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前編

注意


 人によっては、地雷となる言葉があります。


 世界は、不思議に溢れている。


 魔法が溢れる世界は、私にとって夢や幻の世界だ。

 

 指先一振りで、火を灯したり、水を出したり。体のうちにある魔力で、何でもできるのだ。


 憧れが膨らむ、というものだ。かく言う私も、魔法に憧れている。


 私が住む国には、大陸最高峰の魔法学園がある。庶民でも、一定以上の魔力さえあれば、入学することができる。


 もちろん、私は学園に入りたいと、試験を受けた。


 学園史上、一番の魔力量を記録したが、私は現在、落ちこぼれとして有名だ。


 魔力には色があり、その色によって、操れる属性が決まる。


 単色であれば、その属性を天井まで極めることができる。


 混色であれば、混ざった属性をほどほどに使うことができる。


 どちらであっても、使える人材になれるのだ。


 だから、魔力量だけあっても、透明な色を持つ私には操れる魔法がないのだ。


「ララさん。やはり、貴女には才能がありません」


 私の担当教授である、ミネルヴァ教授が眼鏡の弦を上げた。


 眼鏡の奥にある瞳は、呆れと失望が宿っている。「どうして、貴女みたいなのが、この魔法学園にいるの?」と、瞳で語る。


「あの、今年芽が出なかったら、辞めるので、待っていて下さいませんか」


「……はぁ、仕方がないわね。一週間後、追試をするから、それに合格したら、一年は受け入れるわ」


 あからさまに溜息を吐くと、苦笑した。どうせ、一年で辞めるんでしょう。と思っているのが、見て取れる。


 それでも、ミネルヴァ教授は学園内では、とても優しい方だ。


「ありがとうございます!」


 ガバッと、勢いよく頭を下げると、教授の研究室から退室した。


 戸を閉める直前、私はミネルヴァ教授が興味なさそうに片手を上げたのを見た。


 茜色の日差しが廊下を照らす中、私はゆっくりとした足取りで歩く。


 ふと、目の前を見ると、腰ほどまである金髪をきつく巻いた女性が歩いていきた。背筋を伸ばして歩く姿は、堂々としていて、自信が透けて見える。彼女の背後には、同じように高貴な女性が連ねている。


 女性は空のように明るい瞳に私を納めると、スッと口角を上げた。


「あら、ララさんではなくて」

「……アンジェリカ様」

 

 アンジェリカ様はバッと扇を広げると、口元を隠した。


「まだこの学園にいるのです? 才能がないのです、早々に立ち去るのがよくて?」

 

 アンジェリカ様が言うことは、教授も生徒も皆が考えていること。


 私は反論できなくて、口を噤んだ。その様子を見ていたアンジェリカ様は、目が弧を描いていく。


「才能のないあなたはここから去って、早く別の道を探した方がよくてよ。そうでないと、価値のない行き遅れまっしぐらよ。よければ、私。紹介してあげましてよ」

 

 鈴がなるような可愛らしい笑い声を上げながら、アンジェリカ様は取り巻きを引き連れ去っていった。


 彼女は女神の如き美貌を誇るが、その性格は悪辣だ。それも、たちがとても悪い。人前では、女神の美貌に恥じず、慈悲深く、優しい性格をしている。


 その実態は、柔らかい言葉で悪口を言い、他人の手で自分の邪魔になる人を潰している。女神と言うより、悪魔と言った方がいい性質だ。


 私は彼女によく絡まれるが、排除対象としてではない。ただの、ストレス発散するための物として、彼女は私を認識している。


 しかし、今の私には、絡んでくるアンジェリカ様を気にしている暇がない。早く、何か認められるだけの魔法を身につけなくては。




 

 

