13.わくわく冥王ランド4
「次はどこに行こうかしらね~」
「広いし迷うなぁ……地図が必要かもしれない」
「本当ね! これも冥王ちゃんに言わなくちゃ」
魔王がローブの中からメモを出し、書いている。お化けの家の件を含め、覚えきれないと思ったのだろう。
その時、ビヨヨ~ンという奇妙な音がした。同じくして歓声も聞こえてくる。
「あっ! あれよトンちゃん!」
「どれだ?」
「遊具の名前は忘れたけど、こう……上下左右から的が出て来て、それにボールを当てるの! 当たったら点数が入るのよ~!」
「へぇ……」
「実はコレ、アタシが冥王ちゃんに協力して作ったの! 魔法で勝手に動いてるから、アタシが魔王でも接待されないし、トンちゃんと五分五分の勝負が出来るわ! そんな話をしたの、覚えてない?」
「あっ! 思い出した!」
庭園の迷路で散々な気持ちになった帰り道、魔王に一矢報いたいなぁなどと思っていたのだ。
「他にも魔力が無くても飛べる遊具があると言っていたな」
「そうよ~! でもまずは五分五分の勝負をしましょ!」
この遊具は建物の中に入っておらず、そのうえ幾つも並んでいるから、行列も出来ず遊びやすい。魔王は空いている遊具で勝負を開始した。
「まずはアタシが見本になるわね!」
意気揚々と、魔王が十個ほど並んでいたボールを手にする。すると、魔獣の手だけが左から出てきた。これが的だ。魔王はさっそくボールを投げるが、手まではそこそこの距離があるので外してしまう。
「アラ! 悔しい!」
魔王がもう一度ボールを持つ。今度は上から魔獣の手が出てきた。魔王はすかさず投げ、当たった証拠かビヨヨ~ンという音がする。
「よしっ!」
なんだか魔王はとても楽しそうだ。ちょうどその時、隣の遊具が空いたので、俺も挑戦することにした。
「魔王、勝負だ!」
「いいわよ~!」
俺は魔王がやっていた通り、ボールを手に取る。今度も左から手が出てくると思ったのだが、実際は下からだ。俺はもちろん狙ってみたけれど、力加減を間違えて強くボールを投げてしまった。だから奥の板にぶつかり、バシッという音がする。
「残念ね~!」
「魔王だって一投目は外してただろ!」
「確かにそうだわ」
魔王が頷いたところで、俺は二投目を放つ。今度は当たってビヨヨ~ンと鳴る。ついでに三投目も成功した。
「トンちゃん、すごいじゃない」
「まぁな」
「アタシも本気で頑張らないと」
「本気で投げたら遊具が壊れるぞ、そこそこにしとけ」
「アラ、そうねぇ……えいっ!」
魔王が幾つめか判らないボールを投げる。それは命中して、ビヨヨ~ンという音と共に『七十点です!』という声が聞こえてくるのであった。
「七回当たったから七十点か?」
「そうみたい」
「俺も頑張るぞ」
「キャー! トンちゃん素敵!」
魔王の声援を背に、俺のボールが的へ向かう。魔獣の手のど真ん中に当たったので、けっこういい音が鳴った。
「すごいわトンちゃん!」
「まぐれだ」
そう言いながら放った最後の一球。それも魔獣の手に当たり、遊具から『八十点です!』と聞こえてくる。
「やった! 俺の勝ちだ!」
そう言って魔王の方を見ると、ぽかんとした表情を浮かべていた。
「どうした魔王?」
「十点差……つまり一発当てるか当てないか……」
「そうだな、いい勝負だった」
魔王に勝てた俺は気分がいい。たまにはこういう事がなくては。執事ならわざと負けるかもしれないけれど、今の俺はただのトンだ。
そんな風に考えていたら、魔王が人差し指を立て近づいてきた。
「トンちゃん! もう一回勝負よ!」
「いいぞ、何回でも付き合ってやる」
「嬉しい!」
俺はいつの間にか増えていたボールを手にした。そこそこで行こうと冷静に考えていたら、いつの間にかムキになり、俺は百点を連発する。魔王は八十点から九十点というところだ。
