表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

 そして、召喚魔法陣を発動できずに、試験本番に来てしまった私。


 試験会場には、ミネルヴァ教授と野次馬の生徒がずらりと顔を並べている。


 私の失態を見物しに来たのだろう。とても、暇な奴らだ。



「分かっているわね? これで、合格できなければ、即退学よ」

「はいっ!」


 ミネルヴァ教授は、先がコゴミのように、先端が渦を巻いている杖を掲げる。


 すると、野次馬すれすれに、試験会場を囲むような結界が張られた。


 杖をもう一振りすると、ミネルヴァ教授の隣に藁でできた人形が立つ。


「この人形を壊せたら合格よ。制限時間は30分。合格に向けて、頑張るのよ」


 ミネルヴァ教授がピーッと笛を鳴らすと、カチリと音が鳴る。


 試験会場の壁にあるタイマーが、29分に変化していた。


 試験はもう、始まっている。


 本番まで、碌な成果がない私にできることは、限られている。


 練習ではできなかった魔法陣に、一通り魔力を込めるだけ。それしかない。


 私は4つの魔法陣を広げると、それぞれに魔力を注いでいく。


 柱、喚、神、鬼。どれもありえそうで、間違いでもありそうな魔法陣だ。


 やけっぱちになっていた私は、魔力不足になるのも覚悟でどんどん注いでいく。


 小心者でもある私は結果を目視できず、成功も失敗も分からないうちから、目を瞑る。


 後がないのだ。孕み腹には、なりたくない!!


「えっ」


 野次馬の誰かが、素っ頓狂な声を上げた。


 野次馬の目線を辿ると、私が注ぐ魔法陣に視線が皆行っている。


 つられて、私も魔法陣を見る。


「ええっ、光っている!?」


 魔法陣は、きらきらと発光していた。


 それも、四枚全て。


 白に赤、青や緑に黄色と、あらゆる色を飛ばす魔法陣に目を見開く。


 多くの色を混ぜ合いながらも、溶け合わない光に、緊張も忘れて圧倒してしまう。


 惚けていた私は、ハッと意識を取り戻すと、命を投げ出す勢いで祈りを捧げる。


「お願いします。私に力を貸してください。何でもやります、あげますから!!」


 私の必死な祈りが届いたのだろうか。四枚全ての魔法陣が、さらに光出す。光は柱のように天まで伸び、上から徐々に散っていく。


 光が収まると、4つの影が魔法陣に見えた。


「あー。だりぃ……久しぶりに呼ばれたぜ」


 気怠げな、男の声。


「契約者に初めて呼ばれたっ!」


 どこか、歓喜回った少年の声。


「うむ。とてもよい魔力じゃ」


 艶やかな女性の声。


「ドンッ!!」


 地面に突き刺さる鉱物の音。



 眩しさに閉じていた目を、恐る恐る開ける。


 私の目の前には、三人の人外と一つの剣が刺さっていた。


「だ、誰?」


 

「え、僕のこと忘れたの?」


 泣きそうな声を出す少年の姿に、罪悪感が心を支配する。


 光に溶けるような、淡い金髪は肩ほどでざっくばらんに切り揃えている。珍しい紫色の瞳は、目尻にじわじわと涙が溜まっていく。


 怜悧な美貌は、少年らしい愛らしさによって、冷たい印象が薄れている。


 この少年、目も眩むほど美しいのだが、見覚えのあり過ぎる容姿なのだ。


「アレンのちっちゃいバージョンがっ」

「アレンは僕の分身だよっ。そんなことも、忘れたの?」


 私は、心中で「知らねないよっ」と叫んだが、一つ心当たりがある。


 子どもの頃に発動させた召喚魔法陣は、成功していたとしたら……


「もしかして、私が子どもの時に召還した?」

「なーんだ、覚えているんだ」


 よかった、よかった。と、少年ーーアレンは呟いている。


「おいおい。俺を忘れるなよ」


 声がした方に顔を向けると、気怠そうな男が立っていた。


 退廃的な美を体現した男だ。


 垂れ目で、薄く微笑む姿は穏やかそうな人柄がに見えるだろう。


 しかし、瞳には鋭さを宿す力強さがあり、どこか悪辣さを滲ませた、油断ならない男にしか見えない。

 

