魔法はトトロ
一ヶ月。アイザの弟子となって、一ヶ月が経つ。
「はぁ……はぁ…………はぁぁあ」
魔法を教えてもらうため、俺はアイザの弟子になったはずだ。
魔術師として、アイザは雇われているはずだ。
だというのに、この一ヶ月はひたすらに走った。走って走って、それはもう駅伝に出るのではないか、と思う程に走った。たぶん、いや絶対に、6歳児にさせられる量のランニングではない。
それに筋トレもした。サイラを背負っての筋トレもしたし、サイラをダンベル代わりに筋トレもした。まあ、あれはあれでサイラが喜んでくれたから良かったけど。
いつになったら魔法教えてもらえるんだろ~という淡い期待はもうとっくにどこかへ飛んでいった。
ランニングもいつしか距離指定ではなく、一日一時間全力で走ることを強制させられた。これで趣向が変わったから頑張れるぞ! とでも考えているのなら、俺はアイザをぶん殴りたい。
もう、肺が爆発してしまいそうだ。
常に全力なのだから、体力が増えたことも実感しないし慣れることもなかった。
「はい、終わり」
それが終了の合図。一時間とは言われているが、本当に一時間なのか。
楽しい時間はあっと言う間、反対に苦しい時間は永遠にも等しい。
俺はこの時間が苦痛で堪らない。アイザが密かに二時間三時間へ延長していても不思議ではない。
終わった瞬間に俺は倒れ込む。土の匂い。緑の芝生に頬をくすぐられる。
「急に止まると身体に悪いぞ~」
「はぁ、はぁ……」
言い返す気力もない。
ったく、言うのは簡単だよな。
そっちは優雅にティータイムですか。
あぁあぁ。
こぉ~んなかわいくてカッコよくて天才で愛嬌のある子どもがヘトヘトになって、ひぃひぃしている姿を見ながらのお茶は、さぞかし気分が良いのでしょうね!
なので、俺は心の中でだけ、文句を言うことにした。
日差しを避けるための傘を設置し、椅子とテーブルを用意し、お茶と軽く摘まめる菓子類を置き、本を片手に俺を一瞥することもないアイザへ、それだけで済ませた俺を是非褒めて欲しい。
凄いよクレイくん(小声)。
ありがとう。
よし。
「魔法は、いつなの、でしょう……かっ」
無理はしちゃダメだよクレイくん。
どこからの誰かからそんな囁きをもらった。心配はありがたく受け入れるので、俺は床に倒れたまま尋ねる。
パタン、と本が閉じるような音を聞いた気がした。
「お前は魔法の詠唱についてどう思う」
「どう、って……?」
頭が回らない。言葉は音でしかなく、理解に動かない。
「剣士が戦う時、槍士が戦う時、握るその得物は時に最大の弱点にもなり得る」
理解の準備に入った頭はゆっくりと回り始める。アイザの言っている理屈はわかった。
「もしも剣がなくなったら……槍がなくなったら……」
「そう。大ピンチだ」
剣士が剣を手放すのは言語道断。命を捨てるのも同義。って何かで見た気がする。
たぶんマンガだろう。その台詞が正しく、現実に沿っている。もしかしたら漫画家の皆様も、異世界転生していたのかもしれない。異世界上がりでマンガを描いているのかもしれない。
「魔術師にとっての杖は武器だし、詠唱は太刀筋と同じだ。杖がなければ何もできなくなる。加え、詠唱は剣士で言うと、右から斬りかかりますって言ってるのと同じだ」
それは俺も思ったことだ。
詠唱をして魔法を打ってればその間は隙になる。しかも少しでも魔術教本を読んでいれば、その詠唱からどんな魔法を発動しようとしているのか簡単に見破れてしまう。
あ、次ファイヤーボールが飛んでくるな。とやり口がバレてしまえば、防御なり反撃なり好きにできるだろう。
「でも、だからこそ……パーティを組むんでしょう…………?」
「ほう? 少しは勉強しているようだな」
