プロポーズ
ある日、イザベラに手紙が届いた。
クリストファーからお出かけのお誘いである。
今までの城での交流は、非公式だ。
家を通しての、公式な交流の始まりを告げている。
が、クリストファーからの初めての手紙に浮かれ、初デートに浮かれまくるイザベラは気づかない。
父母や使用人から生温い視線が注がれる。
クリストファーはずっと女性に怖がられていたこともあり、ぶっちゃけると女性経験がない。
真面目な性格と見た目に自信がない故に、貴族教育の閨事すらも経験がない。
初デート&プロポーズの大イベントに怖気付いていた。
イザベラの10歳の誕生日の前日。
意を決して、クリストファーはイザベラをデートに誘った。
イザベラは出会ってすぐに想いを伝えた。
毎週、クリストファーの為にお弁当とお菓子を作った。
焦らずに言葉を交わして、クリストファーと交流した。
好きなモノを探り、作った。
大事な人だと守り続け、力になった。
クリストファーは、絆された。
小さなお姫様が目を覚ますのを待っていた。
しかし、お姫様はずっと王子様を見つめる。
嫌でも知らしめた。
王子様に代わりはいない。
クリストファーは深呼吸をして、馬車を降りた。
ローランド邸にお姫様を迎えに足を踏み出した。
朝からイザベラは浮かれていた。
初めてのデートだ。
濃紺の髪は緩く三つ編みにして、前髪は銀の花のついたピンで止めた。
水色のストライプの膝下のワンピースはサッシュベルトでスッキリ着こなし、自分で刺繍したくるみボタンが可愛い白のカーディガンと合わせた。
足元はどこに行くかわからないので、編み上げのショートブーツにレースの靴下にした。
化粧はまだ早い!と言われ、イザベラは日焼け止めクリームと薄いピンクのリップクリームを作って塗った。精一杯のオシャレをしたのだ。
しかし、イザベラは控えめに言っても美少女である。
そわそわと玄関ホールでクリストファーを待つイザベラは、めちゃくちゃ可愛いのである。
プロポーズのことを知っているレオナルドは、やっと娘を嫁に出す気持ちがわかり、行かせたくなくなってきていた。
「レオ、諦めなさい。お嫁に行くまで、後5年あるじゃない」
「リリー…なんだろうね、わかっているのに…嫁に出す父親って複雑なんだね」
執事がクリストファーの来訪を告げ、玄関ホールからイザベラが飛び出そうとする。
慌ててレオナルドが抱き上げた。
苦笑したレオナルドと笑顔のリリアーヌ、レオナルドに抱き上げられた興奮気味のイザベラがクリストファーを迎えた。
「クリストファー殿、こちらが妻のリリアーヌだ。本日はイザベラをよろしく頼む」
「クリストファー様、リリアーヌです。ふふふ、お噂は聞いております。今日はよろしくお願いしますね」
「リリアーヌ様、初めまして。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。クリストファー・サフォークと申します。本日はイザベラ嬢の外出許可をいただきありがとうございます。ふふっ、イザベラ嬢、待たせたかな?」
今にも目を輝かせて抱きつきそうなイザベラをみて、クリストファーが頬を緩める。
「クリス様!はやく!はやく行きましょう!お父様、お母様、いってまいります!」
「あらあら、気をつけてね。迷惑かけちゃダメよ」
クリストファーとイザベラがニコニコしながら馬車に乗るのを見送った2人。
「レオ、嫁に出すって複雑ね。私も実感が足りなかったみたい…」
「…リリー、今更なんだけど、ジョシュアにイザベラの諸々話すの忘れてた。まずいかな?」
「旦那様、それはまずいわ」
あ、リリーが旦那様って呼んだ。
これは真面目にまずいヤツだ。
ど、どうしようかなー…
父の災難はまだまだ続くよ!!!
クリストファーとイザベラは、転移門を使ってサフォーク領に来ていた。
領都の商店街を2人で歩いて、クリストファーが領の話をしながら色々なお店を案内した。
遅めのお昼はカフェで過ごし、植物園に向かった。
小ぶりのピンクの薔薇が満開の区画で、クリストファーは覚悟を決めた。
足を止め、イザベラに向き合うクリストファー。
突然の真剣な目に、イザベラが背筋を伸ばす。
「イザベラ嬢、今まで待ってくれてありがとう。貴女と過ごす時間がとても好きだ。これからもずっと一緒にいたい。迷っていたけれど、家督を継ぐことを決めました。隣で支えて欲しい。私と婚約してくださいませんか?」
イザベラは言われた言葉をゆっくりと理解して、破顔した。
「クリス様!もちろんですわ!私がクリス様をずっと支えますわ!」
ホッとした顔をしたクリストファーが、初めてイザベラを抱き締めた。
真っ赤になったイザベラに、クリストファーは蕩けるような笑顔を向けた。
そのままサフォーク邸に移動すると、サフォーク夫妻とレオナルドとリリアーヌが待っていた。
両家の挨拶を済ませ、婚約の手続きにはいる。
クリストファーとイザベラはずっと微笑み合って、ほのぼの空間が出来上がっている。
サフォーク夫妻はこんなクリストファーを見たことないと、内心ビックリだ。
レオナルドとリリアーヌは、イザベラが何かしでかさないかドキドキしている。
そんな微妙にそわそわした空気の中、無事に婚約が締結した。
イザベラは幸せ過ぎて、クリストファーの顔を見つめると脳内に前世の音楽が流れ続けていた。
帰ったら、楽器と蓄音機を作ろうと決めた!




