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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
七章

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第159話 世界の地図が描かれ始める

 アステルの空気に浮かんだ“最初の文字”は、すぐに消えた。


 けれど、消えたというより、世界の奥へ吸い込まれたと言ったほうが近い。


 リーナはその消失を見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じた。


「……今の……どこへ……?」


 カイは目を細めた。

自分の体の内側で、何かが“位置を決めようとしている”感覚があった。


 痛みでも熱でもない。

ただ、自分の名前が世界のどこかへ置かれようとしている時の、あの奇妙なざわめき。


 影が静かに言った。


「リーナ。あの文字は消えたんじゃない。世界の“基盤層”に保存された」


 アークは空気の流れを観察しながら続けた。


「基盤層は、世界の設計図が置かれる場所だ。そこに文字が入ったということは……カイの存在が“仮登録”されたということだ」


 セイルはリーナの肩に触れた。


「まだ正式じゃないよ。でも、世界がカイを扱う準備を始めたのは確かだね」


 リーナは息を呑んだ。


「……仮登録……?」


 カイはリーナの手を握った。


「リーナ。俺は今……世界の“下書き”に書かれてる」


 リーナは目を見開いた。


「……下書き……?」


 カイはゆっくり頷いた。


「本登録じゃない。でも、世界が俺のために“ページを割いた”のは確かだ」


 その瞬間、アステルの空気が、まるで誰かが遠くで紙を折りたたんでいるような音を立てた。


 影が顔を上げた。


「……折り目ができている……」


 アークは空気の層を見つめた。


「リーナ。世界が新しい領域を作っている。折り目は、世界が“区画を分ける”ときに現れる現象だ」


 セイルはリーナの手を握った。


「つまり……カイのための区画が作られてる」


 リーナは震えた。


「……カイの……区画……?」


 カイは静かに言った。


「リーナ。世界の中に……俺が立つ場所ができ始めてる」


 リーナは胸に手を当てた。


「……本当に……?」


 カイは頷いた。


「世界が俺を扱うための“枠”を作ってる。まだ名前は書かれてないけど……枠ができたということは、世界が俺を受け入れる気になってるってことだ」


 その時だった。


 アステルの地面に、細い線が走った。


 線は光でも影でもなく、世界が自分の内部を区切るときに現れる“境界線”だった。


 影が息を呑んだ。


「……新しい領域が生成されている……!」


 アークは核の中心を見つめた。


「リーナ。きみの選択が……世界の地図を描き直している」


 セイルはリーナの肩を抱いた。


「もう後戻りはできないよ。世界は、きみの願いに合わせて進んでる」


 リーナは震えながらカイを見た。


「……カイ……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナ。世界の中に……俺の“居場所”ができた」


 リーナの瞳が揺れた。


「……居場所……」


 カイは静かに言った。


「まだ名前は書かれてない。でも、世界が俺のために“空白の区画”を作った。そこに何を書くかは……リーナの核が決める」


 リーナは息を呑んだ。


「……私が……決める……?」


 カイは頷いた。


「リーナの核が示す方向が……俺の存在の形になる」


 リーナは震える声で言った。


「……じゃあ……私が選んだら……カイは……世界に……?」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナ。きみが選べば……俺は世界に“正式登録”される」


 リーナは涙をこぼした。


「……正式登録……」


 カイは微笑んだ。


「そうだ。世界の地図に、俺の名前が刻まれる」


 その瞬間、アステルの空気に、新しい“記号”が浮かび上がった。


 それは文字でも数字でもなく、世界が新しい人物を迎えるときに現れる“識別印”だった。


 影が驚いた声を漏らした。


「……識別印が出た……!」


 アークは核を見つめた。


「リーナ。これは……世界がカイを“個体として扱い始めた”証拠だ」


 セイルはリーナの肩を抱いた。


「きみの願いが……世界の形を変えてる」


 リーナは震えながらカイを見た。


「……カイ……世界が……あなたを……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナ。世界が俺を“ひとりの人間として扱う準備”を始めた」


