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予知能力で彼女を寝取られる未来を見た ~諦めて他のSS級美少女たちを救ってたら、なぜか執着され始めた件~  作者: おなきく


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第19話 黒髪ロングと黒タイツ

「はぁ、はぁ……」


 俺はベッドから跳ね起き、荒い息をついた。

 今回の『悪夢』は結月ゆずきでも小森こもりさんでもない。

 誰かは分からないが、うちの学校にいる黒髪ロングの女子生徒だ。


(忘れないうちに、早く整理しておこう)


 机の前に座り、ノートを広げた。

 肝心なのは、誰かが屋上かそれに準ずる高所から飛び降りたことだ。

 誰かに突き落とされた可能性もある。

 しかし、ほんの一瞬目が合ったあの空虚な瞳は――


(十中八九、自殺だ)


 誰なのか特定できるような、他の手がかりはないか?

 俺はできる限り、夢の記憶を呼び起こそうとした。


 だが、すべてがあまりにも一瞬の出来事だった。

 髪型以外、容姿の手がかりは何も残っていなかった。

 おまけに、地面に落ちた後も顔を伏せていたため、学年を示すリボンの色すら確認できなかった。


(これじゃあ、雲を掴むような話だな……)


 誰なのか分からなければ、助けたくても助けようがない。

 小森さんのようにうちの学校では少し珍しい髪型ならともかく、黒髪ロングは何十人もいるだろう。


 せめて体格や服装で特徴的な点はなかったか。

 目を閉じ、血を流してうつ伏せになっている女子生徒の姿を思い浮かべた。


(黒タイツくらいか……)


 だが、これもそれほど強力な手がかりとは言いがたい。

 女子生徒ならよく穿いているものだからだ。


 それでもひとまず、思い出すままに夢の中の光景を一つ一つスケッチした。

 倒れているため確かめようがないが、顔は小さく、スタイルは抜群で、いわゆるモデル体型だ。

 加えて、女子にしてはかなりの長身のようだ。


(いや、ちょっと待て。服装に何か違和感が……)


 俺を含め、教室にいる全員が夏服だ。

 リボンの色や数学の授業の内容からして、1年生――つまり今年の出来事である可能性が高い。

 そして今の俺の席は窓際ではないのに、夢の中では窓際だった。

 となると、高い確率で席替え後——つまり2学期のはずだ。


(だとしたら、9月中か?)


 うちの学校は10月1日を境に、夏服から冬服へと一斉に衣替えをする。

 つまり、1年生の2学期に夏服を着ている時期は今年の9月に絞られる。

 飛び降りたあの女子生徒も、夏服を着ていた。


(……ん? 夏服に黒タイツ?)


 タイツといえば防寒具の類だ。相応に暖かいはずだ。

 夢の中のあの女子生徒は、夏用の薄いストッキングではなかった。

 残暑の厳しい9月に黒タイツなんて、どう考えても暑すぎる。


(とりあえず、このくらいの手がかりで誰なのか探してみるか)


