表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

旅の終わりに

2日目に投稿した作品と似ていますが

今回は恋愛要素強めとなっています

ではどうぞ!!


「お前ら酒は持ったか!!」


「あっ、足りねぇ!!」


「何してんだよ〜!! 」


「「ハッハッハッハッ!!」


「おい酒持ってこい〜!!」


「はいよ〜!! 今日は出血大サービスだ!!

持ってけ泥棒だぜ!!」


あちらこちらで人々が楽しく騒ぐ声が聞こえる。

今日はこの街どころか王国全土をあげての祝っていた。

何故なら今日は遂に魔王を倒した勇者一行が帰ってきた日であるからだ。


ーー昔からこの王国には魔王ガルスという魔王がおり人々はその魔王に毎日怯えていた。


ーーだが数年前にとある1人の勇者が立ち上がった。

彼とその彼に賛同する数人がパーティを組み、各地で戦いを行い、そして魔王ガルスを勇者一行が長時間の戦いの末何とか打ち倒した。

その勇者一行が今日全員無事に帰還した。


王国ではその勇者一行の勇姿に敬意を評し、これから3日間王国をあげての祝い事を行うことになった。


そのため今日は王国のどこでもお祭り騒ぎである。

だがそんなお祭り騒ぎをする人達を遠く離れた丘から見ている人間が1人いた。


「ったく……あいつら気を抜きすぎだろ……」


丘からパーティメンバーを始め、街の人々が騒ぐ姿を見ているのは今回魔王を倒した勇者であるアーサーである。

勇者なので本来は騒いでいる人達の中心にいてもおかしくないのだろうが彼自身あまりそういう雰囲気を好まないため仲間達にその場を任せて、彼がこの王国で1番好きな場所である首都を一望出来る丘に1人座っていた。


「まぁ今日ぐらいはさせてやるか……」


せっかく長い戦いが終わったのだから今日ぐらいはハメを外してもいいだろうし、更にアーサーがそういう場が苦手であり、この丘に行くことを仲間達は何も言わずに彼がこの場を抜けやすい様に計らってくれた。

