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81.side起源

おじさん主役のお話です。

この話を抜かすと後々につながらなく

なってしまうので、思い切ってえいや!で

おじさん載せます。

そもそも見える人ってマジでなんなの?

鞘ってなに?という秘密の話。


首桃果の秘密全編の半分くらいの秘密が

ここで開示されます。

どうぞごゆっくりお楽しみください。


 その話は長かった。

 寝物語にはあまりに悲しく、初めて話す母親も初めて聞き入る少年も顔を強張らせて見つめ合った。

「かつて、この国の基盤には神道があったのよ。大昔のこと」

 この言葉から始まった不可思議な話は、少年の胸を震わせた。母親は、痛みで動かない少年の首に温かな手を乗せ静かに語る。

 かつてこの国の基盤には、神道があった。

 そして信仰の対象である神の姿を見、声を聞く巫女がいた。

「巫女と呼ばれる神事を執り行う人間は、村ごと、共同体ごとにいたみたいね。でもそれは自然に淘汰されて、巫女と称する者の絶対数は減って行った」

 権力や豪族、地方、中央政治といった単語は中学生の少年には少し早かった。

 しかし母親は、ゆっくりと語り続ける。


 年に数日、少年の体に異変が起こる。母親がそれに気付いたのはつい先ほどだった。

真っ黒な痣が首や足を埋め尽くし、何もない部屋で絶叫しながら息子は逃げ回っていた。

 なぜもっと早く言わなかったのか、せめてもっと幼い頃に教えてくれれば良かったのに。

 そう問い詰めた母親に、少年は痛々しい首をもたげて答えた。

「だって。こんな風になるのは一年に数日、二日間くらいだけだし、ずっと、自分は、ただの異常者だと思ってたから」

 母親は悔いた。激しく悔いておのれを罵った。

 気付きの遅さは母親としての怠慢の罪だけでなく、もっと大きな、途方もなく大きな喪失と悲しみを意味した。

 聞けば自覚の付く幼少期あたりから、「その二日間」は自分の部屋のベッドにこもって病気のふりをしていたと言う。忙しい自分は気付かなかった、それはただの言い訳だ。

「いつだったかなあ……。何となく発見したんだ、対処法。今日はたまたま、予兆もなくいきなり始まったから、パニックになっちゃったけど」

 予兆とは、視界が霞みぼんやりと「影」のようなものが見え始めることだと言う。

そして予兆に気付くとすぐさま、脚にハンカチを巻いたベッドにこもる。そうすればあまり害は為されない。かなり早い段階で少年は発見したらしい。

 本人が極限状態で編み出した偶然の知恵も、親にも言えずたったひとりでこの年齢までやり過ごして来た驚異の胆力も、こうなってみれば切なさと悔恨だけが残った。

 そうでなくとも、常日頃から少年の「勘」とも言うべき五感は異様に鋭かった。

 あっちは行きたくないと駄々をこねてバスに乗らなかった後は、凄惨な交通事故がニュースで流れる。「ふと、何となく」選ぶカードやくじは必ず当たりだった。

 この子は鞘だ。

 抜き身だった剣はもうない。鞘だけが残った。

 ごめんなさい、ごめんなさいと心の内で詫びながら、母親は浮かんだ涙を拭って話を続けた。 


「そうして、淘汰の後に本物の巫女だけが残ったのよ」

台頭する者が権を握り、権力が集中して行くごとに抱える巫女の数は減る。より力のある巫女を欲しがり、権力者たちは覇を争った。

 そして最後に、絶対的権力を握る者の足もとに絶対的力を備えたひとりの巫女が現れる。

 神力鋭敏にして聡明、巫女一族の始祖となる女の名は阿玖似、あぐにと言う。

「それから、巫女はその一族からしか生まれなくなったのよ。しかも不思議なことに、女系の遺伝のみ。巫女の力は女しか受け継がなかったの」

 女体信仰説など様々あるが、その理由は定かでない。だが話を聞く少年にとっては、「女のみ」という言葉で十分だった。

 巫女一族は権力者の寵愛を受け、また寵愛を受け続けるためにその閉鎖的繁栄を確固たるものにして行く。