 今までいろんな『悪夢』を見てきたが、自殺は初めてだ。

 正直なところ、この女子生徒の選択を俺が止められるかどうか、分からない。

 それでも、この形容しがたい不気味さを振り払うために、できる限り手を尽くそうと思った。



 ◇



 今朝も小森さんがうちへ来てくれた。

 今回は昨日の夕食の時と同じく、杏奈あんなちゃんも一緒に。


 小森さんはなぜか、ひどく緊張したような顔だった。


「そ、その……れ、れん! お、お、おはよう!」

「あ、ああ。っていうか、名前で呼ぶことにしたのって、ラインの中だけじゃなかったのか?」

「え? そ、そうなの!?わ、私、てっきりどこででもそうするんだとばかり……」


 彼女はあからさまに落胆し、がっくりと肩を落とした。

 ああ、しまった。ミスった。

 彼女にとって、俺はもう二人目の友達どころか『唯一の友達』だったな。


「小森さんがいいなら、別に構わないけど。和花のどか。どう?」

「あ、うん! やっぱり友達同士なら、こうじゃなきゃね。そうでしょ、杏奈?」

「お姉ちゃん、私友達いないから分からない」

「大丈夫、杏奈にも友達できるわよ!」


 小森さん、いや、和花が得意げな顔で腰に両手を当てた。

 自分の妹相手にマウントを取ってどうするつもりだ……。


 やがて和花が台所に入り、朝食の準備を始めた。

 俺と杏奈ちゃん、そして母さんは、リビングで会話をしながら待っていた。


「俺が言うのもなんだけど、母さんも和花を手伝った方がいいんじゃない?」

「私も手伝おうとしたのよ。でも、ものすごく丁寧に、一人でやった方が早いからって言うんだもの」

「たぶん、和花はもともと内向的だから、一人でやるのに慣れていてそう言ったんだよ」

「そうなのね。私が不器用だからじゃないわよね?」


 それも全くないとは言えないだろうが、さすがに正直に答えることはできなかった。


「それよりあなたたち、案外進展が早いのね?」

「何の進展だよ」

「だって、昨日の夕食の時まではお互い名字で呼んでたのに、今日急に名前で呼んでるじゃない」

「まあ、和花がそうしようって言ったからさ」

「あら、内向的とは言っても和花ちゃんってグイグイ押してくるタイプなのね?」

「……悪いけど母さん、俺と和花はそういう関係じゃないよ。変な期待しないで」


 結月の時もそうだったが、うちの母さんは息子の恋愛事情に興味津々すぎるみたいだ。

 それとも、母親という存在はみんなそういうものなのだろうか。


 母さんが振り返り、台所の和花をちらりと見てから言った。


「そうかしら? 女の勘が告げているわ。あれは絶対に、恋のサインよ!」

「母さんの女の勘、一度も当たったことないじゃん。信頼度ゼロだよ」


 なにしろ、通りすがりのごく普通の兄妹をカップルだと勘違いしたことすらあったのだ。


 杏奈ちゃんが会話に割り込んできた。


「でも確かに、お姉ちゃん、あの事故の後からさらにおじさんのこと気にしてる感じだよ。ここのインターホン鳴らす前に、何度も鏡で前髪とメイク確認してたし」

「ほら、私の勘が当たってるじゃない!こりゃあ、あちらの親御さんに私が一度ご挨拶しておかないとね」

「……」


 なぜか二人が盛り上がれば盛り上がるほど、否定したい気持ちが強くなっていく。



 ◇



 今日も美味しく朝食をいただき、家を出た。

 少し遠回りになるが、まずは杏奈ちゃんを小学校まで送ってから、うちの学校へと向かった。


「そういえば深川——。いや、れ、蓮は体育祭に参加できないわね」


 和花はまだ、新しい呼び方に慣れていないらしい。

 こういう姿も可愛いから構わないが。


「まあ、そうだな。大人しく応援でもしてるよ」

「あ、言っておくけど、私が出る時は応援しなくていいからね! 私、ああいう時に名前呼ばれると逆に緊張するんだから!」

「そうなんだ。分かった、全力で和花を連呼するよ」

「私の話聞いてた!?」


 体操服姿で顔を真っ赤にしながら、俺に抗議してくる姿が目に浮かぶ。

 正直、体を動かすのはあまり得意じゃない。

 体育祭もどちらかといえば苦手な部類だ。

 それでも今年は少し楽しみだった。


「和花が必死に走る姿、カメラにしっかり収めておくよ」

「小学生か!? それに私、徒競走には出ないんだけど!?」


 うむ、今日のツッコミは満足のいく鋭さだ。


「あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「うちの学校の女子で、黒髪ロングヘアで、モデルみたいに背が高くてスタイルが良くて、夏服でも黒タイツ履いている子、知らない?」

「なんか妙に具体的で、ちょっとキモいんだけど……」


 確かに俺が自分で考えてもそう思うが、仕方ない。

 俺の評価が多少下がったとしても、あの『悪夢』を阻止するためなら甘んじて受け入れるつもりだ。


「とにかく、その女子が誰なのか知りたいんだ」

「なんで? もしかしてナンパする気?」


 和花が俺を睨みつけた。


「なんだよ、ヤキモチ?」

「ち、違うわよ! なんで私があんたなんかに!」

「だろ?だから、もし知ってたら教えてくれないか? お礼はするからさ」


 基本的に彼女は根が優しい。

 お礼を要求するにしても、俺が本当に困るようなものは選ばないだろう。

 俺としては、いっそ何か物を買ってくれと言われるのが一番手っ取り早くて楽なのだが。


「別に隠すつもりはないんだけど……。蓮、あんたは私のこと誤解してる」

「誤解?」

「私、女の子相手でもフリーズしちゃうの! だから女子のことも全然詳しくないわよ!」

「……」


 結月だって、すぐに友達を作れるタイプではない。

 一体どうやって二人が友達になったのか、今となっては不思議なほどだった。


 俺は冗談めかして言った。


「この役立たずのエセギャル」

「エセじゃないわよ!25%はギャル成分入ってるんだから!」

「そのクォーターギャル、いつになったらハーフに進化すんだよ」


『悪夢』の中のあの女子生徒を見つけるまで、かなり時間がかかりそうだった。



 ◇



 教室に入るや否や、今日も視線が突き刺さった。

 それでも高木たかぎだけはいつものように、

「おっす」

 と普通に挨拶してくれた。


「今日も小森さんとラブラブだな」

「俺と和花はそういうのじゃないってば……」

「なんだ、いつの間にか名前で呼ぶようになったのか?」

「今日からな。いや、正確に言うと昨日の夜からか?」

「昨日の夜からお互い名前で呼ぶようになった二人……。はっ、まさか!?」

「違うからな」


 まさか高木にまで、そんな目で見られるとは。

 そんなにカップルみたいに見えるのか?

 正直、俺も女友達が結月以外にいなかったから、普通の女友達というのがどんな感じなのかよく分かっていないのも事実だ。


「そういえば高木、お前うちの学校の女子のことなら何でも知ってるだろ?」

「いや、お前俺のことどういう目で見てんだよ!?まあ、可愛い子なら大体知ってるけどな。何でも知ってるわけじゃない。知ってることだけだ」

「逆にそう言われると、本当にすべて知ってそうな気がするんだけど」


 和花に話したのと同じように、夢で見た女子生徒の特徴を並べ立てて尋ねてみた。

 もし高木でも知らないとなれば、本当に特定するだけでかなりの時間を使うことになる。

 もしかすると、また私立探偵を雇う羽目になるかもしれない。


「あ、それってもしかして2年のあの先輩じゃないか?」

「2年の先輩?」

「ああ。結構有名だぜ? 二つ名もあるくらいだ」

「二つ名?」


 高木が頷きながら答えた。


「中二病の先輩」


 ……色々と一筋縄ではいかないだろうと痛感した瞬間だった。

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