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クラリッサ日記  作者: 七尾 ぬこ
3/5

クラリッサ日記③《7月》

 はあぁっ

 と、隣に座ったレナートが深いため息をつく。これで何度目なのか、分からない。


 ヴァレリアナがアルトゥーロ付きの従卒として、コルネリオ王の地方視察に同行して三日目。彼女が帰ってくるのはまだまだ先なのに、これでは先が思いやられる。

 私だって仕事があるのに。今は休憩中だけど。日陰とはいえ、真夏の庭は暑い。それを幼馴染のために我慢して付き合う私は偉い。


「大丈夫かな、ヴァレリアナ」

 レナートは息も絶え絶え、末期のような様相だ。そのセリフも何度目なのだろう。

「なるようにしかならないわよ」

「クラリーはどうして平気なんだ!」

「だってヴァレリアナですもの。ひとりで旅に出ると言い出したときよりは、心配してないわ」

「だけど!」


 レナートが勢いこみすぎて唾を飛ばしている。汚いなあ。


「あのときは兄貴がいた。今回はいない」

「人数は比べ物にならないわ。ひとり対大人数」

「だけど全員敵!」

「……そうだけど」


 確かにそうなのだけど。ヴァレリアナは全く不安がっていなかった。むしろ旅に出られることに心踊らせていた。多分、アルトゥーロやコルネリオ王たちを信頼しているのだ。

 なんで父や兄を殺した相手をそう思えるのか不思議だ……と言いたいところだけれど、最近、さすがに分かってきた。


 ここの人間たちは、私たちの敵だった。だけど私たちと変わらない人間で、みな家族も友人もいる普通の人たちだ。けっして悪鬼ではない。

 面倒見のよい先輩メイドとか、頻繁に手伝ってくれるクレトとかを、敵として見ることはできない。


「……自分だって、従卒仲間と楽しく過ごしているのでしょう?」

 そう言うと、レナートが力を抜くのが分かった。


「……だけど、敵だ。どこかで落とし穴が待ち構えているかもしれない」

「……」

「離れていたら、ヴァレリアナを助けることも出来ない」

「そばにいたからといって、助けられるとも限らない。でしょう?」


 レナートは目を伏せた。彼は一度兄を見捨てて逃げた。そうするしかなかったとはいえ、かなり深い傷となっているようだ。どうしてなのか、ダニエレが生きて逃げてきてくれたから良かったけれど、そうでなかったら恐らく一生の負い目となっただろう。


「ヴァレリアナを信じて待ちましょう」

 これも何度、口にしたことか。

「……待つのは辛い」

「レナートはそろそろ彼女を諦めて、他の女の子に目を向けるべきよ」


 すると幼馴染は私にきつい目を向けた。

「兄貴がフラれて、ようやく俺にチャンスが回って来たんだ」

「本当にそう思っているのかしら?」


 姉が何故恋人に別れを告げたのか、誰も分からない。どうしても教えてくれないのだ。


「最近、ヴァレリアナは本気で騎士になりたいのではないかと思うの」

 それほど従卒の仕事に打ち込んでいる。


 だがレナートは不機嫌な顔をして何も答えなかった。


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