いつもは彼の性格的についつい言ってしまう小言も今日ぐらいは我慢してやろうと思っていた。


「ーーやっぱりあんたはここにいたのね」


アーサーはその声がした方を見ると、そこには同じパーティーメンバーである女武道家・ノルンが立っていた。

長身の身体に鍛えられた褐色の肌が月光に照らされて妙に幻想的な姿であり、アーサーはそんな彼女の姿に目を奪われていた。

アーサーとノルンはこのメンバー間の中では1番付き合いが長かった。


「ノルンか……どうした?」


アーサーがそう言うとノルンは呆れながら


「どうしたってあんたね……王国のお偉いさん達があんたを探しているわよ」


「そんなの勝手に探せておけって……俺がそういう場は苦手だってルークが伝えておいたはずだろ」


ルークというのはこの国に宮廷魔術師であり、アーサーのパーティーメンバーの1人である。

彼は宮廷魔術師ということもあり、アーサー達が戦いやすい様に王国との交渉も引き受けていた。


「一応ルークも言っていたわよ? でもどうしてもあんたとお近づきになりたい連中はいるみたいわよ?」


「はぁ……面倒くせぇ……」


「それぐらいあんたは我慢したら? だってあんたはそれだけの事をしたんだから」


「そうかもしれねぇけどさ……俺苦手なんだって……」


「はぁ……まさか魔王に勇敢に立ち向かった勇者がそんな事苦手とはね〜あんたも大変ね」


「うるせぇ……わざわざ小言言いに来たのかよお前は」


アーサーがその様にいつも通り悪態をついていると後ろにいたノルンが彼の隣に移動してきた。


「隣座るわよ」


「どうぞご勝手に」


「じゃあ勝手にさせてもらうわ」


2人は無言で丘から見える景色を見ていた。

丘からは街の住人が賑やかに騒いでいるのがよく分かり、自分達はこの人達の生活を守ったのだと改めて思えた。


「ノルン」


「どうしたの?」


「ここまで色々な事あったよな」


「なによいきなり」


「いや、ただ魔王を倒すまで冒険したから今までの出来事が頭に浮かんできてさ」


「そうね……色々あったわね」


それから彼らは今までの冒険の話をした。



ーーアーサーが勇者の剣を抜いた時や


ーー悪さをしている領主を征伐した時


ーー王に出会って正式に魔王討伐を任された時


彼らのパーティは行くところ行くところで何故か問題ばかり起きるので話のネタは尽きないのだが1番付き合いの長い2人だからこそ色々と思うところがあるみたいである。



「そう言えばあんたさ、私が魔王の幹部に攫われた時の話

覚えている?」


「あれか……あれは忘れる筈がないだろ……ったく」


それは旅の道中にて幹部の1人の罠にノルンがかかり攫われてしまったことである。


「幹部の城に殴りこんで来た時、他のメンバーの意見全部

無視して突っ込んできたらしいじゃないの。

いつもは冷静なあんたにしては珍しいわと思ったわ」


あの時のアーサーは仲間達の制止を振り切り、たった1人で敵の拠点に侵入し、見事ノルンを救出した。


「うるせぇ……仲間が連れ去られたらいてもたっても

いられない性分なんだよ、俺は」


その事を彼女に言われてアーサーはとても恥ずかしく、返事が素っ気なく返した。彼はまたこれでからかわれると思っていたのだが……


「ーー知っているわ」


「え?」


アーサーが驚き、隣を見るとそこにはノルンが優しい笑顔を浮かべていた。


「あんたは誰よりも優しいって事をよ」


「い、いきなりなんだ?」


「見捨てようと思えば出来た悲しみをあんたは見捨てなかった。それだけでもあんたは英雄だと私は思うわ」


「目の前で悲しんでいる人がいて見過ごせるはずがないだろうが……そんなの当たり前だ」


さっき自分が言ったことをからかわれると思っていたら何故か褒めらえるという予想外の事が起き若干たじろぎながらもそれをさとられない様にした。


「その当たり前を当たり前にやったあんたは凄いのよ。

そこらへんで踏ん反り返っているお偉いさんよりマシよ」


「そ、そりゃどうも……」


彼女にここまで真っ直ぐ褒めらるとは思わなかったアーサーは恥ずかしくなりそっぽを向いた。

だがそんな彼を付き合いの1番長いノルンがほっとくはずもなく、まるで面白いものを見つけたかのように


「あれあれ〜? まさかあんた照れているの〜?

天下の大英雄アーサーとあろうものが〜?」


「テメェ……!! はぁ……まぁいいか」


アーサーはノルンに対して何か言って反論をしようと思ったのだが口喧嘩で彼女に勝った事がないので反論するのを諦めた。彼はため息をつきながらも彼女とのこういう雰囲気を楽しんでいたのであった。






それからは2人の間に言葉は無く、ただ静かに2人で町の景色を眺めていた。

だがそんな中、最初に口を開けたのはアーサーだった。


「お前はこれからどうするんだ?」


アーサー的には王国での式典が終わった後のことを聞いたつもりだったのだがノルンから返ってきた返事は予想外の返事であった。


「私? 私は明日にでも適当に旅に出るわ」


「明日だって!?

おいおい明日ってまだ祭りの真っ最中だろうが」


「私はこういう場苦手なのよ」


「おいさっき俺の事結構非難していたよな?」


「ぐっ……随分痛いところついてきたわね……」


いつもならノルンがアーサーを口喧嘩では攻めているのだが今回に限っては攻守が逆転していた。しかもいつもなら揚げ足を取られない様に話している彼女にしては珍しかった。


「いやいや誰だってそう思うって。

というかいきなりどうした?いつものお前らしくないな」


「うるさいわね……私にも色々あんのよ」


「だって明日は王から色んな褒美を貰えるんだぜ?