まあ、ここにはゲームもアニメもネットもないので、本を読むぐらいしか、一人でできる娯楽はないのだ。
勉強は好きではないが、ここでの勉強は娯楽の意味合いが強い。歴史を読むというより、ストーリーを読むって感じがする。歴史上の人物もゲームキャラのように感じられるし、ゲームの技を覚えるのに四苦八苦しないのと同じように、魔法や剣術も覚えが早い。
「だが、そこに胡座を掻いてる連中が多い」
「あぁ、うん。そんなことも書いてあったね……」
魔術師は遠距離担当。近接、前線は剣や槍を握った人が担当すると書かれていた。
だが、その役割分担こそが常識として型に嵌めてしまい、魔術師の程度、意識レベルの低下を招いている。と、非難もされていた。
「こっちの奴らは基本、対人戦で魔法なんか使わないからな。まあ、詠唱で魔法を見破られるという発想がないのも、わからなくもない」
いまのパーティというのも冒険者に関する話題だ。冒険者が相手にするのは魔物や魔獣。
しかし必ずしも、魔法が彼らだけに向けられるのかと言われればそうでもない。人が人に向けて、魔法を放つこともある。
こっちの奴らとは主に人間全体を指しているのだろう。
人間の国、人神が治める領土。その大陸に住む連中。
こっちがあるということはあっちがあるということ。魔族が住む側の大陸、国がある。
あっちでは対人戦も日常茶飯事なのかも知れない。
「つまり、杖なし詠唱なしであることはそのほとんどで優位に働く。そもそも詠唱とは、杖とはどんな意味を持って誕生したか、知ってるか?」
知らない。首を横に振る。
「昔は杖なんかなかった。詠唱なんかなかった。魔法とは自由なものだったんだ。自由な発想から、自由な技が生まれる。逆に言えば、柔軟な思考ができない者は、一生を投じても魔法を使うことができなかったんだ」
イメージ不足、ってところだろうか。頭の固い人は、人間が空を飛ぶなど無理。とまず理屈で考えてしまう。飛ぶためにどうすれば、という思考にはならない。そういうことだろうか。
「そいつらにも魔法を使えるように。それが杖と詠唱の誕生だった」
魔術教本に書いてあった、『誰でも魔法は使える。この世で魔力を持たない生命は存在しないのだから』とはそういう意味だったのだろうか。
「杖はまず魔力の流れを安定させ、一方向に流す役割を持たせる。詠唱は言葉にすることで、イメージをより具体的にさせたんだ」
燃えろ、とか言ったら炎を連想する。簡単に言えばそういうことだろう。
「だがいつしか手段と目的が入れ替わってしまった。魔法を発動させるという成功体験を与え、徐々に外していくはずだった杖と詠唱はそれが標準となり、本来の意図されていなかった用途で使われてるようになってしまった」
自転車を乗る時は最初に補助輪もついてるし、大人に後ろを支えてもらうこともあっただろう。なのに、いつの間にか補助輪が標準形体になってしまった。嘆くのも頷けるし、街を行き交う自転車がすべて補助輪付きとか、情けなくもなる。
「とりあえず詠唱を発し、杖を持ってれば意識せずとも魔法が発動するんだ。こんなに楽なことはない」
だがそれでは独り立ちできない。
アイザの言う通り、杖を奪われれば魔力が安定せず、口を塞がれれば、声が発せない状況に追い込まれれば魔法の輪郭が整わない。
「いつしか杖と詠唱は、魔術師にとっての足枷となった」
嘆くようにして言い切ったアイザは腰を上げる。いつの間にかテーブルも椅子も傘も、ティーカップに本も全て無くなっていた。
折りたためるわけでもないだろう。毎度毎度、どこから取り出してどこへ仕舞っているのか。これも魔法か。魔法便利だな。
「ほら、立て」
