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ソウルシーカーズ  作者: もっちもち
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二話 日常 2

 ギルド、ソウルシーカーズは田畑に囲まれた、自然豊かな場所にギルドハウスを構えている。木造二階建てで、それなりに大きい。二階にはギルドメンバー各自の部屋があり、一階には食堂、トイレ、洗面所や浴室など共有スペースが広がっている。


 とても住みやすい環境ではあるが、冒険者ギルドなどがある都市部から離れているのが難点だ。



 場所は変わり、一階食堂。一悶着を終えた四人は木製の丸机を囲って座っていた。机の上には、山菜を主軸とした色とりどりのサンドイッチが皿に乗せられて置かれている。ララノアの手作り料理だ。


「もう私、お嫁にいけない……」

 机に突っ伏すララノア。声に覇気はなく、今にも消えてしまいそうな弱々しい姿だ。無理もない、人前で恥ずかしい姿を晒したのだ。ララノアの心は羞恥で赤く染まっているだろう。


「「……」」


 アルトはどのように励ましたいいか分からず、気まずく黙り込んでいた。男ならかっこよく励ませと思うかもしれないが、縄で扇情的な姿を晒されたララノアをどう励ませと言うのか。可愛いかったよとか、素敵な姿だったよでも言えばいいのか。


 バカでも分かる、火に油を注ぐようなものだ。恥ずかしさが加速してララノアが燃え尽きてしまう未来しか見えない。


 さっきまで爆笑していたストックだが、テンションが戻り、悪ふざけが過ぎたと反省しているのか静かだ。


「んー、このサンドイッチ美味しいですね」

 そんな沈黙を破ったのはシロネだった。シロネは幼さを残した愛らしい顔をほころばせ、美味しそうにサンドイッチを咀嚼そしゃくしていた。


「そう、そのサンドイッチ自信作なの! 珍しい山菜が取れたから頑張っちゃった」

 勢いよく顔をあげ、美しい顔をあらわにするララノア。顔にはまだ赤みが残ってるものの、シロネの一言で少しは元気を取り戻せたようだ。


「へー、どのサンドイッチ?」

 重たい雰囲気を変える好機と見たストックは、手を伸ばしながら問いかける。普段通りに話そうとするもどこかぎこちない。


「えーっと、これだよ」


「ありがとう、ララ」

 ララノアが指差したサンドイッチをストックはお礼を言いながら掴み、口に放り込んだ。


「ん? ……んんん? か、からーっ! み、水を……水を飲ませてくれ!」

 急に椅子から崩れ落ち、のたうちまわるストック。明らかに苦しそうだ。嫌な予感を感じたアルトは視線をストックからララノアの方に向ける。するとエメラルド色の透き通った瞳と目があった。


 心が落ち着く綺麗な瞳だ。そのはずなのに、落ち着くどころから、アルトの心臓は鼓動を加速させていく。体が警告しているのだ、綺麗な瞳の奥に殺意に近い何かが隠れていると。


「あ、ごめんね。それ激辛サンドイッチだった。……そういえばアル君、さっき寒いって言ってたらしいね? もう一個あるから是非食べて欲しいな。きっと体が温まるよ」

 普段、ララノアはアルトのことを君付けで呼ばない。そこから生まれた違和感は恐怖へと変貌し、アルトを追い詰めていく。精神的に、そして……物理的に。


「え? それはどういう意味で……」

 ララノアは手で掴んだサンドイッチをアルトに向けて少しずつ近づけてくる。これは所謂いわゆる『あーん』になるのだろうか。あーんで殺す、まるで暗殺あんさつだ。


「大丈夫、死んだりしないから。ただ今日一日の記憶が飛ぶだけだから」

 過去はどんなに頑張っても変わらない。だから、ララノアがとった方法は過去の抹消だった。過去にとんでもない事件が起きていたとしても、それを誰も覚えていなければ、なかったも同然だ。


