クリストファー・サフォーク
【クリストファー・サフォーク】
クリストファーは伯爵家の長男として産まれた。
強くて頼もしい父親に憧れ、幼少期から魔法と剣術を鍛え、10歳から領地のダンジョンに挑んだ。
勉学にも励み、アッシュフォード王国の貴族が13歳から3年通う王都の学園では、入学後に成績上位者に名を連ねた。
クリストファーは伯爵家の嫡男で成績も優秀とのことで、令嬢達に人気があった。
学園で肉食系の令嬢達に狙われ続け、女性不信に陥り、心配した両親がおっとりした令嬢を婚約者に選んだ。
婚約者とは、女性不信もあり、程々の交流が続いた。
そして、14歳の夏季休暇に領地のダンジョンに潜ったこの日が、クリストファーの人生が狂った日となった。
クリストファーが潜ったダンジョンは、スタンピードの前兆により、各階層の魔物に異変が起きていた。
浅い階層に強力な魔物が現れていることに気づいたクリストファーは、護衛2人と共に戻る途中だった。
しかし、ボス級魔物の変異種が現れ、護衛1人の命が奪われた。
クリストファーともう1人の護衛も襲われたが、瀕死のクリストファーを背負った護衛が、なんとか入り口まで逃げ、異変を知らせた。
その知らせに領地の騎士団が迅速に対応し、スタンピードの被害は最小限で食い止められた。
クリストファーは一命を取り留めることができたが、顔の左側の変色が消えず、左眼を失い、右腕と左脚に後遺症が残った。
眼帯をつけ、リハビリをし、日常生活がおくれるまで数ヶ月かかった。
魔法は変わらず使えるが、もう以前のように剣は振れなかった。
前線で戦えない当主となることをクリストファーは許容出来ず、家督を次男に譲ることを決めた。
婚約者は次男に変更しようかと両家で話し合われ、顔合わせが行われた。
しかし、怪我から回復したクリストファーの顔をみた令嬢が「気持ち悪い」と発言し、次男がそれに激怒、その場で婚約は白紙となった。
そして家督を譲ることも上手くいかなかった。
次男は元々、騎士団に入ることを目指していたため剣術は優秀だったが、魔法はイマイチ。
領地経営については、勉強しようとすると、寝る。
そう、見事な脳筋だった。
クリストファーは頭を抱えた。
父親に、まだ引退は先だからと宥められ、焦っていたことに気づいた。
学園に復帰してから、令嬢達には顔の怪我を気味悪がられて遠巻きにされた。
周りにいた令息達は、伯爵家を継がないとわかると離れていった。
ああ、残った人が本当の友達か。
領地経営は自分が補佐すればいいじゃないか。
学園の成績はいいんだ、文官として王城で修行しよう。
もう、思い描いてた人生は戻ってこない。
ずっと悩んで、焦っていた頭がスッキリした瞬間だった。
学園を卒業後、文官の試験に受かり王城で働いた。
背が伸び、顔立ちが精悍になるにつれ、女性や子供からは怖がられるようになった。
結婚を早々に諦め、仕事にのめり込んだ。
そして、宰相の補佐官に抜擢された。
あの怪我から、あっという間に10年経ち、24歳になった。
王太子殿下の婚姻期間が3年に近づくにつれ、周辺がきな臭くなり、宰相閣下と共に慌ただしく動き回っていた。
妃殿下の妊娠は内密にしていたにも関わらず、城内で妃殿下の命が狙われた。
暗殺者、毒と短期間に続いたある日、王太子殿下が妃殿下をローランド領へ避難させた。
【レオナルド・ローランド侯爵】
王宮騎士団の副騎士団長。
信頼している学園の先輩なのだと、王太子殿下が話していた。
騎士たちが騎士団長より怖れていると、次男が話していた。
学生時代に奥様とダンジョンで出会い、数多のダンジョンを巡り、冒険者からはいまだに【鬼神夫婦】として有名だ。
婿入りして、奥様が領地経営をしていて、子供が2人いて、家族が大好きな人。
クリストファーも仕事でたまに会うが、それくらいしか知らない相手だ。
妃殿下と侯爵夫人が友人だから避難させたのか?
城内でこれだけ危険だったのに大丈夫なのか?
不安でぽろっと言葉が漏れた。
「大丈夫なのでしょうか」
王太子殿下は笑って言った。
「ローランド領までついたなら安全さ。方法は知らないけど、ここ数年で使用人や領兵内のスパイは一掃されて、暗殺者も全員捕縛して、どちらも雇い主まで摘発。裏組織でもローランド領の仕事は受けたら終わりだって有名になりつつあるらしいよ」
王太子殿下の話は衝撃だった。
暗殺者もスパイも、捕まえても情報を全く吐かないし、背後関係は調べるのに時間がかかる。
それを数年で一掃するなんて。
数日後、ローランド卿から宰相閣下に謁見希望の申込みがあり、クリストファーは同僚と迎えに向かった。
そして、クリストファーは運命と出会う。
【イザベラ・ローランド】
濃紺の美しい髪が柔らかく風に揺れ、薄紫の瞳はキラキラと輝き、赤く色付いた頬がとても可愛らしい、とても綺麗な顔立ちをした少女。
初めての会話でいきなり求婚され、同僚が一瞬で倒され、スパイだと捕縛された。
混乱しながら部屋まで案内し、後ろに控えながらイザベラを観察した。
わかったのは、彼女がものすごく優秀であること。
話を聞いた王太子殿下と宰相閣下が、王家に囲いこもうとするのも頷けた。
それなのに彼女は、クリストファーを口説いてるからと断った。
家督を継がないことを指摘され、怪我の説明をする時、何故か少し胸が痛んだ。
特級ポーションがあれば。
何度も願った。でも、見つかったって高額過ぎて手に入るわけがない。叶わない夢だ。
そう思っていたのに。
イザベラがくれたポーションは、確かに特級ポーションで。
腕が動く。脚が動く。眼が見える。
こんな奇跡を起こした少女は、役に立った!とただ嬉しそうに笑っていた。