それにもうオレ達は旅をしなくても色々な役職を褒美で

もらえるんだぞ? いや〜楽だな〜これから」


そうである。

魔王を倒したアーサー達一行はそれぞれ多額の賞金と王国内でのかなり高い立場を約束されていた。

そもそも役職につかなくともその賞金だけでも一生遊んで暮らしていけるぐらいの金額であった。


「あんた達はね、私は違うわよ」


「どうしてだよ?」


「あんた、私が()()()だって事忘れてない?」


「でもそう言ったら俺も平民出身だし……」


他のパーティーメンバーはルークを始め、それなりに身分が高かった。だがアーサーとノルンは違い、アーサーはただの農家の長男、ノルンに至っては元奴隷であった。そのため王国の貴族達からは露骨な差別を受けたがパーティーのメンバー達は生まれの身分でアーサー達を差別はしなかった。


「平民と奴隷だと身分に雲泥の差があるの知ってるでしょ?例えルーク達が差別しなくても王国のお偉いさん達は元奴隷の私が偉い役職に就くことを許さないわ」


「そんなのやってもなきゃ……なんなら俺が直々にーー」


アーサーは“訴えてやる”と言いかけたのだが


「いややるだけ無駄よ。

まぁ……そもそも私自体がそんな堅苦しいの苦手よ」


とノルンは苦笑しながらそう言ったのを見てアーサーは何も言えなかった。


「ノルン……すまん」


アーサーは頭を下げた。


「ち、ちょっとアーサーなんであんたが謝るのよ……

なんかあんたがそんなにしおらしくなると調子が狂うわ」


「だってよ……お前めちゃ良い奴だろ……それなのに……」


魔王は倒せたのに親しい人間のために何も出来ない自分に対して歯がゆかった。


「まぁ考えたって無駄でしょ?