「ト、トンちゃんには敵わないわね~」
「ボール投げの選手にでもなるか」
「ダメよ! トンちゃんは私の執事で使い魔なんだから!」
「そうだったな」
「フフッ、ボール投げ面白かったわ! また対戦しましょうね!」
魔王がそう言ったので、この遊具は終了。自分が負けっ放しでも上機嫌の魔王だったので、ムキになっていた俺が恥ずかしくなった。なので、他の話題は無いかときょろきょろする。そこで見つけたのが、本日一番太く長い行列だった。何の遊具に並んでいるのかも見えない程なので、俺は魔王に尋ねてみる。
「ああ、これは人間専用、生まれ変わりの列ね。入場チケットは自分の命で買うの」
「赤ちゃんになるってやつか?」
「トンちゃんも赤ちゃんの頃、とっても可愛かったのよ」
魔王はそう言うが、この顔だと――たかが知れている。悲しく思ってしまう俺の返事を待たず、魔王は続けた。
「トンちゃんが赤ちゃんだったの、一週間くらいだったわね。あとはどんどん育って今の姿」
「へぇ……どんどん育ったのか。じゃあ俺は老人にもなるんだろうな」
「いつかは、もしかしたら……でも、アタシの一部のせいか、育ってからは何も変わらないわね。アタシの不老不死も、現在の姿で固定されてるし」
「なるほど、しばらく心配はしなくて良さそうだ」
俺たちは話をしながら、なんとなく列の周囲を歩く。並んでいる人間は生前の姿をしているらしく、それこそ老人が多かった。たまに子供など若い人間が血だらけでいるのは、事故にでもあったのだろうか。俺は悲しくなってしまった。
「魔王、他の場所へ――」
「トンちゃん! あそこに『死に様評議会』があるわよ!」
「へ?」
「言ったじゃない、勇者に殺されたら技能点と芸術点がつけられるって」
「ああ、そういえば」
さすが冥界、死についてはかなりの権力を持っているらしかった。俺は『死に様評議会』を眺める。そこには円形の舞台があり、その脇に何人かの天界人、冥界人、魔獣などが座っていた。
「……人間もここで評議されるのか?」
「人間は書類にサインしたらすぐに生まれ変わるだけよ」
「じゃあ魔王以外に誰が来るんだ?」
「記憶を持ったままあの世に行き、あの世から再び戻れる存在ね……しっ、誰か来たわ!」
円形の舞台に、立派な羽をバサバサさせた天界人が舞い降りる。
「……すごい羽、大天使級よ、えーと、誰だったかしら? 名前が思い出せないわ」
「そうか、大天使もあの世行きか」
大天使は舞台の上で、ふぅ、と息をついている。そして、空を見つめ五指を組んだ。
「点数が出るまでドキドキしちゃうわよね~、解かる~! 何点かしら~!」
魔王は名も忘れた大天使の点数が気になるようだ。仕方ないので一緒に待つと、ひとりの冥界人が舞台に上がった。
「え~、大天使サリエル殿。死を司る力を暴走させたためショック死。評議により技術点はゼロ、芸術点が二十です」
それを聞き、サリエルがガッカリしている。
「あの世に行くなら、前の時みたいに女の子からキャーキャー言われたかった……! 主よ!」
「……この点数じゃ無理ね。女の子が傍に寄って来るかも怪しいわ」
魔王がぽつりと呟く。その間にサリエルは『あの世』と書いてある大きな階段を下りていった。
その姿を見送りつつ、魔王が言う。
「ねっ! イケメン勇者にドラマティックに倒されたい気持ち、解ってくれた!?」
「ちなみに前回は何点だった?」
「三万点弱よ」
「すごい!」
「だからあの世は最高だったわぁ~。イケメン、イケメン、イケメンの波! トンちゃんも傍に居たけど覚えてないのよね~」
良い思い出に浸っている魔王に水を差さぬよう、俺は相槌風味で頷いたが――別に周囲にイケメンが居たからといって、自分は何も楽しくないので微妙な気分だった。




