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大型トラックはお父さんが運転?!


 この物語の3話目には、

 一日目のキーワード「東京」 

 二日目のキーワード「夢見がち」 

 三日目のキーワード「お父さん」 

 四日目のキーワード「成層圏」

 五日目のキーワード「高橋」

 六日目のキーワード「コンパス」

 七日目のキーワード「青春」

 八日目のキーワード「間取り」

 九日目のキーワード「大型トラック」が使われています。


 水族館の従業員通路から外にある駐車場へ向かう私たちに向かって、お母さんが競歩の選手のようにやって来た。


 電子コンパスから私の異常を感知したお母さんが、タクシーを急がせて駆けつけて来たのだ。そして私と⋯⋯素っ裸の高橋君を見て目を回して倒れてしまった。空気の抜けた風船人形の崩れるような感じで、頭は打たずに済んだ。


 私はお母さんの近くに座り込む。高橋君に手伝ってもらい、倒れてしまったお母さんの頭を太ももに乗せた。白衣とか社員証とか身につけたままだ。いつも使っているバッグが何かちぐはぐに映り、慌てて会社を飛び出して来たんだなと思った。


「碧衣、ちょうど新品でサイズの合いそうなものがあった⋯⋯うぉっ、春夜(はるよ)がなんでこんな所で倒れているんだ」


「たぶん私の恋の魔法が解けたせい」


「はぁ? 意味がわからないって」


 高橋君の変身後の姿に幻滅し興醒めしたせいで、ときめく心音が途絶えた。ずっと興奮状態が続いて鼓動が早まっていたのが、冷静になって落ち着いたために、私に何かあったとお母さん勘違いしたんだ。


「崩れ落ちる感じだったから、頭は打ってないよ。お母さんが目を覚ます前に、高橋君にその作業服貸してあげて」


「あっ、あぁわかった。高橋君、服の着方わかるよな」


 高橋君はコクリと頷き、お父さんの持って来た作業服を受け取って着る。パンツは流石になかったみたい。


「お父さん、お母さんを休ませる場所ある? 人の来ない部屋がいいな」


「別棟のミーティングルームがある。高橋君、手伝えるか」


「肩を貸せばよいのじゃな」


 すっかり打ち解けているおじさん二人。お父さんの許容範囲は案外広いようね。さすが珍妙な生物を受け入れる飼育員だわ。高橋君にお母さんから会いに来てくれたから、手間は省けたね。


「⋯⋯もしもし、被験体AO−1です。⋯⋯はい、大丈夫です。⋯⋯落ち着いてから戻るそうです」


 お母さんのスマホを使い、会社に連絡しておいた。碧衣だから「AO−1」 って、研究者なのに安易過ぎだよね。


「⋯⋯大人の対応するお嬢ちゃんも、大概だと思うのじゃよ」


 高橋君の言葉にお父さんが頷く。何でこんなに仲良くなってるの、このおじさんたち。私より長い付き合いとでも言いたいわけね。


「何を言ってるんだ碧衣は。前から思っていたが、高橋君の事も含めて言動がおかしいぞ」


 お魚さんと成層圏にしか興味がないお父さんだった人に言われたくない。生物学上は間違いなくあなたの娘だから、変わっていて当然だよ。


 私が小学生にしては変わっている理由は他にもあるの。高橋君の光輝く変身時のショックで、色々思い出したよ。青春の⋯⋯アオハル時代の初恋は酸っぱいだけで実らないっ本当だったよ。


 私の感情の揺れ幅が大きすぎて、心理ダメージが思った以上にあったのがわかる。データを受け取るお母さんが、慌てて飛び出すわけだわ。


 十名くらいで使う小さなミーティングルームの長テーブルの上に、お姫様のように横たわり眠るお母さん。イケメンのおじさんと、別れたとはいえ好きだったおじさん二人が心配そうに見つめる。奇妙な構図⋯⋯でも、おかげで未来が開けそうだよ。


「ん⋯⋯ここは⋯⋯」


 お母さんが目を覚ました。言葉はまだ寝ぼけた様子なのに、カッと目を見開く。母親ながら怖い。近くの椅子に座る心配そうなお父さんを見て、すぐに現実に思考を合わせたのだろう。露骨に嫌そうな表情になった。


「碧衣が無事なのは良かったわ。それで⋯⋯そのやたらと格好良い、紅い髪の男性は誰なの? そのイケメン⋯⋯高橋君って、聞こえたのは気のせい?」


 お母さんから見てもイケメンはイケメンなんだ。珍しく言い淀んでいるよ。


「これは高橋君が残念イケメンに変身した姿だよ」


「残念とは何じゃ。美声と美貌を兼ね備えた完璧な姿じゃ」


 成層圏にまで届きそうな美しい声色。声が通るって素敵なのに、じっちゃんなのが残念だ。深海って暗いけれど、この声のように透明度が高いのかな。海の中では赤は目立たないのに、この高橋君の残骸は目立ち過ぎなのよ。


「どういう事か、説明してくれないかしら?」


 お母さんが長テーブルの上でセクシーポーズになりながら、お父さんを睨む。真顔だから怖いって。


「俺もよくわからん。ポップコーンを買いに行って戻って来た所に、この高橋君が碧衣といたんだ。深海魚コーナーの新種のおじさんの代わりに⋯⋯」


 お父さんは見たままの事実を語っているのに、ギロッとお母さんに睨まれて萎縮する。誰も何も悪くないの。強いていうのなら、イケメンになって現れた高橋君くらいだ。あくまで私に対して、ね。高橋君ショックのおかげで、私の恋は破れたけれど、お母さんにも強い衝撃を与える事が出来た。


 人間頭がパニックになると、それまでの感情の関係性が、生存のための関係性に切り替わるのね。お父さんへの嫌悪や怒りが薄まって、表情が昔のお母さんになっていた。


「碧衣⋯⋯高橋君の事、話してくれるね」


「碧衣⋯⋯知っている事を全て話してね」


「さて、どこから話そうか⋯⋯」


「そんなミステリーテラーみたいな小学生は、どうかと思うのじゃよ」


 セクシーポーズなままのお母さんを取り囲み、水族館のミーティングルームで家族会議が始まった。


「────私はね⋯⋯東京都内の六畳一間の間取りに住む、ごく普通の小学生だったの。ある日突然交差点でお母さんと一緒に大型トラックに轢かれたの⋯⋯大型トラックを運転していたのはお父さん、あなたよ」

 


 

 お題的に次回が最終回となるはず⋯⋯です。

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― 新着の感想 ―
お父さんの高橋君友達みたいになっちゃったね。 でももう家族?かな。 でもお母さんは信用してくれなさそうだね。 これから先が心配です。
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