A隊の日常
新作です
投稿は不定期です
特定非営利活動法人『Socaial Network Service Entertainment Rating Organization』
通称『SERO』と呼ばれるこの法人団体は、ゲームソフトの年齢別レーティングなどを表示するCER〇の姉妹法人団体であり、SNSなどのインターネットツールで投稿された静止画や動画に【尊死レベル】のレーティングを表示する仕事を主としている。
2000年代前半、世界的な不況に見舞われて以降人々は常に癒しを求めてきた。
その癒しの場となったのがSNSであり、日常の不安不満を書き込み共感を得たり、動物たちや赤ん坊などの癒し動画を見て心を落ち着かせたりと用途は様々であるが、2050年を迎える今日において普及率90%と生活に欠かせない存在となっていた。
しかし、どんなに優れた薬であっても過度な使用、体に合わない強力な薬は毒となる。
2045年3月5日午前3時51分。世界を揺るがす事故が発生した。
SNS上に投稿された4コマ漫画を見たアメリカンな学生が尊死したのである。
漫画の内容はツンデレ幼馴染が3コマ目までは主人公にキツく当たるシーンが続き4コマ目でデレを垣間見せる王道な内容であったが、この学生の性癖にピンポイントで刺さったらしく即死だったようだ。
この事で学生の両親は投稿者に対し抗議を行い、政府も重く受け止めて結成された機関こそ特定非営利活動法人SEROである。
全ての生物は不意な出来事に対応する事は難しいが、前もって注意を払っていれば最悪の事態は免れる。
その為SNSなどに静止画、動画を投稿する際には必ずSEROの監査を経て【尊死レーティング】を表示させるのが法律で義務化された。
利用者はこの表示を確認し相応の覚悟で臨まなければならない。
これは全人類が安心・安全なSNSライフを送るためには欠かせない、その道のプロ達の血と涙の物語である―――。
「ごばぁっ!!!」
「本木さんっ!? 隊長! 本木さんが血を吐き出して倒れました!」
「生沼さん! 兎さん! AEDお願いします!」
「了解! ウサちゃん、AED持ってきて! 俺は本木の服を脱がしておく!」
「わかった!」
特定非営利活動法人 A隊の仕事場であるオフィスには日常の光景が広がっていた。
人々に安心・安全なSNS癒しライフを送ってもらうためには、このSEROの社員の犠牲がつきものだからである。
この場合、社員一丸となり負傷者の救護に当たらなければならない。
「本木! 大丈夫か! しっかりしろ!」
「妹…で、母性開花って……反則じゃ、ね?」
「くそっ! ダメだ逝きかけてる! …! こ、この投稿は『危険物取扱注意』が表記されてるじゃねーか! 本木! お前また注意書きをよく見ないで中身確認したな!?」
「ママン…、ママン…」
隊長が本木に呼び掛けてる間も生沼は虚ろな表情でいる本木のワイシャツを脱がし気道の確保、心肺蘇生の胸骨圧迫を怠らない。
そうしているうちに兎がAEDを持って戻って来て生沼と手早く準備した。
「電極パッド、よし!」
「成人モード、よし!」
「よし! ショック始め!」
ビクンッ! と本木の体が反応するが意識は戻らない。
それほどまでに今回の仕事が危険なものだという裏付けでもある。
「隊長! 本木さんの心拍数が危険な状態です!」
「兎さん! ショックを続けて下さい!」
「やっているよ!」
二回、三回とAEDによるショックを与えたところでようやく本木の心拍数が回復しだした。
「やりましたよ隊長! 生さん! ウサさん! 本木さん回復しました!」
「心拍数はやや低めだが峠は越えたようだ…。おい、大丈夫か? 本木」
「た、隊長…すみません…。俺、やられちゃいました…」
「ったくお前は注意散漫だってあれほど言っただろうが。今日は医務室で休んでろ。後は俺が処理しておくから」
「す、すみません隊長…。あ、ああ後は頼み…ます」
「生沼さん、兎さん。すみませんが本木を医務室まで運んでやって下さい」
「任せとけ」
「ほら。行くよモトキ」
妹に気を付けて下さい、と言い残し生沼と兎に連れられ本木はオフィスを後にした。
先程までの騒がしかった室内からは一変空調とパソコンのハードディスクのファンの音だけが響いている。
デスクと床には本木が吐き出した血で赤く染まり、ドラマで見かけるような事故現場のようになっていた。
「本木さん大丈夫ですかねー?」
宮野春香は本木の血を掃除機で吸い取りながら隊長に話しかける。
多くの人命に関わる仕事柄、常に最先端の物資が支給されるため宮野が使用している掃除機も液体だろうが気体だろうが例外なく吸引しコンパクトな塵に圧縮する優れものだ。質量は変わらないので塵の捨て忘れに注意が必要であるのが玉に瑕である。
そんな宮野を見て隊長は小さく笑った。
「な、なんすか急に」
「いや、春ちゃんも慣れたものだなと思ってさ。ここに来たばかりの頃は血なんか見ようものなら即倒してたのに」
「昔の話はいいじゃないですか!」
顔を真っ赤にして反論する宮野。
しかしそれでも掃除の手は休めないのだから本当に慣れたものだと感心する。
現在SEROのA隊は総員六名であるのだが、その一番年下である宮野は他の隊員にも引けを取らない程優秀な新人である。
「柚木さんも明日にならないと出てこれないみたいですし、今日は徹夜ですかね?」
「馬鹿。新人にそんな仕事させられるか。三六協定があるんだから今日は定時で帰れよな。サビ残とかいう時代はとっくの昔に終わってるんだ」
「でも今日のレーティング申請の量を隊長一人じゃ無理じゃないですか?」
「今日は生沼さんと兎さんに残ってもらうよ。皆でローテーションで回せば残業時間も抑えられるだろ」
「さすが隊長。仕事の出来る上司がいて私は幸せです」
「俺だけじゃない。皆が協力してくれるから出来る仕事だ。春ちゃんも休める時に休んで、残業の日は頼んだよ」
「まっかせて下さい!」
ビッ! と敬礼する宮野。
それを見て隊長はまた小さく笑った。
SEROの仕事は過酷である。
尊死レベルのレーティングを監査するSEROにとっては申請があった静止画、動画を全て確認するのだがその全てがレーティング設定のない初物の為、常に気を張ってないと先程の本木のようにやられてしまう可能性があるからである。
ここA隊(アニメーション専門部隊)とD隊(動物専門部隊)はSEROにとっては特に過酷な部署であるため人の入れ替えが激しい職場だ。
この子も前任者のように数か月、数年で退社してしまうのではないかと心配になる。
しかしどんなに人が減ってしまっても世界の人々に安心・安全の癒しを届けるためには我々SEROのレーティング監査が必要不可欠なのだ。
そう胸に刻み、隊長は本木のパソコンに目を通し
「ぐはっ!」
た瞬間、隊長も本木同様血を吐き出した。
宮野も大慌てで救護に当たるが幸いにも本木程に隊長には刺さらなかったらしく軽傷(吐血のみ)だけで済んだ。
隊長はこの作品をSERO【Z】のレーティングマークに設定し、18才以上のみ閲覧出来る対象とした。
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