ならこれからの事を考えないといけないでしょ。

それにさ……」


「それに?」


「ーーあんた、王様の娘との縁談が進んでいるんでしょ」


「……知っていたのか?」


「伊達にあんたと同じパーティーにいないわ。

まぁ前からそんな話はあったからゆくゆくは思っていたけど時期もちょうどいいしね」


ノルンにそう言われて何も言えなくなるアーサー。

彼自身も魔王討伐が終盤に差し掛かってきた頃から王からそういう話を聞かされていた。


「王様の娘さんって結構な美人で有名じゃない。

王の娘と結婚してあんたは王となる。

これであんたの地位も安泰ね」


「……まぁそうだな」


「これからあんたはその娘さんと結婚してこの王国を導いていくのよ」


「……そうみたいだな」


「大丈夫よ、私がいなくてもルークやみんながいるわ。

私はあんたの活躍を旅の噂で聞くとするわ」


「……」


「あんたとの腐れ縁も今日でお終い。

明日からはお互い別々の道を歩くのよ

ーーだから」


というとノルンは立ち上がり、アーサーの前に立った。


「ノルン?」


「ーー今までありがとうねアーサー」


「……はい?」


「私さ、あんたに沢山感謝してるのよ。

あんたに出会ってから今日、この時まで」


「いきなりどうした?」


「うるさいわね、いいじゃない今日で最後なんだから

ねぇ私と初めて会った日覚えてる?」


「覚えてる……というよりも忘れる事は無理だろ」


「私が奴隷としてあんたが住んでいた村に来てその時、私が奴隷を傷つけて喜ぶ様な奴に買われた時さ、屋敷に入ってきて助けてくれたじゃない」


ノルンが本来売られそうだったのは地元でも悪名高い領主であった。そして彼女が売られた当日アーサーはその領主の屋敷に忍び込んで領主を倒して救ったのだった。

その後、領主の男は程なく数々の悪行が王国の役人にバレて領主の地位を剥奪され、牢屋に入れられた。

そしてノルンはアーサーの家に奴隷ではなく新たな家族として引き取られた。



「……まぁその後、大人達に囲まれて説教だったけどな」


元々領主は好かれていなかったのでアーサーの行いを歓迎したが子供のくせに無茶をしたものだと彼の両親を始め村中の大人からこってり叱られた。


「私さ、自分の人生に期待してなかったのよ。

“どうせ奴隷だ。まともな人生を送れるはずがない”って

そう自分に言い聞かせていたんだ」


「ノルン……」


「でもあんたが助けにきてくれてた時、こう言ったのよ

“君を助けに来た、俺が君を守る”って

ーーあの言葉がどれだけ嬉しかったか」


「えっ、それが?」


アーサーが驚いているとノルンは苦笑しながらも続けた。


「まぁ普通はそう思うでしょうね。

でもね、私にとってはそれが生まれてきて初めて私を助けてくれるがいるんだって事に気付いた瞬間なのよ」


「……言っておいてなんだが恥ずかしいな俺」


アーサーは幼い頃の自分の発言によくもまぁ当時初対面の女子にそんな事言えたものだと頭を抱えた。


「あの事件以降、あんたのご両親に引き取られたけど

それからは毎日毎日が楽しくてたまらなかったわ。

“こんな私でもまともな人生を送れる”ってさ」


「そ、そりゃな俺の家じゃ普通に家族だったからな。

家族の中にそんな身分の差なんてあるわけないだろ」


「その普通が私にとって嬉しかったのよ。

だからさーー」


と言うとノルンは一度言葉を区切り



「今までありがとうアーサー。


ーー家族の温かみを教えてくれてありがとう


ーー私と毎日馬鹿をしてくれてありがとう


ーー私が拐われた時に助けにきてくれてありがとう


ーー私の人生に意味を持たせてくれてありがとう


ーーそして今まで私と一緒にいてくれてありがとう」


「……」


「本当はさ、あんたの隣にまだいたかったけどさ

あんたには私以上に相応しい女性がいるわ。

だからあんたはその人と一緒にこれからの人生生きて

私と同じ様に困っている人がいたら助けてあげて」


「ノルン」


「いや〜いつもは言えない様な事も意外と決意を決めれば言えるもんね、自分でもびっくりよ。

じゃあねアーサー、もう会う事は無いと思うけど旅先であんたの幸せ願っているわ」


というとアーサーに対して背中を向けて去ろうとした。


「ノルン!!」


「……ッ!?」


だがアーサーが後ろから勢いよくノルンを抱きしめた。

いきなりだったため彼女は思わず驚いてしまった。


「あ、アーサー……? いきなりどうしたの?」


「嫌だ」


「えっ」


「俺がお前と離れるなんて嫌だ」


「な、何言っているの……? あんたには私がいなくてもみんながいるじゃない……」


「俺が嫌なんだ」


「な、なんで……」


「それは俺がお前が大切な人だからだよ!! 」


「……ッ!?」


「俺はノルンがいたから旅を続ける事が出来た!!

お前の存在が俺の力になった!! 」


「嘘、よね……」


「俺が嘘を付くのが苦手って付き合いが長いお前なら分かるだろ!! 」


「そ、そんな嘘言ってさ、アーサーあんたは」


「分からなきゃ直接言ってやる!!」


アーサーはその場の勢いとありったけの勇気を振り絞って


「ノルン、お前が好きだ!! 」


「ッ!?」


「俺にとってお前はーー」


「……離して」



「ノルン?」


「お願い……離してよ……」


とアーサーの抱きしめている腕に水滴が落ちてきた。


「ノルン、お前まさか泣いてるのか……」


アーサーは後ろから抱きしめているからノルンが今どんな表情をしているのか分からないが話している声で泣いているのだろうと思った。


「なんでよ……なんであんたは……」


ノルンは泣きながら言ってくる。


「何がだよ」


「私がせっかく……長い間悩んで悩んで、やっとさ……

自分の気持ちをさ……無理矢理諦めさせたのに……

どうしてあんたは……」


「ノルン……」


アーサーはこの時、初めて彼女が自分との関係にどれだけ悩んできたのかを知った。いつも自分の隣にいてくれたのに心の中でそんなにも悩んでいた事に気づけなかった自分の鈍感さに怒りを感じた。


