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幽霊は考える葦である。―Post-Mortem Cognitive Entity Analysis―  作者: 猫大。


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第4話:警備員・佐山透

俺の名前は佐山透。

社長が自力で天井に張り付くCMで話題になった、ラガードマン警備保証(株)に勤めている。


社長いわく、「天井に手のひらを押し付けて、手の中の空気を抜けば簡単だ」とのこと。

……いや、簡単じゃねぇだろ。

だが、俺もいつかあの域まで筋肉を鍛えるのが目標だ。俺が最も尊敬する男である。


我が社は、一般家庭のセキュリティから要人警護まで幅広く請け負う警備会社だ。

そんなある日、とある山奥の屋敷でセキュリティシステムが反応した。



『警告。二階応接室にて衝撃を感知。』

『推定原因:物理的破壊。』




その屋敷は、大手製薬メーカー・ペルセポ製薬の所有物。

人里から離れ、車で片道二時間ほどの山中に建てられている。

歴史的建造物らしいが、交通の便の悪さから今は使われていない。

もったいない話だが、あんな山道を毎日二時間も通うのは確かに地獄だ。


とはいえ、こういう場所ほど泥棒やイタズラ小僧の標的になる。

到着まで時間がかかるが、確認は必須だ。


気になるのは、衝撃検知のわりに玄関や窓のセンサーが異常なしなこと。

まぁ古い建物だし、吊り戸棚でも落ちたのかもしれない。

そう思いながら、俺はハンドルを握り直した。


舗装されているとはいえ、山道ドライブはなかなか骨が折れる。カーブの先に妙にデカい人影が立っていた。……猿? いや、あんなサイズの猿は聞いたことがない。目を瞬かせた一瞬でそいつは藪の中へと消えた。もしかしたら、ただ茶色いヤッケを着て山仕事をしていた男を見間違えたのかもしれない。鉈のような物も持っていた気がする。前に出会った山菜採りの老夫婦も似たような格好をしていたな。もっと明るい目立つ服を着ないと猟師に獣と間違えられそうだ。それにしても、いい筋肉だった。俺も負けてないけど。


やがて視界が開け、立派な門構えと趣のあるお屋敷が現れた。


「こちら佐山。今門の前に着いた。ぱっと見、異常はなさそうッス。どうぞ」


「了解。こちら安藤だ。ボディカメラとテイザーの準備を行え。」


「了解。」


近年、犯罪の凶悪化で警察や俺たち警備員にもボディカメラとテイザーの所持が義務化された。訓練では使うが、実戦で撃てば報告書大変な事になるので使わない方が良いに決まってる。まぁ、鋼の肉体の前では暴徒ごときは無力だが。


「準備完了。今から玄関に向かいます。にしても、お化けでも出そうな屋敷っスねーー」


「了解。なんだ佐山お前、幽霊とか駄目だったか?」


「ゾンビとかなら殴れるッスけど、幽霊は無理ッス。パンチすり抜けるじゃないッスか。あと、シンプルに怖いッス」


「ああ、確かになぁ。まぁ、そんな物はいないから大丈夫だ。それよりも人間の方が怖い。油断するなよ。」


「了解です。」


預かった鍵で玄関ホールの扉を開く。意外な事にすんなりと開いた。長年使われていないため、少し埃っぽいが綺麗にしてある。カーテンが閉まっているためか、中は昼間でも薄暗い。広いホールの正面には立派な手摺の階段が2階へと続いている。如何にもな雰囲気に身震いする。ビビってる訳ではない。これは武者震いというやつだ。


「ホールに入りました。特に異常はないようです。

足跡とかも無さそうッス。」


「了解。引き続き2階の応接室に向え。上がってすぐの部屋だ。」


「了解。はぁー、気が重いッスねー。」


「まだそんな事言ってるのか。ウサギちゃんめ。大丈夫だ。無線で俺が着いてる。」


「誰がウサギちゃんッスか。」


「すまんすまん。お前はどっから見てもゴリラだな。」


「誰がゴリラだ。帰ったら見てろよ。」


無線で軽口をたたきながら2階へと歩みを進める。

積もった埃に自分の足跡だけがくっきり残っていく。


2階に上がると応接室のドアが中ほどでへし折れており、その破片とガラス片が散乱していた。


「あー、これは思ったより酷いっスね。ドアがもうめちゃくちゃッス」


「ーーーザザ…なんd…って…ザザザ」


「……安藤さん?聞こえてます?」


「ーーザザザザ…せよ…」


「マジかよ。こんな時に……」


ノイズだけが流れ続ける。

まるで壊れたラジオのような、耳障りな音。


「ーーーザザザァァ…aaaAA…もうす…」


女の声が、混じった。

一瞬だけかと思ったが違う。はっきりと聞こえる。


「ーーザザザ……おた…の…みもうすぅぅ…」


懇願するような声。

その瞬間、視界の端に"何か"が映った。


半壊したドア向こう。

薄暗い部屋の奥に、長い髪の女が跪いていた。

祈るような姿勢で、こちらに背を向けたまま__



一瞬、女の身体がビクンと震えた。

と思った瞬間、そこにはもう誰もいなかった。


……見間違い、か?

無線が途切れたせいでパニックになってるだけだ。


ふーー……いつの間にか全身に力が入っていた。

ゆっくり息を吐いて、肩の力を抜く。


「ーーザザザ……け…て……たす…け…て」


無線から、女の声。


恐怖で身体が固まる。

部屋の中央――そこにいなくなったはずの女の"生首"があった。

天井から、こちらを見下ろしている。



本能が逃げろと叫んでいるのに、足が鉛みたいに動かない。

…息が、できない。

心臓だけが煩いぐらい鳴っている。



あ、ダメだ。意識が……遠のくーー。






「……くん…佐山くん! 佐山くん、応答せよ!」


無線の声で、ハッと目が覚めた。


「あれ……?峯藤部長?」


「良かった!佐山くん大丈夫?」


「あれ…?オレ、気絶して…た? てか、安藤さんは?」


「君と連絡が取れなくなったって、安藤君が私を呼びに来たのよ。

安藤君は今君を迎えに行く準備をしているわ。気絶してたって、大丈夫なの?」


「大丈夫ッス。あ、でも、あいつは…」


起き上がって、部屋を隅々まで見回す。

そこにはーー誰もいなかった。



その後オレは峯藤部長が呼んだドクターヘリによって病院へと運ばれた。

大げさだと言ったが、気を失った俺を心配してくれた峯藤部長を無碍にはできなかった。

美人に心配されて悪い気はしない。

念の為、3日間の検査入院を言い渡される。

ベッドの上で、あの時見た"少女の顔"を思い出そうとするたびに、胸の奥がざわついた。すべてを諦めた絶望した顔。



「やっぱり、あれは見間違いだったのだろうか。」

病室の窓の外では、山向こうに夕日が沈みかけていた。

その光の中に、一瞬だけ、"あの少女"の髪が揺れたように見えた。














「……峯藤です。警備員1名が"零三九八号"に暴露しましたが、生還しています。

彼は現在、検査のためペルセポ医院に入院中です。

……ええ、了解しました。

現時点では収容違反の兆候はありません。

"彼女"の覚醒を確認。監視プロトコルの立案と、"結界"の即時点検を開始します。」


デスクにあるモニターにはボディカメラの映像と複数のファイルが映し出されていた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


ゾンビは殴れるが幽霊は無理。

そんな佐山透の受難回でした。

社長は化け物だと思います。


次回もよろしくお願いします。

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