立ちたくない、と顔を地面に擦るも、身体が勝手に立ち上がる。それはマリオネットのよう。いじめっ子を弄んだ時と同じよう。俺の身体が、糸によって操られているようだ。
言うまでもないが、アイザの仕業。これも魔法。強制的に立たされる。
「詠唱するのも良い。杖を使うのも良い。だがそれらは道具だ。使う物であって、使われる物ではない。それを忘れるな」
「はい先生」
いつしか俺の呼吸も安定している。息が整うのを待つように、アイザは授業をしてくれていたのかも知れない。
どこかへ歩いて行くアイザの背を追う。
「勘違いされていることが多いが、魔法ってのは何も魔力だけが消費されるのではない。体力も消費されるし、筋力だって消費される」
「へぇ~……」
「比率が違うから気付きにくいんだけどな。反対に、身体を動かす時、魔法を使わない時も、体力筋力以外に、少なからず魔力は消費されている。
グリッドとかが一番良い例だな。あいつは魔力総量が少ない。剣士らしい荒い魔力もしているし、意識的に魔力は扱っていないんだろう、悪い例として最適だ。経験、勘だけで魔力を扱っている。もしもあれを意識的に行い、魔力で身体を強化していれば、バイル王国でも騎士団長ぐらい余裕だったろうな」
「へぇ~……」
「……お前ホントに聞いてるのか?」
「聞いてる聞いてる」
聞いてはいる。ただ、騎士団長とか荒い魔力とか言われても、意味がわからないだけ。
俺の返事が生返事なのは疲れているのもあるが、そんなもんもあるんかぁ~……ぐらいに、世間を知らないからでもある。
「まあとにかく。魔術師であろうと動ければ動けるだけ、便利だ。そもそもの、人としての失敗とは何だと思う」
唐突に質問された。これは授業なのか。
「……?」
反応はできるが、答えは出せなかった。
「逃げないことだ」
アイザは俺のアホ面を笑うとそう言った。
「依頼の失敗、敵前逃亡は冒険者としては失敗かも知れないが、人としての負けじゃない。任務の失敗なんか何度だってやりゃあいいんだ。依頼主なんか腐るほどいる」
めちゃくちゃなことを言ってるよ。
それじゃあ信頼が
「生きてれば実績も信用も積み重なるからな。たとえ失っても、命があればまた積み直せる」
先回りされてしまった。
「だから、……冒険者というのは一例に過ぎない。お前が今後、バイルか、他のでも良いけど、騎士になるにしろ傭兵になるにしろ、ただの放浪者になるにしろ、常に逃げの一手と、そのための力は持っておくべきだ。それができて初めて、立ち向かうという選択が取れる。はい、これが今日の授業だ。肝に銘じておくよーに」
「……はーい」
逃げていいと言われたことなんて初めてだ。
逃げてはダメ。いくら辛くても進め。
言葉にされずとも、昔はそう言われている気がしていた。道から逸れるなんて選択肢、なかった。
その果てに俺は、折れてしまった。
アイザは何の気なしに、この世界での一種の正解を説いただけなのだろう。ただ、俺にとっては、抱えて潰れて丸まった昔の自分の背中を、大丈夫と優しく撫でてくれたように感じた。
「話は戻るがそうなると、いまは最適ということなんだ」
何がだろう。
嫌な予感がする。
いま、いまアイザの好感度は俺の中でぐんぐんぞ。
「疲れ切って、体力は空っぽだ。この状態で魔法を扱えば、魔力だけの純度100%の魔法が発動できる。より、魔力を知覚しやすくなる」
「……」
「よし、やれ」
「…………」
回れ右。俺は、背を向けた。
「……どこに行くつもりだ」
「弟子として、師匠の教えを早速実行しようと……ね」
「許可していない。師匠の命令だ。魔法を使ってみろ」
「ぃやだ!」
いま魔法なんか使ったら、俺はきっと真っ白になる。それはもう有名な某ボクサーの燃え尽きたぜ……ぐらいには、白くなってしまうぅ!
