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異世界転生すれば上手くいく  作者: 家佐水井
2章 見知らぬところで
22/24

ノリがいいってそれもう悪口だろ

 

 顔合わせ、実力合わせが終わった。

 前衛は任せ、俺は後衛でノイクのサポートをすることになった。

 ノイクはたしかに強かった。俺なら持つので精一杯な大剣で、ノイクは技を使い型を使い敵を殺していく。


「いまさらなんですけど俺、まだEランクなんですよ。いいんですか?」


 ノイクの実力を目の当たりにして、傲り高ぶっていた自分が恥ずかしくなり、俺は言った。


「肩書きは所詮肩書きですよ。私たちはクレイさん自身を見て、判断したに過ぎません。我々のSランクという肩書きも、他のメンバーの功績がデカいですから。実際、クレイさんの実力はEランクなんかではない」

「俺はお前と違ってFから始めてない。最初からSランクのパーティに加わってる。というかこの年齢じゃ、物理的にSランクなんかになれない。依頼をこなす時間が足りないからな」


 なるほど。

 俺はアイザとふたりで、一から新たに冒険者パーティを組んだ。けど、ノイクはすでにあるSランクパーティに加わった。

 言わば、俺とアイザが新たなパーティを組んだか、俺がアイザのパーティに加わったかの違いだろう。もしも俺がアイザのパーティに加わってSランクとなっていても、実力はSランクにならない……。

 

 俺はにんまりとした。


「なんだその気持ち悪い顔」

「ノイクくん、優しい。慰めてくれてるの」

「……そうじゃねぇよ。これから本番だっていうのに、そんなうじうじしてたら足手まといだって話をしてるんだよ」


 俺はさらに口角をあげた。森を貫きそうな勢いで口角をあげた。


「照れてますね」


 となりでは、俺と同じように口角をあげたノダリックさんがいる。


「根は優しいんです」


 


 秘境攻略その本番。俺たちはシィオルツを出発して、秘境へ向かっていた。


「ところで、ノイクくんが前衛で、俺が後衛で、ノダリックさんはなにをするんですか?」


 ノイクが実力を披露し、俺が実力を披露し、俺とノイクで連携を取り、そんな三日間を過ごした。

 その間、ノダリックさんが戦っている姿は見ていない。むしろ戦力外だった。木陰に隠れて応援しかしていなかった。


「私は皆さんの応援をしたいと思います」

「……本番でも?」

「ええ。自慢ではありませんが、私は剣を握ったこともありません。戦いには関してからっきしでして……」

「本当に自慢じゃないですね」

「ハハハッ」


 笑い事じゃないが。

 8歳児ふたりにおんぶに抱っこって、どうなの? 大人として。


「嘘じゃないぞ。本当に、そいつは戦えない。いつも俺の背中に隠れてる。いつも俺を盾にしてる。いつも俺に丸投げしてる」


 嘘じゃなさそうだ。

 いまも、三角形の形で進んでいる。森の前方を警戒しながら先頭を歩くノイクと、その後ろに控える俺とノダリックさん。

 こういうとき、普通は大人が前を歩くものだろう。慣れた様子で先頭を歩き決してよそ見はしないその警戒心の高さ。なにより苦労人っぽい目つきに、俺は同情した。


「お前も……苦労してるんだなあ」


 しみじみと言う。


「なにかあったら、この俺に相談するんだぞ」


 払いのけられる。


「なんでお前なんかに」


 そりゃあ、俺はノイクと違って本当の8歳児じゃないからな。身体も子ども、頭脳も子ども、精神だけ大人だ。

 ……自分で言っていて悲しくなってくるな。


「しかし私には年の功があります。魔物や、魔獣だって、生態には詳しいです。まったくの戦力外ということでは、ないのですよ?」


 まあ、単なる応援係がSランク冒険者になれるはずもないだろうし、直接的な戦力にはならずとも、ノダリックさんにしかできない何かがあるのだろう。


 そうこうしている内に、秘境まで辿り着く。ノイクの警戒心の高さのおかげか、道中、何者にも出会わなかった。


「これが、神の庭、神の創造物と言わしめる秘境です。どうでしょう?」


 その扉は白く、頑丈そうな造りだった。

 岩壁に貼り付いたような埋め込まれたような扉。それは、崖の麓にあった。

 明らかな人工物だが、俺はその言葉を吐けそうにはなかった。しかし、だからといって蔓に浸食された扉を自然物というのは論外。自然にこんな扉ができるはずがない、と思わせるほどの存在感。異質、とも言えるほどの場違いで浮いた存在。

