私の秘密を武器に
初投稿です。
変な所もあると思いますが、優しく教えていただけると助かります。
「リフィア、愛してるわ。おやすみなさい。」
「おやすみなさい、お母様。」
リフィアニール・テンジアは母から額にキスを貰って自室に戻ってきた。
(私は、誰かから愛される日が来るのかな……)
毎日のように、寝る前のベッドで将来について考えている。
現在7歳のリフィアニール、愛称リフィアは、伯爵家の一人娘で、母親から受け継いだミルクティー色のストレートな髪に、父親譲りの濃い茶色のキラキラとした目の持ち主であり、今年からラステール王立学園に通い始めた、ごく普通の貴族の娘である。
ただ1点を除いて。
彼女は人の本心や考えていることが分かるのだ。
さっきの母の言葉もそう。
母は自分を愛してると言った。それは事実だ。が、リフィアには分かる。
彼女が愛しているのは自分のことそのものではない。跡継ぎとしての彼女を愛しているのだ。
今日は急ぎの仕事があると言って書斎にこもっている父も同じである。
友達もそう。学園でできた友達は皆、自分の立場に寄って来たのだ。恐らくは親に仲良くしろと言われたのだろう。
私も母と父に言われて、友達になろうと自分から寄って行ったことも何度かある。
例え子供でも分かっているのだ。自分達は貴族だから、家や領地を守るためにしなくてはならないと。
だから、本音を話したことは1度もない。話す予定もない。
親は、もう子供を産める歳ではないと思っているのか、私の結婚相手を誰にするかを必死になって考えている。
いつか。私を心から愛してくれる王子様に出会えるのだろうか。
そんなある日、私のお見合いパーティーが開かれた。天気がいいので、外でやるらしい。
普通は女の子が1人の男の子の家に沢山集まるのだが、私の場合は逆である。
私が一人娘なので、私の結婚相手はこの家のお婿さんになるからだ。
参加人数は5人。6歳から10歳まで集まっている。
この日は私の初めてのお見合いパーティーということで、なるべく少人数で、簡単なものだそうだ。
最初に、男の子とその家族で私たちの所に挨拶に来る。その次に、子供たちだけで話したり遊んだりしてもらい、最後に自由時間という名の私の選考がある。
家族ごとに散らばって貰って、私が気になった男の子のいる所に行くのだ。
それでお互いが気に入れば、その後も関係が続く、というものらしい。
私が子供のせいかあまり詳しい話はされていないが、私には両親の気持ちが分かった。
(今回は1人だけ侯爵の子がいるから、その子を選んでくれないかな)
だって。
ちなみにこの国では魔法が使えて、仲の悪い人達が夫婦になると子供の魔力が弱くなるから、という理由で恋愛結婚が推奨されてるんだって。
そうして始まったお見合いパーティーは予定通り始まった。
最初に5組の家族が挨拶に来たけど、誰も名前は覚えられなかった。
最初は頑張って子供の名前から苗字、親の名前も覚えようと頑張ったんだけど、途中から混乱してきて逆に全部忘れた。
「それでは皆様、改めまして娘、リフィアニール・テンジアのパーティーにお越しくださいまして、ありがとうございます。これから、ティータイムとさせていただきます。リフィアとご子息の方はこちらのテーブルで、大人の方は奥のテーブルにお越しください。」
父の言葉を合図に、男の子達は私のいるテーブルに集まって来る。
私は人の気持ちは分かるのだが、話すのは苦手だ。一応貴族として最低限はできるが、どうしても人の気持ちを考えすぎてしまうのだ。
「リフィアニールです。皆様、リフィアとお呼びください。」
「リフィア様、お美しいですね。」
「私が会った中でリフィア様が1番綺麗です。」
「綺麗なピンクのドレスがとてもお似合いです。」
皆次々に綺麗な社交辞令を述べる。
普通の7歳の女の子であれば素直に喜んだかもしれないが、私は喜ぶふりをする。
貴族の社交辞令など、彼らにとっては挨拶と同じくらいの気持ちで口にするものだ。
心のひとつもこもっていない。
その後は、今何を勉強しているだとか、家で何をしているだとか、趣味の話とか、当たり障りのない話をした。
運命の王子様には今回は会えなかったか。そんなことを考えていた。
が、ふと1人の男の子が気になった。
茶色いクルクルとした髪に大きな黒い瞳。