 とは言っても、いざやろうとすると難しい。魔法のランクは5つあるが、私は最低ランクしか使えない。


 ランクは低級、中級、高級、特級までは既存の魔法。最後に、禁級があるが、それは既存の魔法以外か忘れ去られた魔法がそれに該当する。


 今現在、禁級には、世界で五人しかいない。


 この学園には学生なのに、すでに高級を使える人もいるようで、その人は各国の魔法宮や研究所に引っ張りだこらしい。


 魔法宮でも研究所でも、魔法使いからすると夢の就職場所だ。そこに所属しているだけで、色んな特権が使える。


 ……落ちこぼれの私からすると、夢のまた夢の話だが。


「おい、落ちこぼれ」

  

 私は落ちこぼれという名前ではないので、無視だ無視。


「おい、落ちこぼれ」


 無視だ……無視。


「……反応しろよ、ララ」

「なんでしょうか」


 とうとう名前を呼ばれたので、振り返る。


「さっきからずっと呼んでいるだろう。分かっていたなら、反応しろ」

「私の名前は呼ばれなかったので」

「落ちこぼれといったら、お前しかいないだろう」


 失礼なことしか言わない男は、私の幼なじみのアレン・ヴィジだ。


 幼なじみと言っても、私は庶民、こいつは男爵子息ではあるが。


 こいつは、美術館か。と思えるほど、美しい顔が多い貴族の中でも、一級品の美貌を持っている。


 光に透けるような淡い金髪を下で緩く結び、珍しい紫色の瞳は周りを魅了する。


 氷のように涼やかな美貌は、どこからか色気を溢れさせ、見るものを失神させる。


 こいつが通った後は老若男女問わず、失神者が溢れかえっている。


「で、大丈夫かよ。お前、ここで合格しないと退学だろう」

「どうして知っているの?」

「いや、ちょうどお前がミネルヴァ教授に懇願しているところを聞いていただけだ。廊下まで、声が響いていたからな」


 アレンは視線を下方にずらし、言い淀みながら話した。


「このままじゃ、お前」

「……そこも知っていたの?」

「……たまたま、聞いていただけだ」


 アレンは、何故か私の事情に詳しい。


 いつもどこで聞いていたのか、私に関しては私以上に詳しいと言える。


「手紙が来たの。次、進級できなければ、帰って孕み腹になれと」


 どこかに実家が入れた、監視役がいるのだろう。隠している私の状況が、全て実家は把握している。


 だからこその、孕み腹になることを命令しているのだろう。


「……アムダ教も、腐っているな」


 アレンの言うとおり、アムダ教は腐っている。


 私の父は、アムダ教の枢機候の一人だ。母は、孕み腹の一人。私は誰から生まれたのか、知らない。


 アムダ教は庶民--王族や貴族のまま、神官や巫女にはなれない。必ず、身分や権力を捨てなければいけない。


 ならば、マムダ教には権力がないと思うが、実際は上層部は小国以上の権力を一人一人が持っている。私の父も、その一人だ。


「お前はいいのか? このまま、孕み腹になることで」

「いいわけが、ないでしょう」


 劈くような声が、辺りに響いた。


「だよな。でも、どうするつもりだ。低級でさえも、お前は発動できないじゃないか」

「そうだけど……」

  