「毎日一緒にいて……私の事を……ただの家族としてしか思って無いくせに……私が拐われた時だって……真っ先に1人で突っ込んできて……どれだけさ……私を好きにさせたらいいの……諦めたくなくなるじゃない………」


「別に諦めなくても……」


「うるさい……アーサーのくせに……どうして……なんで

私の決意をさ……揺らがせる様な事……言うの?」


「じゃあ逆に諦める決意をする必要があったんだよ」


「だって……奴隷の私じゃ、勇者のあんたに相応しくないから……天下の勇者のお嫁さんが……こんな元奴隷と」


「俺はお前を奴隷なんて思った事はない!!

常にお前を家族……いや大切な人として見てきた!!」


「あ、あんた……何言っているの?

わ、私はそんな……相応しい人じゃないわよ……」


ノルンにそう言われてアーサーは心の中で何かがプツンと切れた。


ーーアーサーは俗に言うヤケになった。


「じゃあ言わせてもらうぞ!!

俺とお前が始めて出会った時で既に俺はお前に一目惚れだったんだよ!! そりゃ目の前で好きな子がピンチだったら助けるに決まってんだろうが!!」


「え、えっ……そ、そうだったの……」


「あぁそうさ!! 文句あるか!!」


「そんな自慢げに……い、言うの……あんたは……」


「あとお前が魔王軍の幹部に拐われた時なんてお前が何かされるんじゃないかって居ても立っても居られなくてな1人でお前が監禁されていた場所まで向かったんだよ!!」


「え、えぇ!? う、嘘でしょ……」


「お前も俺が猪突猛進なのを知ってるだろ!!

それぐらい大切なんだよお前は!! 」


「で、でもあんた、お姫様との結婚は……」


「ーー昨日断ってきた」


「えっ……」


「だから昨日王様には直接断ってきた

“俺には別に好きな人がいます。

だから貴方の娘さんとの縁談は無かった事にしてください”ってさ」


とアーサーが言うとノルンは無理矢理身体の向きを変えて彼と正面に向き直った。その顔は涙の跡がしっかりと目元は赤かった。


「あ、あんた……自分がどれだけ馬鹿な事をしたか

分かっているの!? これからあんたが出世していく道を自分で閉じたのよ!?」


「俺個人出世とか興味ないんだよな……。

それに俺はノルン、お前が隣にいない方が辛い」


アーサーが王に婚約破棄の件を言った時は一悶着あったが今までの功績やルークの助言もあり何とか認めさせた。


「馬鹿よ……本当に馬鹿よ……あんたは!!」


彼女は再び泣きながら、拳を彼の胸に交互に叩きつけていた。しかしいつもの様な力強さは無く、効果音で表すとしたらポカポカと言った感じである。


「お前から言われる“馬鹿”はなんか落ち着くな」


アーサーはそう言いながら笑っていた。

こんな状況であっても不思議と笑みが溢れるのであった。


「馬鹿……どうしようもないぐらいの……馬鹿よ……

馬鹿アーサー……馬鹿な勇者……馬鹿ぁ……大馬鹿ぁ」


「……いくら何でも馬鹿言い過ぎじゃないか?

