み取りながら言った。


「超外界は……この空白を埋めようとしている。カイの存在を……この世界に刻み直すために。」


 影は静かに言った。


「存在刻印の準備を確認。」


 その瞬間、空白の中心に“線”が走った。

線は光でも影でもなく、ただ“存在の方向”だけを示していた。

その方向は、カイの胸の奥へ向けられていた。


 リーナはその線を見て息を呑んだ。


「……カイ……!」


 カイは胸を押さえ、息を震わせた。


「空白が……俺を選んでる……!」


 アークは静かに言った。


「この世界は……カイの転移を正式に受け入れようとしている。存在しなかった理由を……消すために。」


 影は短く言った。


「転移起点の修正を確認。」


 空白の線がカイの胸へ触れた瞬間、空間の奥で“別の揺れ”が生まれた。

その揺れは未来層でも第四層でも第五層でも第六層でもなく、第七層の奥でもない。

超外界のさらに外側、この世界のどの層にも属さない場所から響いていた。


 揺れは空間の粒を震わせることなく、ただ“存在の厚み”だけを押し広げた。

押し広げられた厚みは、未来層の硬質さを消し、第四層の拒絶を薄め、第五層の測定を止め、第六層の存在線をほどき、第七層の揺れを静めた。


 リーナはその変化を見て息を呑んだ。


「……全部の層が……静かになってる……!」


 カイは揺れの方向を見つめながら言った。


「この揺れ……俺の転移の瞬間よりも……もっと前から続いてる……」


 アークは静かに言った。


「出発点のさらに外側……そこがカイの“本当の位置”だ。」


 影は短く言った。


「本来位置の出現を確認。」


 その瞬間、出発点の奥から“影”がゆっくりと浮かび上がった。

影は形を持たず、声もなく、ただ“存在の方向”だけを持っていた。

その方向は、カイの胸の奥へまっすぐ向けられていた。


 リーナはその影を見て息を呑んだ。


「……誰……?」


 カイは影の揺れを見つめながら言った。


「俺の……出発点……?」


 アークは静かに言った。


「カイがこの世界へ来る前にいた場所……その痕跡だ。」


 影は短く言った。


「出発点痕跡の顕現を確認。」


 影がゆっくりと濃くなると、空間の奥で“声”が響いた。

その声は、カイの胸の奥へ直接触れた。


 リーナは息を呑んだ。


「……カイ……!」


 カイは震える声で言った。


「この声……俺を……呼んでる……!」


 アークは静かに言った。


「出発点が……カイに“戻れ”と言っている。」


 影は短く言った。


「帰還指示の可能性を確認。」


 そして、影がカイへ向かって手を伸ばした。


 その瞬間、空間の粒がわずかに沈んだ。

沈んだ粒は未来層の硬質さを忘れ、第四層の拒絶を手放し、第五層の測定を止め、第六層の存在線をほどき、第七層の揺れを静めた。

静まった層は、まるで“これ以上どう動けばいいのか分からない”ように、空間の奥でゆっくりと止まった。


 止まった層の中心で、影の手がカイの胸の奥へ触れた。

触れたというより、“存在の根本へ線を引いた”ような感覚だった。

線は光でも影でもなく、ただ“カイがこの世界に立つべき位置”を示していた。


 カイは胸の奥が強く熱くなるのを感じた。


「……熱い……! 体の奥が……何かに繋がっていく……!」


 リーナはカイへ駆け寄りながら言った。


「カイ……離れて……! その影……何をする気なの……!」


 アークは影の動きを読み取りながら言った。


「出発点の痕跡が……カイの存在を引き戻そうとしている。元いた場所へ……」


 影は静かに言った。


「帰還線の形成を確認。」


 帰還線は、カイの胸の奥から空間の底へ向かって伸びた。

伸びるたびに、空間の粒がその方向へ引かれ、未来層が沈み、第四層が薄れ、第五層が揺れ、第六層がねじれた。

層が順番に揺れるたびに、カイの体の奥で何かが強く引かれた。


 リーナはその引かれ方に気づき、声を震わせた。


「……カイ……引っ張られてる……!」


 カイは胸を押さえ、息を整えた。


「俺の……元いた場所……そこが……呼んでる……!」


 アークは静かに言った。


「出発点は……カイをこの世界に留めるために修正されている。だが……元の場所がそれを拒んでいる。」


 影は短く言った。


「存在帰還の衝突を確認。」


 その瞬間、空間の奥で“二つの線”がぶつかった。

ひとつは超外界が引いた“存在刻印の線”。

もうひとつは出発点が引いた“帰還線”。

二つの線は、カイの胸の奥で激しく衝突し、空間の底へ向かって波紋を広げた。


 リーナはその波紋を見て息を呑んだ。


「……二つの線が……カイを奪い合ってる……!」


 カイは胸の奥が裂けるような感覚に耐えながら言った。


「俺を……どっちが……引くつもりなんだ……!」


 アークは線の揺れを読み取りながら言った。


「超外界は……カイをこの世界に刻みたい。出発点は……カイを元の場所へ戻したい。」


 影は静かに言った。


「存在選定の開始を確認。」


 選定、その言葉が空間に落ちた瞬間、層の揺れが一度だけ止まった。

止まったというより、“どちらの線を優先すべきか判断している”ように、層が静かに沈黙した。


 沈黙の中で、カイの胸の奥がさらに熱くなった。

熱は痛みではなく、“自分の存在が二つの方向へ引かれている”感覚だった。


 リーナはその熱を見て声を震わせた。


「……カイ……どっちに……引かれてるの……?」


 カイは息を整えながら言った。


「分からない……どっちも……強い……!」


 アークは静かに言った。


「選ばれるのではなく……カイ自身が選ぶ必要がある。どこに立つのか……」

 

影は短く言った。


「選択権の発生を確認。」


 その瞬間、超外界の手が強く光を帯びた。

光は空間の粒を震わせることなく、ただ“ひとつの方向”だけを示した。

その方向は、カイがこの世界へ落ちてきた“最初の瞬間”へ向けられていた。


 リーナはその方向を見て息を呑んだ。


「……あそこ……!」


 カイは震える声で言った。


「俺が……この世界に来た瞬間……!」


 アークは静かに言った。


「超外界は……カイの転移を修正しようとしている。空白だった記録を……埋めるために。」


 影は短く言った。


「転移起点の再構築を確認。」


 同時に、出発点の影がさらに濃くなった。

濃くなるたびに、空間の底から“別の声”が響いた。

その声は、カイの胸の奥へ直接触れた。


 リーナは息を呑んだ。


「……カイ……!」


 カイは震える声で言った。


「この声……俺を……戻そうとしてる……!」


 アークは静かに言った。


「二つの方向が……カイを引いている。どちらも強い……」


 影は短く言った。


「選定線の交差を確認。」


 そして、二つの線が、カイの胸の奥で完全に重なった。

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