 それでも、孕み腹になることだけは嫌。家畜と同じだ。魔力量が多い子どもを、計画的に産むだけの道具になるのだから。


 元々、ろくに魔法が使えなければ、孕み腹になる決まりだった。


 多くの孕み腹出身の子どもでも、魔法を使うセンスがない魔力量だけある子どもは、孕み腹になっている。


 見たことがない母の姿は、刻々一刻と迫る、私の未来の姿だ。


「でも、昔。一回だけ、魔法を発動したはず。だから、魔法が使えないことはないはずなの」

「俺もそのとき一緒にいたしな。覚えている」


 昔、アダム教の本神殿に忍び込み、禁書庫の中にあった魔法を使った覚えがある。


 準備も簡単で、魔法陣を描き、その中に魔力をありったけ注ぎ込む。というものだったはず。


「おい、それを覚えているのなら、それを使えばいいじゃないか」

「ああっ。その手があったね」


 いつもは何も反応しない魔法が、あのときだけ反応が起きた。とは言っても、魔法陣が光っただけだが。


 「あれを練習すれば、光るだけではなく、しっかり発動できるかも」


 一筋の希望が見えた。


 教授らは、学園で学んだものだけ。とは言っていない。だから、あの時に使った魔法でも大丈夫なはずだ。


「でも、あの魔法陣覚えているのか?」

「安心して、覚えているわ」


 禁書庫に忍び込んだとき、不発だったが、父に見つかってしまった。父は私が描いた魔法陣を廃棄していたが、実はもう一つ残している。


「そうか。お前、そういうずる賢さはあるよな」


 呆れた視線を向けられるが、私はそれを感じる隙間はない。


 開けた世界に、いっぱいっぱいだった。





 明くる朝。今日も学園があるが、私が取っている授業は、午後からになる。午前中は暇なのだ。


 その時間を利用し、魔法実習棟の一室を借りて、練習をするつもりだ。


 魔法実習棟は、歴史ある学園に相応しい、荘厳で堅牢な雰囲気を発している。


 所々に、蔓草が壁を覆い隠し、煤けた煉瓦がその長い歴史を感じさせる。


 入り口の扉は、上半分が擦りガラスになっている。木枠の木目が濃く、少しざらついている。


 扉を開けると、ギィッと耳にこびり付くような音を立てる。


 以外に、中は綺麗なもので、何回も新調している跡が見える。


 大陸最高峰というだけあり、どんな時でも最新設備である。


 魔術棟には、大小様々な部屋がある。個人練習のための部屋から、大人数での利用までと、そこ全てに防魔壁を使用し、殺傷無効魔法陣を全ての部屋に使用している。


 私はもちろん個人での練習なので、小さな部屋を借りた。ミネルヴァ教授は、私へ期待はしていないので、辿り着いた部屋は棟の端の端にある部屋の鍵だった。


 まさに、追いやられた。といったところだ。


 残していると言ったが、実際の物はとてもボロボロだ。


 真っ白だっただろう紙は黄ばんで、ところどころ切れている。中央に描かれた魔法陣は、インクが薄くなり、場所によってはほぼ消えている。


 魔法陣の修復から始めないと、使えるものも使えないといった状態だ。


「おい。どうだ、成果は?」


 修復作業をしていると、教室にある唯一のドアがけたたましい音を立て、アレンが入ってきた。


「まだまだよ。修復も、思い出しながらだから、全然進まないの」

「どれどれ……本当だな」

「こればっかりは、時間がかかってしまうから」

「でも、そのスピードで大丈夫か? 試験まで、一週間もないんだぞ」


 修復から一旦手を離すと、眉を下げ、緩く口角を上げた。


 その姿を見たアレンは眉を顰める。


「……諦めたのか」


 私は首を何度も横に振る。


「いや、それはないよ。孕み腹には、なりたくないもの」

「それはそうだよな」


 アレンはホッと息を吐いた。


「で、一週間以内に終えれる自信はあるのか?」

「ははは」


 からり乾いた笑いが、部屋に響く。


「自信なんて、ある訳がないでしょう」

「……どうするんだよ」


 死んだ魚のような目をしている私へ、アレンは呆れた視線を投げた。


「どうするも、何も。あのときに写した魔法陣が、あんなに難しいとは」

「……どこが、分からないんだ?」


 アレンは魔法陣を挟んで、私の向かいに腰を下ろした。


「ここ」


 私が指を差したところを認めると、アレンは難しい顔になる。


 この魔法陣は、よくある円形陣だ。丸い外枠の中に、色んな文字が書かれている。