自覚はあるけどちょっとは傷つくぞ?」


「う、うるさい……アーサーのくせに……生意気よ」


「お前な……まっ、いいか」


「ねぇ……アーサー」


「ん? なんだノルン」


「私さ……」


「あぁ」


「これからも……あんたの……隣にいていいの?」


とノルンは涙で潤んだ目をしながら言ってきた。

いつもとは違う彼女の様子に少しドキっとしながらもそれに対してアーサーは優しく笑いながら


「いていい、というか隣にいて欲しい。

俺の隣でいつもお決まりの毒舌を言ってくれ」


「毒舌って……あんた……」


「あっ、言葉間違えた、すまん」


「うるさい……本当にあんたって……一言多いわ……」


「それお前が言うか普通?」


「っるっさい……アーサーのくせに……!!

本当あんたって……でも……そんなあんたを好きになった私も大概よね……」


「……認めるんだな、自分でそれ」


「認めるしかないでしょ……ここまできたらさ……認めるしかないでしょう……馬鹿ぁ……この鈍感アーサー」


「鈍感でも馬鹿でもお前に言われたら嬉しいな。

ーーどうやらそれぐらい俺はお前の事が好きみたいだ」


「もぅ……あんたって……本当に……でもそこまで言われたら私も覚悟決めないとダメよね」


「そうだ決めろ」


「っるさい……アーサーのくせに。

あんなは少し空気読め……ふぅ」


とノルンはアーサーの方を向きながら軽く深呼吸をした後、彼の方を真っ直ぐ見ながら口を開いた。


「私ね、あんたの事が好き。

馬鹿なところも、誰よりも優しいところも全部、全部あんたの全てが好き」


ノルンにそう言われてアーサーも返事をした。


「俺もノルンお前の事が好きだ。

俺に容赦無いところもなんやかんやで面倒見がいいところも含めて全部好きだ」


「こんな私でよければこれからもあんたの隣にいていい?」


「勿論、というかこれからも隣に欲しい。

俺はお前がいなきゃ嫌なんだ」


「……っ、アーサー!!」


ノルンはアーサーに勢いよく抱き着いていた。


「ノルン!?」


「……私、一生離さないから」


「俺も一生離すもんか」


と2人は長い間抱き合っているのであった。








次の日の朝早く


「ねぇアーサー」


「ん? なんだ?」


「……今更だけど本当にいいの?

