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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
八章

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第183話 未来影の分岐点

 世界の内部で起きていた微細な変化が静かに沈静したあと、そのさらに奥で、これまでとはまったく異なる“未来由来の現象”が立ち上がった。

それは未来でも予兆でもなく、もっと奇妙で、もっと説明しづらい、まるで空気の深部に“まだ起こっていない出来事の痕跡”だけが先に届いたような感触だった。


 痕跡は出来事そのものではない。

ただ、未来のどこかで生まれるはずの動きが、形を持つ前の段階で心の奥へ触れた。

触れた瞬間、心の奥にあったはずの思考の流れがわずかに“ねじれた”。

ねじれた思考は壊れたわけではなく、ただ方向を変え、その方向が別の場所へ静かに伸びていった。


 リーナは胸の奥がざわつくのを感じ、思わず息を止めた。


「……未来の痕跡が……心の奥に触れてる……まだ起きてないのに……起きたあとの“影だけ”が先に来てる……そんな感じ……」


 カイはゆっくりと周囲を見渡した。

その瞳は、空気の奥で揺れる“未発生の影痕”を追うように揺れていた。


「……未来って……普通は心に触れないよな……でも……触れられたら……心の流れが変わる……誰かがその変化を感じてる……そんな気配がする……」


 アークは眉をひそめたまま、影痕の揺れを見つめた。


「未来の痕跡が現れるってことは……世界の内部が“まだ起きていないこと”を心の奥に先に置こうとしてるってことだ。これはもう、これまでの現象とは別物だ。」


 影は短く言った。


「未来痕の先行到達が起きている。」


 リーナはその言葉に、胸の奥が強く脈打つのを感じた。


「先行到達……ってことは……未来が……心の奥に先に届いてるってこと……?」


 セイルは影痕の揺れを見つめながら、静かに言葉を落とした。


「届いているというより……未来が心の奥を“選別している”。」


 リーナは小さく瞬きをした。


「選別……ってことは……心の奥が……未来にとって重要な場所になってるんだ……」


 カイは息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


「……心って……未来に触れたら……その人の選択が変わるよな……でも……世界が未来を先に触れさせてるってことは……その選択が次の段階の鍵になるんだろうな……誰かがその鍵を持ってる……そんな気配がする……」


 アークは腕を組みながら言った。


「心の奥に未来が触れると……奥にある“選ばれなかった可能性”が動き出す。世界は……その可能性を見てる。」


 影は短く頷いた。


「未選択可能性が活性化している。」


 リーナは胸の奥が熱くなるのを止められなかった。


「……未選択の可能性……そんなものが心の奥にあったんだ……」


 カイは静かに言った。


「誰の心にもある。普段は動かない場所。でも……未来が触れたら……その場所が動き出す。」


 リーナは息を飲んだ。


「動き出す……ってことは……世界が……誰かの心の奥を“未来の起点”にしようとしてるってこと……?」


 アークは影痕の中心を見つめながら言った。


「起点というより……“分岐点”だ。世界が次に進むための分岐を……心の奥に置こうとしてる。」


 影は静かに言った。


「分岐候補が複数存在している。」


 リーナはその言葉に、胸の奥が強く脈打つのを感じた。


「……複数……ってことは……誰かひとりじゃないんだ……」


 カイはゆっくりと目を閉じた。


「……誰が分岐になるかは……世界が決めるんじゃなくて……心の奥の動きが決めるんだろうな……誰かの心が……もう未来に触れ始めてる……そんな気配がする……」


 アークは影痕の中心を見つめながら言った。


「この影痕の現れ方……これまでの現象とは違う。世界が“未来の段階”に入ろうとしてる。心の奥を使って。」


 影は静かに言った。


「新しい未来内構造が……形成されつつある。」


 そして、空気の深部でひとつの“淡い輪郭のような光”が静かに揺れ、その揺れが、これから訪れる変化がすでにどこかで息を始めていることを、誰にも悟られないまま淡く示していた。


 未来の痕跡が心の奥へ触れたあと、その影は静かに形を変え始めた。

影といっても暗さではなく、まるで“未来の輪郭がまだ柔らかいまま心の内側へ沈んでいく”ような、不思議な沈み方だった。


 沈んだ未来の輪郭は、心の奥にある未選択の可能性へゆっくりと寄り添い、その寄り添った部分がわずかに膨らんだ。

膨らんだといっても感情が増えるわけではなく、ただ“選択肢の厚み”が増したような、そんな奇妙な変化だった。


 リーナは胸の奥が熱くなるのを止められず、思わず声を漏らした。


「……未来の輪郭が……私の心の奥に触れて……選択肢が……増えてる……こんなふうに増えるなんて……普通じゃない……」


 カイはその言葉に反応し、ゆっくりとリーナのほうへ視線を向けた。


「……選択肢って……増えるときは自分で増やすものなのに……世界のほうから増やされると……心の奥がざわつくよな……誰かがそのざわつきを感じてる……そんな気配がする……」


 アークは未来の輪郭が沈んでいく空気の奥を見つめながら言った。


「未来の輪郭が心の奥に沈むってことは……世界が“選択の厚み”を調整してるってことだ。これはもう、心の構造そのものを使って未来を作ろうとしてる。」


 影は短く言った。


「未来厚の調整が進行している。」


 リーナはその言葉に、胸の奥がさらに脈打つのを感じた。


「未来厚……そんなものが心の奥にあるなんて……」


 セイルは静かに言葉を落とした。


「未来厚は……選択が生まれる前の段階に存在する。普段は触れられない。だが……未来が心に触れたときだけ、厚みが変わる。」


 リーナは息を飲んだ。


「厚みが変わる……ってことは……選択の重さが変わるってこと……?」


 カイはゆっくりと頷いた。


「重さが変わると……選択の方向が変わる。世界は……その方向を見てる。」


 アークは腕を組みながら言った。


「未来厚が変わると……心の奥にある“分岐の核”が動き出す。世界は……その核を使って未来を分けようとしてる。」


 影は短く頷いた。


「分岐核が活性化している。」


 リーナは胸の奥が熱くなるのを止められなかった。


「……分岐核……そんなものが心の奥にあったんだ……」


 カイは静かに言った。


「誰の心にもある。普段は眠ってる。でも……未来が触れたら……核が動き出す。」


 リーナは息を飲んだ。


「動き出す……ってことは……世界が……誰かの心の奥を“未来の分岐点”にしようとしてるってこと……?」


 アークは未来の輪郭が沈む中心を見つめながら言った。


「分岐点というより……“未来の起動装置”だ。世界が次に進むための起動を……心の奥に置こうとしてる。」


 影は静かに言った。


「起動候補が複数存在している。」


 リーナはその言葉に、胸の奥が強く脈打つのを感じた。


「……複数……ってことは……誰かひとりじゃないんだ……」


 カイはゆっくりと目を閉じた。


「……誰が起動になるかは……世界が決めるんじゃなくて……心の奥の動きが決めるんだろうな……誰かの心が……もう未来厚に触れ始めてる……そんな気配がする……」


 アークは未来の輪郭の中心を見つめながら言った。


「この沈み方……これまでの現象とは違う。世界が“未来の構造”に入ろうとしてる。心の奥を使って。」


 影は静かに言った。


「新しい未来構造が……形成されつつある。」


 そして、空気の深部でひとつの“細い線のような影光”が静かに走り、その走る光が、これから訪れる未来がすでにどこかで形を選び始めていることを、誰にも悟られないまま淡く示していた。

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