彼は、この中で最年長の10歳の子だったか。
最年長のせいかもしれないが、何処か大人の雰囲気を持っていた。
この世の全てを見通しているかのようにも見えた。
初めて、この人と友達になりたいと自分から思えた。
どこかに2人で抜け出せないか。
「あ、あの……」
「リフィア様は外国などに興味はありますか?」
となりの子から横槍が入った。
「そ、そうですね。興味はありますが、行ってみたいとは思いませんわね。将来この家を継がなければならないので。」
「そうなんですね。僕は………」
チラ、と彼の方を見ると、ばっちり目が合った。
少し驚いた顔をしていた。
(もしかして……)
そんな彼の心の声が聞こえた。
リフィアは自分と同じように人の心が分かる人に会ったことがない。もし会えたらどうなるのだろうか。
不安と期待が入り交じる心臓は、いつもより早い鼓動を打っていた。
ティータイムも終わり、自由時間になった。
「お母様、お父様、私、あの方が気になるのです。」
「あら、アレン様ね。いいじゃない。行ってらっしゃい。」
(侯爵家の子だわ。やっぱりリフィアもいい目をしてるわね)
あら。そうだったのか。まあ、悲しまれるより喜んでくれた方がいいか。
「あの、2人で話すことってできませんか?」
「2人で?そうね。いいわよ。」
(それくらい気に入ったってことかしら。嬉しいわ。)
「ありがとうございます。」
心の声は少し気になるけど、まあいいか。
アレン様のご両親は私のお父様とお母様が読んでくれたので、私はアレン様を連れて庭の外れに向かった。
「アレン様、ご家族との時間を申し訳ありません。」
「いいんです。僕もリフィア様と話したかったので。」
「よかったです。」
「………………」
「………………」
何となく、聞き出しにくくて沈黙ができてしまった。
貴族的にはアウトなのだが。
「リフィア様。」
「は、はいっ」
「あの、、その、、、精霊を、見たことはありますか?」
「え?」
精霊?予想外の展開に頭がついて行かなかった。
精霊と言えば、精霊魔法。
この世界には水、火、緑、命、土、風、精霊魔法がある。基本的に人は1つ、たまに2つの魔法が使えるのだが、精霊魔法は1番使える人が少ない。
精霊魔法は、物を動かしたり、操ったり、他の魔法の一部を使えたりする。
例えば、緑魔法は植物を作ったり育てたり操ることが出来る。対して精霊魔法は植物をゼロから作ることは出来ないが、育てたり操ることはできるのだ。
だが、精霊が見えるなんて話、聞いたことがない。
「やっぱり、なんでもないです。ごめんなさい、変な事聞いて。」
(リフィア様は、違ったのか。)
え?
「待って!」
スっと歩き出したアレン様の袖を掴んだ。
「あ、あの、、教えてください!その、私も聞きたいことがあって!」
「………」
アレン様は既に私に興味を無くしたのか、無機質な瞳で私を見ている。
「わかりました。」
(一応聞いておこう。ヒントになるかもしれないし。)
え。ヒント?
意味はよく分からないが、とりあえず皆の所に戻るのは阻止できたので良しとする。
「私には、秘密があるんです。誰にも、親にも教えていない。だから、それを教えたら、アレン様も秘密を教えてくれますか?」
貴族の交渉の基本は、自分から情報の引き出しを少し開け、次に相手にも少し開けさせ、また自分が開け、相手に開けさせ、の繰り返しである。だが、この状況では一気にやらないとダメだと思った。
まだ学校で習ってちょっと練習しただけだけど、私の短くても濃い経験が言っている。
「その内容によります。」
(子供だし、宝石の隠し場所とかか?そうだったら、僕も適当にそれっぽいことを言うか。)
う。年下だからって。自分も子供のくせに。
でも、私は言うべきだと思った。ただの勘だけど。
言うべきだし、知るべき。運命だと思った。
「分かりました。お教えします。
私は──────人の心が分かります。」
「……………」
私は伝えた。
人の考えていることが分かるために、辛いことがあること。
親に心から愛されていないこと。
周りの人を心から信頼出来ないこと。
そのせいで、自分が無理に大人になり、苦しいこと。
いつかの本当の愛を信じつつ、疑ってしまうこと。
今日、貴方が自分と同じかもしれないと思ったこと。
気づけば、涙が出ていた。
(この子なら、話しても、いいのか?)
