1.始まりの日(火葬場にて)
吹き抜けの天井からシャンデリアが垂れ下がる様は、一見するとホテルのロビーのようだ。
蝉の声すら遮断された建物内は、空調が効いていて快適だった。お骨上げまでの数時間、この火葬場の広いロビーの、落ち着いた風合いのソファでうたた寝するのも悪くない、と沙貴は思った。
お通夜では文字通り、一睡もせずに従姉妹である栄美子の話に耳を傾けていた。頭の奥が少し痛い。
父方の祖父の葬式ではあったが、故人との思い出はほとんどない。沙貴の両親は離婚して、幼い沙貴は母に引き取られた…らしい。すべては母からの伝聞なので詳細はわからない。
そして、顔も知らない父は早くに他界した。
もう遺恨も無かろうと父の妹である叔母が訪ねて来るようになるまで、母は一切の親戚付き合いを断っていた。
「ごめんね。うちの子が騒いじゃって、葬儀場でも大変だったでしょ」
「平気。子供は嫌いじゃないし。ね、コウちゃん」
栄美子の丸い顔に微笑んで、沙貴は彼女の膝に乗った小さな頭を撫でた。
疲れたのだろうか。栄美子の子供は、出棺時には興奮して掴み振り回していた沙貴の手を、小刻みな首の振りで避けた。
「ねんねかね、コウちゃん」と叔母が特有の幼児語で笑い、沙貴は苦笑いをして手を引っ込めた。
本当のところ、子供は苦手だった。日常生活で接する機会もない。女手ひとつで沙貴を育ててきた母は、娘に対し早く大人になることを望んだ。
豪胆でさばさばした性格を母からそのまま受け継いだ沙貴には、触れただけで壊れそうな子供の扱い方がよく分からない。しかし「失礼のないように」との母の厳命は、親切な叔母とその娘である従姉妹に対し向けられたものであり、守らなければならなかった。
母の代理で葬儀に出席した沙貴には、親族控え室に揃うほとんどの人間の顔が分からない。特にこだわりもないが控え室を退いてロビーに出た沙貴に、「子供がうるさいから」とさりげなく付いて来てくれたのは、叔母と従姉妹の栄美子だけだった。
「大学も今は夏休みだしね。バイトばっかりだったから、子供と遊ぶの久しぶり」
黒の夏用スーツの袖口を擦って、それに、と沙貴は笑った。
「文学部の国文学科としては、昨夜のコウちゃんの話。なかなか興味深かった」
「そお?そういうものかしら」
幼い息子の話をひと晩語った栄美子は、丸顔を傾けておっとりと笑った。
従姉妹の栄美子の嫁ぎ先は寺院である。
いわゆる授かり婚で苦労も多かっただろうに、昨夜、語り明かした彼女からそういった愚痴は一切無かった。
話題はもっぱら自分の子供の話だった。
栄美子の息子は四歳。
名を功成という。
額が狭くて目が細い、いつでも笑って見える子だ。
この子供が、何やら不思議な力を持っていると言う。
初めての皆様、ご挨拶させてください。
初めまして。読んでくださって嬉しいです。ありがとう
ございます。
お久しぶりの方、もしいらっしゃいましたら改めてご挨拶を。
お久しぶりですね。ここでもう一度お会いできたのは、私にとって
最高のご縁です。
長いお話です。お時間ある時にでもいらして、
どうぞごゆっくりお読みください。