「嫌なことからは逃げろって、先生は仰ったので!」
俺は脱兎の如くその場から逃げ出す。
「独自の解釈をするな」
しかし俺の足は地面を蹴っていなかった。永遠に、風を、何もない空間で足を前後に振っていただけ。場所は変わらない。
「卑怯だぁ!」
「ふははは! お前が弱いのが悪い」
魔王みたいな笑いをしているアイザだった。
いつの間にか俺の手中には杖がある。
けっきょく、俺は真っ白になるしかなかった。
二ヶ月後。
俺は近くの森に出向くこととなった。
先に行ってるぞ、ということで、俺はアイザを追いかけるように一人で赴く。
最近になってやっと、全力ダッシュの刑からは解放された。しかしランニングは続けている。自分のペースで日課としてやっている。
筋トレは続かない、といった定説は多い。三日で辞めてしまった、という坊主も多いことだろう。だが、一ヶ月頑張った、本当に筋トレを続けた人なら、わかるはずだ。
筋トレは一日のサイクルになってしまう。朝起きて、顔を洗う。朝食を食べる。その続き、延長線上に、筋トレがある。俺の場合はお風呂前。汗を掻いて、お風呂に入る。逆に言うと、筋トレをしていないとお風呂に入れない。
もっと言うと、一ヶ月続けた筋肉、体力が落ちそうな気がして、続けた自分を裏切る罪悪感、積み重ねてきた筋肉体力が崩落し、いままでの苦痛が無駄になる恐怖に迫られ、辞めることができない。
筋トレやランニングはアイザの授業に取り組まれることはなくなったが、俺が自主的に続けている。
これがアイザの狙いだったなら、悔しいが大正解だ。
いまの俺のランニングのモチベは理想の自分でも成長している実感でもなく、無駄になりそうな恐怖にある。
「…………はぁ」
全く、俺という人間は常に後ろ向きだ。
まあ、そんなところも好きなんだけど。
森に入り、しばらく進む。この一ヶ月、何度か入ってるので、迷うことはない。そこまで大きな森でもなく、いまのところ魔物との遭遇もない。小動物がいるぐらい。
少し開けた場所に、アイザはいた。
「お待たせ」
「ああ。待った」
相手にするなよクレイ。
「さて、おさらいだ。
森、自然は魔力が豊富だ。あらゆる生命が生息し、密度が高くなることから、魔物を生み出すことにも繋がっている。ダンジョンから魔物、魔獣が消えないのもこれと通ずるな」
そう。ゆえに、魔力を知覚するには打って付け。
木、自然にも生命はある。木の一本一本、芝生の一つ一つ、小動物たちと、小さくても確かな魔力が存在している。
それらが密集しているここは言わば、一帯が魔力の空間。自分の体内にある魔力と、外界に漂う魔力の区別がしやすい。
空気中の酸素と体内の酸素、みたいなものだ。……わかりにくいか。全ての色の中からだと白は白だが、白系統に限定されれば、白の違いもわかる……みたいな。
やっぱり俺はまだ、アイザのように上手く言語化できないらしい。
「ほら。まずは魔法使ってみろ」
アイザの手から離れ、放物線を描く一本の杖。俺は前屈みになってキャッチした。額を拭う。
その杖は素人の俺が見ても一級品であるとわかる一品だ。杖を持つことに否定を見せたアイザも、杖は持っていた。
それは某ポッターの世界の住民が持つような細く短い杖ではなく、俺の背丈ほどあるぐらいに大きな杖だった。滑らかな肌触りに、杖として象徴的なのが先端に備わっている赤い宝石。やはりと言うか何と言うか、ここも赤だ。俺が持つより、アイザが持っているのが正しいと思わせる存在感。
ともかく、俺は促されるままに詠唱する。
「我が意を聞き届け、赤き炎となりて顕現し、かの者を焼き払わん。……ファイヤーボール」
火の球が生成される。
本を見ずとも詠唱できる初級に相応しい小さな火だ。
本物の杖があることで、魔法の制御も容易い。勝手に生成されることも、勝手に放たれることもない。意識を外しても、維持され続けるだろう。