 人間サイズの扉ではない。縦の長さは三メートル弱ぐらいか。魔獣だって魔物だって、入ろうと思えば入れそう。

 

 圧倒的なまでの存在感は人工物でもなく自然物でもなく、なるほど、これは神と言わしめるな、と思わせるぐらいの代物だった。


「神の庭……というのは?」


 しかしながら俺の知識に、秘境と神を結びつけるものはなかった。

 秘境とは、冒険者の墓場。内部構造は常に変化し魔物や魔獣とて、ひとつも同じものは存在しない。その性質上、救援は不可能。一度入ったら死ぬか、攻略するまで出ることはできない。

 俺も、秘境に挑むとなって万全の準備は整えた。知識も収集したし、体験談生還者の話も聞いた。そこに神、という単語は……記憶の限り、ない。


 ノダリックさんはノイクに視線を送った。ノイクはそれを受け、頷く。


「念のため、周りを確認してくる」

「よくあるんです。秘境で全力を出し切り、生きて帰ってきたところを狩る生還狩りが」

 

 なんともセコい話だが、利口ではある。

 秘境は恐ろしく危険な場所と語られ、Sランク冒険者かSランク昇格をかけた冒険者のみにしか許されていない。それでも彼らが向かうのは、自ら墓場へと踏み入れるのは、憧れや自信もそうなのだが一番の要因は、その財宝だ。

 俺が今回、挑むのもそれが理由。売れば遊んで暮らせるだけの財宝が、秘境踏破後の部屋には置いてある。三回踏破すればこの世の娯楽を網羅でき、五回踏破すれば三世代先まで安泰。十回踏破で国家をも越える富と言われている。


 だから秘境踏破後、死闘を繰り広げて財宝を抱えて出てきたところを待ち伏せ、というのは体験談にもあった。


「さて。ではいったい、この扉はどこへ繋がっているのでしょう」


 ノダリックさんはノイクを見送ると、秘境を見上げた。


「常に内部構造は変わる。魔物や魔獣はSランクの冒険者ですら容易ではない。同じ景色、同じ敵は一度として出会うことはない。入ったが最後、戻れるのは死ぬか踏破するか」


 俺も知っている、簡単に知れる秘境についての一般知識を、ノダリックさんはおさらいのように語った。


「答えは簡単です。どこにも、繋がっていないのです」

「どこにも……?」

「ええ。この扉の先は、この世界のどこでもないんです。その度に、新たに作られている。その度に、新たに産み出されている。

 先日、偶然にも聡明なとあるお方とお話をさせてもらう機会がございました。彼はまだ若いのに知見に富んだ、幅広い視点をお持ちの方でした。彼は秘境を、神の庭と言ったのです」


 視線が戻る。ノダリックさんは俺にジッと目を合わせた。


「世界に存在する、神のことは、クレイさんもご存じですよね?」

「炎神とか、剣神とか、そういうのじゃなくて、ですよね?」

「ええ。炎神のように称号ではなく、剣神のように正しく神の領域といった比喩ではなく、正真正銘、この世界の根本に関わる神のお話です」

「六大神の話なら、すこしだけ」


 この世界には六つの神が存在している。総称して、六大神だ。


 人を創り出したと言われている人神。

 獣を創り出したと言われている獣神。

 鬼を創り出したと言われている鬼神。

 龍を創り出したと言われている龍神。

 魔を創り出したと言われている魔神。

 死を創り出したと言われている死神。


「グルモシス、すなわち獣神の領土である大森林。そこにある秘境の名は獣の間。人神の領土にある秘境とは、人の間。龍神の領土なら龍の間。鬼の間、死の間、魔の間。秘境にはそれぞれ名があります。六大神の名があるのです」


 そんなの、初耳だ。

 信憑性はともかく、ノダリックさんはこれを俺に話していったいどうしたい。なにを伝えたいんだ。

 命を預ける仲間だから、正確な知識を持って挑んでほしい、ということなのだろうか。本当に、それだけなのだろうか?


