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昭和の間取りと幻の銭湯


 この物語の2話目には、

 一日目のキーワード「東京」 

 二日目のキーワード「夢見がち」 

 三日目のキーワード「お父さん」 

 四日目のキーワード「成層圏」

 五日目のキーワード「高橋」

 六日目のキーワード「コンパス」

 七日目のキーワード「青春」

 八日目のキーワード「間取り」が使われています。


 高橋君が水槽から飛び出してピカッと光って輝きが増した。 


「えっ、ウソ⋯⋯! マジで⋯⋯?」


 どうしよう、心の準備ってものがあるのに、高橋君ったらワイルド過ぎだよ!


 輝きが収束して、高橋君はお父さんと同じくらいの背丈の人の形になる。既にイケオジな高橋君が、本当人の姿になるの!?



 ────そうね⋯⋯私たちのスタートは、東京の下町がいいわね。浅草はダメ、高円寺あたりがいいわね。キッチンとお部屋一体型の間取りでお風呂なしトイレ共同の年季の入ったアパートがいいわ。近くのお風呂屋さんで先にお風呂から出て来た高橋君に向かって、私は「待った?」 って顔を蒸気させながら言うのよ。


 「僕もいま出て来た所さ」


 渇き切っていない、もっしゃもしゃの頭をかきあげながら、高橋君がそっと私を抱きしめてくれるのよ────


 

 ────あぁ⋯⋯もう結婚するしかないよね? ドキドキしながら高橋君からの告白を待っている私の前に現れた姿は、キラキラ爽やかなイケメンだった────一糸纏わぬ姿の。


「⋯⋯何してくれてんのよ高橋君?」


 高橋君が私の夢見がちな乙女心を容赦なく粉砕してくれたわ。高橋君はね──お母さんが動画で見せてくれた、たい焼き焼いてるようなしょぼくれたおじさん(イケオジ)だから良かったのに。


「いやいやお嬢ちゃん、今時そんな昭和な妄想する小六乙女なんぞいないじゃろ、

青春回想がレトロ過ぎじゃわい」


 喋り方はおっさんというか⋯⋯じっちゃんだったよ。コテコテの。容姿はキラッキラなイケメンで、声はソプラノのじっちゃん。出来れば高橋君に戻ってほしい。もう二度と夢は見ません、高橋君にも会いに来ませんから。


「もう遅い! なのじゃ。それにのう、お母さんに分からせる鍵は、その考えじゃよ──お嬢ちゃん」


「それって何? のじゃ、はロリバーじゃないと可愛くない。それで高橋君だったイケメンが、お母さんに壁ドンでもするの?」


「違うぞい。番になると案外見えてなかった些細な事が気になって来るものなんじゃよ。価値観の違いをどこまで認め合えるのかが勝負じゃ」


 つまりだよ、高橋君を連れて行けばいいのかな。壁ドンさせて価値観壊すの? お母さん、水族館来た事なかったから、お父さんが一所懸命育てたものを見るべきだよね⋯⋯?


 私はときめきを失った胸を押さえ、首からぶら下がるコンパスを両手で握る。お母さんが初めて作った電子コンパスGPS機能付き。私の心音で、生命反応や心理状態がわかるんだって。


 高橋君の得た知識がどからなのかはとりあえずスルーした。私は高橋君にバンドタオルで大事な所を隠させた。暗くても乙女の前でブランブランは良くない。ハンドタオルでは、プルンプルンの艶々な肌は隠しようがない。


「碧衣、ポップコーン買って⋯⋯誰だお前は!」


 暗くても流石に見つかるよね。お父さんが慌てて私の側に駆け寄る。


「お父さんが毎日大事に世話していた高橋君なのに、何故知らないのよ」


「えっ? 高橋君? って、水槽にいない??」


 お父さんの目が泳ぐ。たい焼きだって自由を求めて海へ逃げ込んで、海賊王目指すかもしれないのに、おじさんなら最初から自由人だよね。


「碧衣、わけのわからない事を言ってないで後ろへ隠れて! 娘から離れろ変質者め」


 思考を止め、娘の安全確保第一に走るお父さんは、中々カッコいいと思うの。水族館が空いていて良かった。日頃の感謝を伝えたい高橋君が、お父さんに抱きついた。見たくないよ、おじさんとおじさんだったじっちゃんの絡む絵面。


 ──ハックシュ! 高橋君の身体の構造はよくわからないけれど、館内の冷房で濡れた身体が冷えたみたいね。引き剥がそうと必死なお父さんは高橋君から吐き出される液体を正面から受け止めた。


「碧衣、余計なナレーションしないでくれ!」


「お父さん、これを使うのじゃ」


「えっ? 女⋯⋯?」


 あっ、お父さんがまたフリーズした。私が高橋君に渡したハンドタオルで、高橋君から浴びた唾を拭きながら、目が遠い所を見ている。深海魚コーナーは暗いし、壁があるのでお父さんの好きな成層圏だって見えないよ。


「お父さん、作業服余っていたら高橋君に貸してあげて」


 疲れきったお父さんは無言で着ていた上着を高橋君に渡す。高橋君に抱きつかれ湿っぽいけど、細身のプリプリ肌は充分隠せる。


「従業員通路を使って駐車場へ行ける。先に乗って待っていなさい」


 飼育員としての勘が働くのか、私の様子から害はないと判断したのか、お父さんは私に車の鍵を渡して先に行かせる事にしたようだ。


 娘を信用してくれるのは嬉しい。でも今のこの高橋君とは初対面だし、食べられちゃうかもよ?

 お読みいただきありがとうございます。


 第二話も八日目までのお題全て使用しました。キーワードの抜けはないはず⋯⋯。


 

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― 新着の感想 ―
続き待ってました! やっぱり高橋君かっこいいと思う。 と言うか高橋君信用された!? 私、びっくりだよ。 あ、後もしよかったら私もぬいぐるみゲーマーというお話書いているので読んでみてください。 でも自信…
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