その……私なんかで……今から戻れば……」


「馬鹿野郎」


とアーサーはノルンの額に軽く拳をぶつけた。


「痛っ……馬鹿に馬鹿って言われた」


「昨日俺がどれだけ勇気を振り絞ったか知らないだろ。

ノルンがいいから俺は言ったんだ」


「でも……私は朝早くに旅に出るって昨日言ったけど

あんたまでついて来なくても……」


そうなのである。

今2人がいるのは街の出口付近であり、今日の午前中からある式典には出ずに旅に出ようとしている。


「……もう一発いれるぞ」


「うぅ……ごめん……」


「ったく……俺はお前がいない式典なんて1分で寝る自信があるから興味がーー」


「ーー御二方はこちらにいましたか」


と2人が声のした方を見るとそこにはルークを始めとして今まで一緒に旅をしてきた仲間達がいた。


「ルークにみんな……」


とアーサーとノルンの姿を見たルークは


「おや、どうやらその様子を見ると2人とも……」


「「あっ……」


ルークに言われて2人はさりげなく手を繋いでいた事に気付き恥ずかしくなった。


「いえいえ恥ずかしがることはございませんよ。

ーー2人ともおめでとうございます」


「みんな……ごめん……俺は……また旅に出るから……」


「いいですよ」


「えっ」


「後の処理はお任せください。

貴方方がいなくなった後の処理は私達がやっておきます。

というかやっとですか、全くアーサーもノルンも随分遠回りをしてきたものですね」


とルークが言うと他のメンバーもニヤニヤしながら続いて


「というかお互いの気持ちを知らなかったのは2人だけだぞ? 他は全員知っているからな?」


「そうよ〜いい加減早くくっつけと見ている私達がイライラし始めるぐらい」


「私達、色々と、手回し、した」


「まぁ全部空回りだったけどな〜」


「嘘だろ……」


「……」


アーサーはそう呟き、ノルンに至っては恥ずかしさで顔を真っ赤にして何にも言えていない。


「まぁ時には遠回りは必要だと言われていますから2人にはそれが必要だったんですよ。

……まぁ遠回りすぎだと思いましたが」


ルークは仲間の中では落ち着いている方なので彼にここまで言われれると考えると自分達は余程周りをその様な気持ちにしていたのだろうと更に恥ずかしくなった。


「……なんかすまんみんな」


「いいですよ、私達はお二人の謝罪なんて求めてませんから。

私達全員お二人が幸せになってくれれば嬉しいんですよ」


「そうだそうだ!! 2人とも幸せにな!!」


「2人の結婚式は呼んでね!! 仕事休んでいくから!!」


「2人、幸せ、私、嬉しい、とても」


「達者にな〜ちなみに子供のご予定はあるかい?」


と仲間達から祝福?の言葉をもらい少し涙腺が緩んできたアーサー。本当に自分は良い仲間に恵まれたものだとこの時改めて思った。ノルンは既に泣きかけている。


「私からはこちらを2人の賞金を」


「あれ、でもこれって俺が婚約破棄したからもらえないはずじゃないか……?」


「あぁこれは国庫から拝借してきました。

国を救った勇者に何も出ないなんて有り得ませんから」


「ルークお前……そんな事する性格だっけ?」


アーサーがそう尋ねるとルークは笑顔で


「私も少し変わったんですよ

ーーほら2人ともそろそろ国の皆さんが起きる頃ですからバレない様に行くには今ですよ」


「お、おぅ……じゃあなみんな!!

俺はみんな旅を出来て本当に嬉しかった。

ーー本当にありがとう」


「私も……みんながいてくれたおかけで楽しかった。

今までありがとう」


「「お幸せに!!」」


とアーサーとノルンの2人は走りだした。

そんな2人の後ろ姿をルーク達は見ていた。


「行っちゃったね……」


「行ったな」


「何しんみりしてんだ〜俺達は早速仕事があるからな?」


「いきなり現実に戻さないでよ……」


「そうですね、国中への伝言、貴族への説明等……

ーーあぁ頭が急に痛くなってきましたよ……」


「私、手伝う、何、すれば、いい?」


「ありがとうございます……

とりあえず皆さん、旅から帰ってきてから数日ですがいきなり大仕事です。取り掛かりますよ」


「「おぉ〜!!」


(アーサー、ノルン、これからの2人の人生に目一杯の幸福が訪れます様に私は遠くからですが願ってますね。

ーー2人ともおめでとうございます)






「ねぇアーサー」


「なんだノルン?」


「これからどこに行くの?」


「まずは俺達の実家に帰る」


「……な、なんか緊張してきたわ」


「奇遇だな、俺もだ」


なんせ今回帰るというのはかなり特別な物になるだろうと2人とも思っていたからだ。


「でも大丈夫かしら」


「なんでだ?」


とノルンは満面の笑みで


「ーーだってあんたが隣にいるからね!!

私はあんたがいればそれだけで大丈夫だから」


いつもは見ない彼女の満面の笑みを見たアーサーは見惚れてしまい上手く言葉が出せなかった。


「俺も同じだ。

ーーさぁ行くか」


そのためこれだけしか言えなかった。


「えぇ分かったわ。ふふっ」


ただノルンにとってはそれで充分の様だった。






ーー魔王を倒した伝説の勇者と武闘家はこれ以降、王国の歴史に出てくる事は無かった。

ただ王国で大きな魔物が出てきた際には正体不明の2人が度々姿を表して倒していたと記録に残っている。

その2人がアーサーとノルンなのかは誰も知らない。

だが元パーティの仲間達はそう言う事が起きる度に懐かしそうな表情を浮かべていたとも記録に残っている。



楽しんでいただけたでしょうか?

もしそうでしたら幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