 そして、真っ黒なウェーブした髪の間から出ているとんがった耳と、額から伸びる長く白い角は、男が人間じゃないことを示している。


「どちら様で?」

「お前じゃねぇか、俺を、鬼を喚んだのは」

「あっ」


 もしかして、鬼の召喚魔法陣から出てきた奴か。


「はい。そうです、私が喚びました」

「そうかそうか」

「むむ、妾を忘れるでない」


 私の頭ががちりと押さえられると、無理矢理女性を見るように動かされる。


 ゆったりとしながらも、艶やかな着こなしをした美女は目の毒でしかない。


 毛先に向かって、淡くなる紫色の髪を背中に流す姿は、老若男女を虜にする。


 綺麗に微笑む姿は、絶世の美女が自身の魅力を駆使して、世を支配しようとするものである。


 背中には、宝石の硬質さを宿したかのような羽を広げている。風に揺れるたびに、羽筋を煌めかせ、色を変え、キラリと輝かせている姿は溜息を吐くほど麗しい。


「えっと、神様ですか?」

「違うぞえ。妾は妖精じゃ、喚の魔法陣から喚ばれたのじゃ」

「じゃあ、アレンが神様なの?」


 恐る恐る、私はアレンに聞いてみる。


 アレンはキョトンとした顔になると、ケラケラと笑い、「違うよ」と口にする。


「神様はあれだよ」


 アレンが指した先には、地面に突き刺さる剣。


 装飾は最小限に抑えられている、実戦用として考えられている白銀の大剣は、妙に神々しい。


 私が大剣に目を向けると、光を放つ。その姿は「ここにいるよ」と伝えているみたい。


「え、あの剣が?」

「む。失礼な。あの剣様は、剣神デオパルト様ぞ」


 妖精が非難の声で、剣の正体を告げる。


「で、ララ。僕たちに何をして欲しいの?」

「あの藁人形を、壊して欲しいの」

「了解」

「分かった」

「そんなことでいいのかえ」


 口々に、了承の言葉を言いながら、人形へ攻撃を始める。


 アレンは両手を、人形へ焦点を当てる。すると、青い光が溜まっていく。


 妖精は、片手を厨二掲げると、私には分からない言葉で詠唱を始める。


 鬼は剣神を担ぐと、ニヤニヤと笑いながら視線は人形へ向ける。


「はっ」

「ふんっ」

「やぁ」


 示し合わせたかのように、息を合わせての攻撃。


 アレンが溜めた光が線となり、人形へ向かう。

 

 妖精の掲げた手が勢いよく下げると同時に、空から雷が落ちる。


 鬼は背負った剣神を勢いよく、人形へと投げつける。


 人形は、人外×3の攻撃を浴び、勢いよく爆発する。もくもくと黒い煙を上げ、晴れた先には人形の欠片一つもない。


「あっ、あっ。デオパルト様っー!!」


 悲痛な妖精の悲鳴が、試験会場に響いた。










 それから、2日後。


「はい。合格証明書」

「ありがとうございます」


 ミネルヴァ教授は合格証明書を渡すと、視線をアレンへと移す。教授は、机から一枚の紙を取り出すと、アレンへ渡した。


「君には、これ」

「召喚契約証明書?」

「君、ララさんの契約者なんでしょう。だったら、学生の立場はあげられないわ」

「ああ。そうですね」


 アレンは証明書を受け取ると、懐に仕舞った。


 教授の研究室から退出し、廊下を歩くと、多くの視線を感じる。


 恐れ、妬み、どこか憧れを秘めつつも、侮蔑を含んだものばかり。


 何だか居心地が悪く、私は身を縮こめて歩く。


「……今は幻の召喚術師なんだぞ。そんな小さくしてないで、大きな態度でもしたらどうだ」

「人間、そんなにすぐに変われはしないよ」

「……お前が変わる気がないだけだろう」


 呆れを含ませながら、アレンは忠告まがいなことする。


「変わる気がない、ね。召喚した力って、本当に私自身の力って言えるのかな?」

「随分、つまらないことで悩んでいるんだな」


 非難を込めて、アレンを見上げる。


 アレンは私を見つめると、ニヤリと口角を上げる。


「お前に世界を見せてやろう」

「え、急にどうしたの」


 がしり、とアレンは私の腕をとると、颯爽と歩き出す。


 私は困惑しながら、アレンに引っ張られながらついて行く。


 まぁ、百歩譲って、世界を見せてくれることは、楽しそうだ。このまま着いていきたい気持ちが、湧き上がるというもの。


 しかし、大きな問題がある。



「ねぇ。私、まだ卒業していないよ。だから、遠出は難しい」

「あっ」


 アレンは忘れていたのか、瞠目する。足は緩やかになり、ピタリと立ち止まった。


「そうだった、そうだった」

「あなたにも、忘れることがあるのね」


 目をぱちくりさせながら聞くと、アレンはそっぽ剥きながら、頬を掻いた。


 これからの学園生活が、どんなものになるのかは分からない。


 しかし、孕み腹の未来が羽を付けて去っていったことを思うと、知らず知らずのうちに弧を描いた。



 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