 神の声を聞くのか見えざる者の声を聞いているだけなのか、まるで妖魔のごとき耳で変異を告げた。人には見えぬものの姿を見、吉凶を占った。


 いつからか、彼女らは畏怖を込めて、「見人」、「見える人」と呼ばれるようになる。

 また、「見人」と同音にして神力闇を裂く一閃の刃先の意、神代の神器「剣人」とも表した。

 見人、剣人は国家の地底に脈々と流れる信仰の軸となる。


「……でね。ここからが、大切な話よ」

 母親は、布団の上から少年の腹を優しく擦った。

 真っ黒な痣を浮かべた、大人になる直前の痩せた腹を。

「その血を守るためにね、一族で女の子が生まれるとまずその体を確認するのよ。体中に黒い痣が浮かんでいたら、巫女。浮かんでいなかったらただの女で、すぐ他家に出された」

 始祖阿玖似あぐにから続く見人の力は、必ず次代の女に出現する。

 当初、同世代に生まれた何人もの赤ん坊にそのきざしが現れていた。しかし権力の分散を恐れ、もっとも痣が濃い赤ん坊を巫女とした。つまり、その他の候補の女児は間引かれたのだ。

「そうやって、闇から闇へ女の子を葬ってね。そうしたら不思議なもので、遺伝子が生き残るために変異するのかしら、見える女の子はひとりずつしか生まれなくなったの」

 見える女は各世代にひとりのみ。

 その他に生まれる子は男か見えない女で、一族の支配頭は完全集中の形を成した。

「ひとつの世代に、見える人は必ずひとり。見える人が死ねば次の見える人が生まれる。これは絶対のルールになったの。……だから、見える人は、自分と同じ見える人には、どうしても会えないのよ」

 巫女が死ぬと次の巫女が生まれる。ごくたまに、巫女の存在が重なることもあったが、やはりお互いに逢うことは叶わなかった。その場合は決まって、次代巫女の赤ん坊が生まれた時には現巫女は老衰もしくは病、見えざる者どもからの迫害で命の灯火が消える寸前であり、立ち上がることもできなかったからだ。

 それはとても悲しくさみしいことだと、母親は穏やかに言った。

「見人、見える人はね。そりゃあさみしくてさみしくて、辛かったのだと思うわ。だって、同じものを見る人が自分以外にどこにもいないのだから。自分だけが見える聞こえる、他は見えない。とても辛いわ、そうでしょう」

 少年は頷く。頷く拍子に、涙が一粒こぼれた。

「生まれた瞬間に運命が決まって、死ぬまで生涯屋敷を出ることはない。日々見えざる者たちの声を聞き、見たものを占い、結婚も出産もできずに逃げることさえ許されない。……だから確かに、彼女たちは可哀想だったと思うわ。うん、そうね。可哀想だった」

 母親はそう言いながら、少しだけ悔しそうな顔をする。そして少年の涙を拭った。

「そんな代々の巫女の悲しみが再び遺伝を操作したのかしら。不可思議な秘密が、またひとつ現れたの」

 巫女が生まれる。

 そうすると時折、寄り添うようにして一族の中に変わった人間が生まれるようになった、と言う。

 その者は、見えるでもなく聞こえるでもない。わずかに見える者もいたが、それは幻影に近く輪郭すらはっきりとはせず、見える人とは到底呼べない神力のごく低い者だ。

「見えない聞こえない者が多かったみたい。でもぼんやり見えたり、……ごく短い期間、そうね、例えば『年に数日』とか。それだけの間、見えたり聞こえたりするだけの者もいたみたい」

 ただ、その者は勘が常人に増して異様に鋭く、胆力強靱で正道の理を知っていた。

 まさに奇術とも思えるような勘と胆力知力で、孤独にさいなまれる巫女に道を説く。


 見える人の孤独を知り恐怖を覚えず、常に傍らに寄り添うその者は、いつしか「剣人」に対して鞘の人、「鞘人」と呼ばれるようになる。


「……」

 少年は目を見開いて黙った。

 母親は悲しげに笑い、「……あんた、のことよ」と涙混じりにささやいた。


おじさん主役ですが最年少鞘子も出てくるので

±ゼロです。

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