表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/184

42.もうひとつの言霊5(いつかの日)

もうひとつの言霊5



 大丈夫、絶対に、とささやくと青年はやっと小さく笑んだ。

 そして手拭いの片割れを握り締め、「もういく。おひるね終わるから」とどこか気の抜けた声で言う。

「ちょっと待って。いまおばちゃんが、帰り道に付き添ってくれるおまわりさんを呼ぶから」

 ごく幼い子どものように跳ねて立ち上がる背中に、慌てて携帯を取り出す。


「ありがと、おばちゃん」

 フリップを開けた瞬間に顔を上げると、すらりとした背筋はすでに真咲の家先の角を曲がっていた。


 驚いて走り、角の先を覗く。

「……やっぱり、大人の男の足ね」

 何とも速い足だったらしく、その姿はもう無い。

 心配の念が残り、道の先をしばらく眺めていると、後ろから弾んだ声が近付いて来た。


「母さん。ただいま、何やってんの。今日バイト先でね、余った肉もらったの。安物だけど」

「……ビーフシチューは勘弁して」

 掃除も洗濯もきちんと教えたのに、この娘は料理だけは不得意だ。まあ、自分が不得意だから責めようがないけれどと真咲は振り返る。

 

 あの足取りなら、きっと彼は大丈夫だろう。


「あんたのシチューは肉が硬いのよ」

「母さんのもね。で、何してたの」

「別に何も。髪、風に乱れてぐしゃぐしゃね」


 娘は二年後、大学を受験すると言う。学びたい学科があるのだそうだ。

「ったく。学問なんて私には分からないわ。卒業だけはしなさいよ」


 家の押入れの大部分を占める、埃を被った古文書たち。捨てられなかったせいで娘は同じ道を進み、結局は生活のところどころに思い出の片鱗が鎮座している。


 記憶の断片は血のように滲み、少しだけ痛いのだけれど。


「……あ、そうだわ。さっき携帯に突然かけて来て。明日、人がひとり訪ねて来るわよ」


「だれ?」


「あんたは初めて会う人。昔は泣き虫だった、女の人よ」


 これを、彼女は幸せと言うだろうか。

 あの時のようにきっぱりと強く言ってくれればいいと、真咲は考えて笑った。



ここだけ短くてごめんなさい。

20時頃もう1本更新します。

そこから本編に合流です!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