アレン様は、私を優しく抱きしめてくれた。
私の涙で服が濡れてしまったけど、申し訳なくもすっきりした。
「私の秘密は以上です。聞いて下さり、ありがとうございました。もしアレン様が秘密をお聞かせくださるなら、またご連絡下さい。」
私は綺麗なお辞儀をした。
もしかしたら、私は誰かに話を聞いてほしかっただけなのかもしれない。アレン様の秘密を無理に聞き出す必要は無い。そう思いながら、歩き出そうとした。
「待って!」
「え?」
今度はアレン様が私の袖を掴んだ。
「僕の話も、聞いてほしい、です。」
(僕の心は限界なのかもしれない。でも、この人なら……)
「もちろんです。」
アレン様は体育座りになって、遠くを眺めた。
私も同じようにした。
「リフィア様は、水魔法使いでしたよね?」
「はい。」
「僕は、2つ魔法が使えるんです。命と、精霊。精霊魔法が使えることは、親にも言っていません。
リフィア様は、精霊魔法がどのような原理で成り立っているか、知っていますか?」
魔法の、原理。そんなこと、少しも考えたことなかった。私は、自分のことに精一杯だったから。
「いえ、知りません。」
「精霊魔法は、精霊が物を動かしてくれるおかげで成り立つんです。」
「…………」
「僕は、精霊が見えます。普通の人は見えないけど。」
「………」
「信じませんか?」
「え、や、あの、信じ、ます。」
「ふふ。リフィア様は素直ですね。僕もリフィア様ほどはっきりではないんですけど、何となく人の気持ちは分かります。
じゃあ、、証明しますね。」
アレン様は、手を草の上に置いた。
「アル、草を伸ばして。」
次の瞬間、アレン様が手を上に上げるのと同時に、手に吊られるようにして草が伸びてきた。
草魔法とは、少し違うやり方で、初めて見た。
「アル、草を元の大きさに刈り取って。」
今度は、伸びた草が根元から切れ、見た目は元通りなり、刈られた20センチ程の草がその上に落ちてきた。
「凄い。あの、アルって?」
「僕の精霊の名前です。名前がないと不便なので、僕がつけました。」
「そうなんですね。」
「アルが言うには、僕みたいに精霊が見える人は精霊魔法使いの100人に1人で、この国にも以外といるみたいなんです。」
「精霊と、話せるんですか!?」
「はい。精霊が、見える人は皆話せるみたいで。でもその場合、今みたいに言葉に出さないと伝わらないので、普通とは違うから隠そうってアルと決めたんです。」
「そっか。普通は『精霊よ』って言うだけで使えるから、目立ってしまうんですね。」
「でも、アルが言うには見える人はほとんど隠しているらしいので、僕はその人たちを見つけて、見える精霊魔法の地位を確立したいって思ったんです。でも、アルと話すためによく1人で閉じこもったり、話しているところを聞かれて、幽霊と話してるとか変な人だっていう噂をたてられちゃって。貴族としては落ちぶれてしまいました。
もう、どうしたらいいか分からなくて。アルは貴族のことはよく分からないみたいだし。」
アレン様は顔を足に埋めてしまった。
泣いているのかはわからない。
「話してくださってありがとうございます。
これは、2人だけの秘密にしませんか?私はアレン様の秘密を誰にも話しませんし、精霊が見えるかもしれない人も探してみます。だから、これからも会いませんか?私の話を聞いて欲しいんです。」
初めて自分の本心を言葉にできた。
が、次の瞬間ハッとした。
このお見合いの日に、これからも会って欲しいという言葉。それは、私たちの未来を考えて欲しいと言っているのと同じ意味、つまり、告白してしまったのだ。
ガッと一気に体温が上がり、顔が火照った。
思わず覆ってしまった手の隙間からチラとアレン様を見てみると、普通の顔色でスンとしているが、耳だけは真っ赤に染っていた。
「ああ、あ、、いや、あの、、これは、その、、、」
どうしよう。パニック。言葉が出てこない。
「僕と付き合ってください。結婚も、視野に入れて。」
「へ!?」
さらにパニック。
身体が燃えているようだった。
今度はアレン様の顔も、ピンクになりかけていた。
「どう、かな?」
「っ!」
心臓が高ぶりすぎて、声が出なかった。
代わりにコクコクと手で顔を覆ったまま頷く。
この人が私の王子様だったのかとか一瞬思ってしまったら、もう平常心ではいられなかったのだ。
その後、私の顔色が元に戻るまでしばらく待ってもらい、手を繋いで皆の所に戻ると拍手で祝福された。
私の両親は勿論、アレン様のご両親も
(あんなに1人が好きだった子が結婚できるなんてっ!)
と感動してた。本当に誤解されてるんだって何故か感心しちゃった。
「アレン、見つかったわよ!」
10年後、ようやく結婚できた私たちは、2人目の精霊が見える人を見つけた。
「ほんとか!?どんな人?」
「あー、それがね、セルバスだったのよ。」
「えっ!?」
セルバスは、私の家の執事で、私が産まれる前からこの家で働いてる。
「私も精霊にセンという名前を付けているのですが、センに誰にも言わない方がいいと言われまして。最初はリフィアお嬢様ももしかしたらと思ったのですが、どうやらリフィアお嬢様は本当に1人が好きなだけのようでしたので、それ以降は探すのを諦めました。」
だって。
まあ私も、仕事ができる執事だなくらいにしか思ってなかったけどさ、なんかな〜。
「でも1人いるだけで心強いよ。これからの希望が見えてくる。」
「そうね」
それから私たちは約70人の精霊が見える人を探し出し、視精霊魔法という新しい魔法の種類を作り出した。
「次はリフィアみたいな人を探そうよ。人の気持ちが分かる人。」
「いるのかな?」
「きっといるよ!それも新しい魔法にできるかもよ?」
「ふふふ。そうね。」
こうして私たちは順調に侯爵へ、そして公爵への道を歩んでゆくのであった。
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