 そして、アステルの空気に浮かんだ識別印が、ゆっくりと“名前の形”へ変わり始めた。


 アステルの空気に浮かんだ識別印は、しばらく宙に留まっていた。


 まるで、世界がその印をどう扱うべきか考えている、そんな間があった。


 リーナは息を止めて見つめた。

印は文字でも記号でもない。

ただ、世界が「誰かを迎えるとき」にだけ現れる、特有の“形の前兆”だった。


 カイはその印を見ながら、胸の奥に奇妙な感覚を覚えていた。


 自分の体の内側で、何かが“席を探している”。

落ち着く場所を求めて、世界のどこかをノックしているような感覚。


 影が静かに言った。


「……あれは、世界が“名前を書く準備”をしている印だ」


 アークは印の周囲の空気を観察しながら続けた。


「リーナ。きみの核が示した方向に合わせて……世界が新しい人物欄を作っている。その欄に、カイの名前が入る」


 セイルはリーナの肩に触れた。


「まだ文字は現れないよ。名前を書くには、世界が“その人の輪郭”を理解しないといけないからね」


 リーナは息を呑んだ。


「……輪郭……?」


 カイはリーナの手を握った。


「リーナ。俺は今……世界に“形を説明している”状態なんだと思う」


 リーナは目を見開いた。


「……説明……?」


 カイはゆっくり頷いた。


「世界は、俺がどういう存在なのか知らない。だから、俺の内側から少しずつ情報を読み取って……“この人はこういう人間だ”って理解しようとしてる」


 影が補足した。


「世界は、カイの存在を“データとして扱い始めている”。まだ粗いけれど……確かに読み込んでいる」


 アークは空気の層を見つめた。


「リーナ。きみの選択が、世界に“新しい人物情報”を流し込んでいるんだ」


 セイルは優しく微笑んだ。


「だから、世界はカイを迎える準備をしてる」


 リーナは震える声で言った。


「……じゃあ……カイは……世界に……?」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナ。まだ“人として登録”されたわけじゃない。でも……世界が俺のために“情報欄”を作った。そこに何を書くかは……リーナの核が決める」


 リーナは胸に手を当てた。


「……私が……決める……?」


 カイは頷いた。


「リーナの核が示す方向が……俺の存在の形になる」


 その時だった。


 識別印の周囲に、細い線が浮かび上がった。


 線は文字ではない。

ただ、世界が“名前を書くための枠”を作るときに現れる、特有の“下書きの線”だった。


 影が息を呑んだ。


「……名前欄が形成されている……!」


 アークは核の中心を見つめた。


「リーナ。きみの選択が……世界の地図に“新しい人物枠”を描いている」


 セイルはリーナの肩を抱いた。


「もう止まらないよ。世界は、きみの願いに合わせて進んでる」


 リーナは震えながらカイを見た。


「……カイ……名前が……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナ。世界が俺を“ひとりの人間として扱う準備”を始めた」


 識別印の周囲の線が、ゆっくりと形を変え始めた。


 曲線が伸び、角が生まれ、空白が整えられていく。


 それは、世界が“名前を書くためのスペース”を整えている動きだった。


 リーナはその変化を見つめながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……カイの……名前が……」


 カイは静かに言った。


「リーナ。世界が俺の名前を書く準備をしてる。でも、最後の一筆は……きみの核が決める」


 リーナは息を呑んだ。


「……私が……カイの名前を……?」


 影が頷いた。


「リーナ。きみの核が選ぶ“願いの形”が……カイの名前になる」


 アークは空気の流れを見つめた。


「世界は、きみの感情を読み取っている。その感情が、カイの名前の“意味”になる」


 セイルはリーナの手を握った。


「リーナ。きみが何を願うかで……カイの名前は変わる」


 リーナは震える声で言った。


「……カイ……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナ。きみが選んだ願いが……俺の名前になる」


 そして、名前欄の上に、最初の“音の欠片”が浮かび上がった。


 それは文字ではない。

ただ、世界が“名前を生むとき”に最初に現れる、音の前兆だった。

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