「面白いことに、これら秘境の扉は、その神の領土にしか現れないのです」


 人の間が獣神の領土であるグルモシスに現れたり、死の間が人神の領土に現れなかったり、と、そういうことなのか。


「ですからこの秘境をつなぎ合わせた場所が、その神の領土と言われています。事実、人間も獣人も魔族も龍人も鬼人も、その領土内で発展しているのです」


 この秘境もシィオルツ近隣の森に存在している。シィオルツはサスマン帝国の都市だ。サスマン帝国は人間の国で、つまり人神の領土。


「これは神が境界線を示すために残した創造物、あるいは我々が、秘境攻略と行っているのは神の庭に忍び込み、その財宝を盗んでいるのかもしれません」

「だから魔物や魔獣は桁違いに強い、と」

「ええ。神の僕なら、納得です」


 怖い話だ。でも


「なら、ノダリックさんはこれからものすごく危険な行為をしようとしていることになりませんか?」


 ノダリックさんは秘境を単なる財宝目的で来ているのでも自分を証明するためでもなく、冒険者の墓場よりも恐ろしい神の領域に踏み込み、神の逆鱗に触れるかもしれないと承知の上で、秘境に入ろうとしている。


「周り、特に何もいなかったぞ」


 がさがさと足音を立てて戻ってきたのはノイク。大剣に血はないし、汗もひとつ掻いていない。

 ノダリックさんはにこりと微笑んだ。


「実は私、無宗教でして」

「うわあ。偶然ですね。俺もです」

「……何の話だ?」


 話が見えないとノイクは首を傾げた。



 軽く水分補給をし、息を整え、ようやく秘境に臨む。


 ノダリックさんから怖い話を聞いた。ノダリックさんと、それから若いながら聡明で幅広い視野を持っているまるで俺みたいな人の話が本当だとするならば、これから俺たちが足を踏み入れるのは神の領域ということになる。

 ここは人神の領土だからこの秘境は人の間ということになり、人神の庭を荒らすことになるのだ。


「緊張していますか」


 していないと言えば、嘘になる。 


「この三人だと、華がないなぁ、と。もっとかわいい女の子と一緒がよかったですね。ノダリックさん、娘はいないんですか」

「いませんね。ノイクくんひとりです」


 悲しい。ノイクをチラ見する。


「なんだ」

「ノイクくん、姉や妹はいないの?」

「……そいつの話聞いてたか? 俺はひとり息子だ」


 すると、ノダリックさんは目をうるうると潤ませた。嗚咽を抑えるように口許も抑える。


「く、く……クレイさぁん!」

「ノダリックさん……!」

「い、いま……ノイクくんがわた、私のことを……自分のことを、息子だとぉぉぉうおんおんおん」

「よ、よかったですねノダリックさん……! やっと、やっと気持ちが通じてぇぇぇえんえんえん」


 反抗期だった息子の本音が、ほんの一瞬だけだが垣間見えた。報われた気分になっただろう。ノイクはノダリックさんのことを父親だと思っている。自分を息子だと思っている。

 ひし、と俺とノダリックさんは抱きしめ合った。ノダリックさんの苦労を讃えた。


「このお礼は、……どう言ったらいいのかぁ」

「そ、そんな……お礼だなんて。……かわいい女の子にクレイくんは世界で一番の男だと言ってくれるだけでいいですよぉ」

「このノダリック、ご恩は一生忘れません!」

「絶対女の子紹介してください!」


 いまのところ、俺が出会った女の子はニーナだけだ。

 アイザは女の子というより女性だし女子という性別の幻想を打ち砕いたし、ミシュルさんはだらしないズボラなお姉さんって感じで悪くないんだけど、俺が求めているお姉さんは甘やかしてくれる包容力抜群セクシーダイナマイト。