両手で持った杖を左右に振る。杖の先端から火の球は離れない。
操れていることを確かめてから、放つ。威力も最低。木に小さな黒を作るだけ。
すでにこの世界では六年とすこしを生きている。赤ん坊の頃の記憶もあるので、本当に六年を生きている。
最初は詠唱に気恥ずかしさを覚えていたが、今では何も感じない。
こうやって色々薄れてゆくのだろうか、と思うと何だかもの悲しくなっていく。
だが、俺は決して日本人の心を忘れない。大和魂だ。なんで大和なのか知んないけど。
「次、詠唱しないでやってみろ」
杖は魔力の流れを制御する働きを持っている。
杖なし詠唱なしのアイザのような魔術師は、意識的にも無意識的にも、循環する魔力を一箇所に押し出せるらしい。わかりやすいのが手だ。手だけに出力し、それを魔法へと変える。
その行為ができない一般魔術師が、杖を用いる。杖が強制的に体内を循環する魔力を一箇所で出力にしてくれるという寸法だ。
深く意識する。閉目し、さっきの感覚を思い出す。杖があるので魔力には気を割かなくて良い。ファイヤーボールの映像を脳裏に思い起こす。
「……!」
ぼわっ、と火の生まれた音がした。
目を開ければ杖の先端に、ファイヤーボールが発生している。大きさは先ほどとは違い、俺の拳よりも、頭よりも大きい気がする。
それだけ大きいと、杖を使っても制御に苦しい。暴れているのを感じる。
「まだだ」
しかしアイザからの発射許可はない。
「……っ」
杖を持つ手が震える。
いままで感じたこともない。疑問に思ったこともないが、そうなのだ。これは火なのだ。木を少し黒くする程度には熱がある。
初めて俺は、自分の魔法、ファイヤーボールで、熱を感じ汗を流した。
「いいぞ」
ようやく許可が出る。
杖から放たれたファイヤーボールの速度はノロい先ほどとも違かったが、まだ目では追えた。
ほんのり焦げただけの木、同じ場所を撃つが、今回は貫通する。真ん中部分から完全に木を分断し、ミシミシと音を立てて倒した。
「まあ、当然だな」
木を倒す勢いに若干引いていると、なぜかアイザがドやっていた。
「お前の魔力は多いと言っただろう」
たしかに、そんなことを言われたような気がしないでもない。
詠唱は形を固定化してしまう。もちろん詠唱にもメリットはあるが、例えば今のファイヤーボール。詠唱上の規定では半径五センチと決まっていて、詠唱すればどれほど才能があろうとどれほど魔力を持っていようと半径五センチのファイヤーボールが生まれる。
魔法が不得意な者からすれば満足だろうけど、俺のように才能があって俺のように魔力があって俺のようにカッコいい者からすれば、物足りなさを感じてしまう。だから詠唱をなくすことで、俺の魔力で俺のイメージで、いまのファイヤーボールは作った。
威力や大きさがさっきと違うのはそういうこと。
「そういえばさ、無詠唱って高等技術なんだよね」
べつに俺が軽々と無詠唱で魔法を発動したとは言わない。
いまのファイヤーボールも、本を読めるようになった4歳の頃からの積み重ねがある。
「だからお前には才能があるって言っただろ」
「そうじゃなくて」
「……そうだな。魔法ってのは本来豊かで無限の可能性があり、自由なもの。だが詠唱がそれを形に落とし込めてしまった。ってのは前も言ったな」
こくりと頷く。アイザはつまり、と続けた。
「形ある魔術としての勉学に励んだ者ほど、魔法を形に嵌めてしまい、無詠唱という枠のない魔法を、イメージできない」
皮肉なものだ。
「下手に何も学ばず、魔法を魔力を概念として認識する、純粋な心の子どもの方が、無詠唱ってのは習得しやすいんだ」
純粋な好奇心や行動力は皆持っていたはずで、大人になればそれができるほどの時間もお金も作れるはずなのに、やろうとはしない。世間の目や空気感、客観的評価に怯えてしまうから。めちゃくちゃわかる。
もしかしたら魔法ってのはトトロなのかも知れないな。