 大きな円の中に、小さな円がある。円はどちらも、二重線になっていて、そのなかに文字が書かれている。


 小さな円を囲むように、三角形を描いた二重線がある。その点になる部分には、円ががあり、その中に文字が書いてある。


 しかし、私は円の中の文字を見たことがない。


「これは……」

「分かった?」

「半分は」


 アレンは立つと、教室にある本を一つ取って持ってきた。本というには薄いので、小冊子と表現した方がしっくりくる。


 表紙には、”ラーム古代語一覧”と書いてある。


「ラーム古代語?」

「この国の二代前の国の古代語だ」

「伝説と言われている、ラーム魔法国?」

「そう、それだよ」


 伝説の国、ラーム魔法国。私たちの国、スズレ国の前身、レイム帝国の前身と言われている。


 今、世の中で使われている魔法のほとんどが、ラーム魔法国時代に作られたものと言われている。


 しかし、今の魔法にラーム古代語が使われていないのは、レイム帝国時代に、今の言葉のレイム語に変換したからだ。


 パラパラと捲っていくと、ページ一つ一つに文字に対しての説明がある。


「これを見ながらなら、お前でもできるだろ」

「……何だか、釈然としないわ」


 ラーム古代語一覧をじっくり読みながら魔法陣を解ていくが、ほとんど進展はしない。やはり、円の中の文字が分からない。


「あーっ、絶対無理じゃん!」


 手に持っていた本を、宙に放り投げた。本は、無惨にも開かれた状態で転がっている。


「……本当に、進んでいないな」

「難し過ぎるんだよ。法則性もないし」

「何を言っているんだ。法則ならあるだろう」


 アレンは三角点の円の内、一番濃く残っているところを指す。


「ここは、天」


 次に濃いところへ、指を移動させる。


「少し薄くはなっているけれど、地」


 指はまた移動を始めると、今悩んでいるところへ辿り着く。


「ここはほぼ、残っていない。それでも、少しは何かが残っているはずだ」

「えっ……何も見えないよ」


 頭を移動させて、じっくり観察しても何も分からない。


「ぎりぎり、見える部分があるだろう」

「まぁ、あるけれど」

「その中から、該当する文字を探すんだよ。ラーム古代語は少ないんだし、すぐに分かるだろう」

「え……なに、面倒くさい作業なんだけど」


 げっそりとしていると、向かいでアレンが青筋を浮かべていることに気付く。


「いやいや、冗談だよ。退学したくないからね」

「はいはい。なら、さっさとやれ」

「はーい」


 重い腰を上げると、転がっている本を手に取る。


 文字をじっくり見ながら共通点を探しては、候補から弾く。


 その作業に、三時間。残った文字は、柱、神、喚、鬼。その四文字だった。


「……駄目だ。法則性が分からない」


 「あ”ぁ”ーっ!」と呻き声を上げ、本どころか、今度は魔法陣と候補の文字を書いた紙も放り投げる。


「無理だよ、どう頑張っても無理だよ。残っていたのが、上にある点だけ。ていう時点で、終わっているもの」


 言い訳をつらつら述べながら発狂している私を、アレンは酷く冷めた目で見ている。


「ここまできたら、あと少しだろう。召喚なんだから、それと天と地に関連する文字と考えろ」

「し、召喚っていうことは……喚かな」



 喚を書き込むと、魔法陣は出来上がった。古くなった方と比べても、変わりがない。


 あとは、魔力を注ぐだけ。


「お願いします。何でもいいから、出てきてくださいっ!」


 祈りを捧げるように、魔法陣に魔力を込める。


 


「……あれ?」


 何も起きない。


「おい、どうなってんだ」


 流石にアレンもおかしいと思ったのか、魔法陣を覗き込む。


 頭を上げると、アレンは眉を寄せ、小難しい顔をしている。


「何も、おかしなところはないな。文字を間違えたか?」

「うーん。じゃあ、次は柱で」


 新しい紙を準備し、魔法陣を書き込んでいく。


 出来上がったものに魔力を込めるが、何も起きない。


 そして、私は何度も繰り返し、候補の文字が一つもなくなってしまった。



「どっ、どうして。何で、何も起きないの!?」

「……俺にも分からん」

「私は嫌よ。孕み腹なんて!!」


 魔術棟には、私の悲痛な悲鳴が響いた。



 そして、試験本番まで、何も進展はしなかった。

明日、午前9時に後編を投稿します。

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