「お前ら何なの本当に」

「うわ、出た。自分は女の子に興味ないですよアピール。もしかしてノイク、自分のことクールだと思っちゃってるでしょ? 口数少ないのをかっこいいとか思っちゃってるでしょ? 自分からアピールしないと、話題にならないんだからね?」

「何の話だ」

「合法的にJKと付き合って放課後制服デートとかできるの、高校生のうちだけなんだからね!?」

「どこにJKがいるんだよ!?」


 ノダリックさんは扉に触れた。特に力を込めたようには見えなかった。というか、触れる寸前で、自動的に扉が開いたように見えた。タッチパネル式なのだろうか。ずいぶん近代的だな。神だからか?


「おふたりとも。そろそろ、切り替えて」


 冗談はそこまでにする。


 両開きの扉に取っ手はなく、外から押すタイプだったらしい。

 扉が開いた秘境の先、中は黒い。しかし真っ暗ではない。光がないわけではなく、黒一面にキラキラと光輝く粒のようなものが散りばめられている。夜空が広がっている感じだった。


 俺たち三人で、一斉に足を入れる。夜空に溶け込み、光が消えていく。いつしかふり返っても光はない。真横にいるはずのノダリックさんもノイクの姿も見えない。


 やがて――――


「やあ」


 白い光に塗り潰されたと思ったら、


「無宗教だなんて、悲しいなあ。僕ときみの仲だっていうのに」


 悲しい悲しい、あーあ悲しい、と、その誰か? は、大袈裟に首を振ってみせた。


「……えっと? どちらさまで……しょうか?」


 俺は無遠慮に、きょろきょろと辺りを見回した。

 

 辺り一面、白い。白が揺蕩う世界だ。

 そこにひとりの……子ども? 俺よりかは年上に見えるけど、それでも年端もいかぬ年齢に見える幼いシルエットがあった。

 ピンク色のパーカーらしい服を着て、フードを深く被った彼? は、素肌がすべて隠れている。


「ありゃ、残念。そっか、まだ封印は取れてないのか。さすがは僕! ……と言いたいところだけど、僕の封印じゃないかなあそれは。自分で、自分の殻に閉じこもってる。出てきたくないのかな」


 訳のわからないことを言う変な子どもだ。


「僕のことを子どもって言うなんて、時代が時代なら大罪人で火炙りだよ?」


 ……え。……えぇ? いま俺言葉にしてた?


「してないよ」


 ……じゃあ心読んでる? なんで俺の心が読めてるんだ?


「それはここが僕の家だから! ……と、いうよりも……ここが精神世界だからかな」


 あっははっと軽く笑い飛ばした。

 

 何が面白いのかわからないが、まあ、それなら俺にもひとつ策がある。


「お、なにかな?」


 うんこちんちん。


「……うわあ。嫌なことを想像するね」


 どうだ。俺の心を読むとこうなるのだ。これはまだ序の口ぞ。


「わかったわかった。読まないようにするよ。まったく」


 それが普通だろう。なぜ人の心を読むことに何の罪の意識もない。……うんこちんちん。


 反応はなかった。どうやら本当に、こいつは俺の心を読むのをやめたらしい。まあ、表情が見えないので、隠されていたらわからないんだけど。


「ところでお前は? ここは……もう秘境? なら、倒せば良いのか? というかノイクとノダリックさんは」

「いきなり質問責めだね」


 なぜだかこの……人? には、タメ口を使えた。敬語を使うほうがおかしいと思った。


「まあ、ひとつずつ答えよう。ここは秘境じゃない。まだ、ね。秘境と外界を繋ぐ道っていえばいいかな。ここを戻ればあの扉の外だし、ここを進めば秘境に入れる。どうする? 戻る?」

「戻らない」

「まー戻れないんだけどねー!」


 ケラケラと腹を抱えて笑っている。この拳が黙っていないぞ!


「それと、僕は敵じゃない。僕は倒さなくて良い。そもそも倒せないし」


 左拳も黙っていない。リーチだ。ビンゴでその面を拝んでやる。


「あと……あのふたり、ね」


 体育座りをした彼は、その膝で肘をつき、手で顎を支えた。憂慮する面持を――――まあ、表情は見えないのであくまで雰囲気、そう思ったに過ぎないのだが、――――した。


「先にふたりとも行ってるよ。いまはあの、自称Sランク冒険者パーティで、自称ひとり息子を持つ父親が、未だ目を覚まさないきみを懸命に起こしてるところだ」

「自称?」


 彼は、口角を上げたように思えた。


「僕はヒュウス・マグナス。人神だ。この世界できみを最もよく知る神様だよ」


 初対面でそんなことを言われても困るのだが。あれか、神様はなんでもお見通しってやつか。


「疑ってるね。まあ、いいんだよ。それは僕のせいでもある。でも、そうだな……何もなしってのは、ちょっと勿体ない。せっかくの機会だし、すこしだけヒントをあげよう」

「ヒント?」


 俺は軽く身構えた。彼、人神ヒュウスはそれを嘲るようにする。


「きみは元の世界で死んだ。そしてこの世界にやって来た」

「……」

「きみをこの世界に、転生したのは、誰だったかな?」

 

 俺の正体を見破っている。なぜ、と思った。どうして、と思った。

 ヒュウスの質問を考えようとして、先に、彼は言う。


「きみは人がいい。良すぎるよ。まあ、だからってのもあるんだけど……とにかく、彼には気を付けた方がいい。いま、申し訳ないけど秘境は不安定な状況にあるんだ。彼はそれを知っていてもなお、きみを連れて来た。まあ、全部が全部、悪意があるわけじゃなさそうだけど……時間稼ぎに人神()を使おうだなんて、いい度胸だ」


 彼とは誰だ。話の流れ的にノダリックさんのことでいいのか。気を付けろとはどういうことだ。

 秘境が不安定って何だ。俺を連れて来た? 違う。俺がノダリックさんに話を……いや、最初に声を掛けたのは、ノダリックさんだったか?

 時間稼ぎ? 時間稼ぎって何に対する時間稼ぎだ。僕を使う……とは、どういう。悪意とは、どこから、どこが、何が悪意なんだ。


「あっははっ。よく考えて。よく考えるといいさ。この世界について、自分について。時間はまだまだある。早いに越したことはないけど、でも、いま答えを出す必要はないさ。すぐにまた、会える」


 これで終わりだと感じた。これが別れの挨拶だと直感した。

 だから俺は踏ん張ろうとした。彼が何を言っているのか、何を言いたいのか。

 死んで転生したのはそうだ。しかし死ぬ前の俺は、どういう人間だった。どうして死のうと思った。となりに誰かがいた。……死のうと思った? 俺は自分から死んだのか?


 ……頭が痛い。思い出そうとすると、頭痛が走る。俺の記憶には蓋がされていて、ロックを外さないままに力で引き剥がそうとしている。そんな感覚だ。




「――――くんっ! クレイくん!」


 気が付けば、そこにはノダリックさんがいた。


「……あ、……はぁ。ふぅ。よかった。目が覚めましたか」


 ノダリックさんは心からの叫びで、必死の顔だった。

 俺を連れて来た、悪意、自称。その辺りの言葉が脳裏をかすめたが、本気での心配に疑いを向けるのはいい気がしなかった。


「クレイさん、どうでしょう。身体に不調は感じますか」


 目立った傷はない。手足も思い通りに動く。五感もしっかりと働く。

 軽い頭痛があるが、それも痛覚があるということ。気に留めるほどではない。


「大丈夫そうです」

「よかった」


 これまた心底ホッとしている。

 おちゃらけているときのふざけた、ノリのいい、言ってしまえば偽りの態度はない。

 とはいえ、俺がノダリックさんの真偽を見抜けるほどの観察眼があるかと言われればそんなことはないし、ノダリックさんという人間についても詳しく知らない。


「悪夢でも、見ましたか? うなされているように見えたので」

 

 だから俺は、


「いいえ。何も」


 そう答える。


「ところで、ノイクは?」

「……それが」


 ノダリックさんは、言い辛そうに己を恥じるように、言った。


「どうやら我々は、離ればなれになってしまったようです」

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