 ────激辛食べたぐらいで記憶が飛ぶとは思えないが……


「……よし、俺も男だ!」

 アルトは覚悟を決め、サンドイッチにかぶりついた。


「あれ? 美味しい。辛くない?」


「ぷっ、ふふふ」

 アルトの反応に、笑い出すララノア。そんなララノアを怪訝な表現で見つめるアルト。食べたサンドイッチはからくなく、普通に美味しかった。


「からかってごめんね、アル。実は彼女たち……に何があったか教えてもらったの。それで激辛はストックの馬鹿にだけに食べさせようって決めてたんだ」


「なんだ、そうだったのか……俺も色々すまなかった」


「ううん、気にしないで。悪いのは全部ストックなんだから。……私の胸に飛び込んできたのはわざとじゃないんだよね?」


「ははは、あたりまえじゃないか」

 笑って誤魔化すアルト。わざとじゃないというのは事実だが、ララノアの豊満な胸を堪能したこともまた事実だ。そのため、アルトは罪悪感で胸の奥に小さな痛みを覚えた。


「なんかお兄とララがいい雰囲気になってる……」

 サンドイッチを食べるのに夢中になって、蚊帳の外になっていたシロネが寂寥感せきりょうかんを漂わせながら言った。


「安心してシロ。私、アルのこと仲間としては好きだけど、異性としてはなんとも思ってないから」


「はっきり言われるとなんか悲しくなってくるな……」


「振られたな、どんまいだアルトよ。だが悲しむことはない、これで非リア充同盟再結成だ」

 いつの間にか復活したストックがわざとらしく声を低くして、カッコつけながら言った。辛いものを食べたせいか、口が腫れている。


「全然嬉しくない。むしろ悲しさが増したわ」


「ははは。さてと、遊びはここら辺にして。食事も終わったことだし、ミーティングを始めるか」

 ストックは軽く笑い声をあげて、クールなキャラに切り替える。昼食のあとにミーティングをするのが、ここのギルドの日課である。そこでひとつの疑問があがる。まだ食事を始めて間もない。それなのに、ストックは食事も終わったことだしと言った。その真意を知るため、アルトはテーブルの上に視線を動かす。


「あんなにあったサンドイッチがなくなってる……だと!?」


「シロが全部食べたよ」


「はやすぎだろ……」

 それなりに数があったサンドイッチはなくなり、白い皿だけが寂しく置かれているのみだった。食べるの疾きこと獣の如くだ。シロネの小さな体のどこに食べ物を収納するスペースがあるのか、アルトは思わず苦笑してしまう。


「食事は生きていくために必要な行為です。食べれる時に食べておかないとです」

 無い胸を張りながら言うシロネ。食べても太らないのは羨ましがられる体質ではあるが、へこんだ胸が膨らまいのは悲しい。


「机の上も綺麗になったことだし、ミーティング始めるぞ」

 アルトたちが雑談している間に、ララノアは机の上にあった皿を慣れた片付けてしまった。ストックは全員席に着くのを確認して、一枚の紙をテーブルの上に置いた。


「ゴブリンの討伐か」

 アルトは机の上の紙を見ながら呟く。紙の正体は依頼書であった。ゴブリンとは二本足で歩く緑色の魔物の名前だ。


「うぅゴブリンは嫌いです。斬ると緑の液体出るし、臭いし気持ち悪いです」

 苦虫を噛み潰したような顔で言うシロネ。シロネが言うように、ゴブリンはとにかく気持ち悪い。臭い、汚い、きもいことから緑の汚物と呼ばれていて、討伐後はすぐに手を洗うことが義務付けられている。


 一匹あたりの強さはたいしたことがないが、集団で行動し、一匹見たら最低でも十匹はいると言われている厄介な魔物だ。


「私は賛成! ゴブリンは凶暴な魔物だから早く倒さないと!」

 ララノアが声を張り上げて言った。


「お、ララやる気満々だな。それで本音は?」


「もちろん近くに住む村の人々のため! ……まあお金のためっていうのも少しだけあったりなかったり」

 ララノアはどんどん声が小さくなって、最後のはギリギリ聞こえる声で言った。ゴブリンは凶暴性が高く、気持ち悪いため誰も依頼を受けたがらない。そのため報酬がとても美味しいのだ。


「うわ、がめつい!」

 ストックが笑いながら言った。


「うるさい! ギルドのお金の管理をやってる私の身にもなってよ。だいたいストックがお金をたくさん使うから、お金が不足してるんでしょ! 早く借りてるお金返して」


「はい、すいませんでした。俺が悪かったです」


「二人はほんと仲がいいな」

 二人の会話をニヤニヤしながら聞いていたアルトがからかうように言った。思ったことを言い合える関係というのは素晴らしいものだ。


「全然良くない!」

 早口で否定するララノア。顔が赤いのは照れてる証拠だ。


「ははは……それじゃあ話を戻すか。陣形はいつも通り、前衛はアルトとシロネ。後衛は俺とララノアで行く。出発は準備が出来次第、今日でどうだ?」


「場所はポッケ村か。いいと思うが、それだと到着するころには夜になってないか? 暗いなか、夜行性のゴブリンと戦うには危険じゃないのか」


「ゴブリンを討伐するのは明日の早朝だ。夜行性だからこそゴブリンは朝に弱い。そこを叩く。夜は村の守護に専念する」


「なるほど。確かにそれなら村人を守りながら確実に倒せるな。問題になるとしたら夜の守護か」

 夜にゴブリンが襲ってこなければ楽にクエストをクリア出来るだろう。でももしゴブリンが夜中に村を襲撃してきたら、かなり不利な戦いになる。


「夜に攻めてきたら私がお兄を守ります。任せてください」

 シロネは眠そうに目をこすりながら、蚊の鳴くような声で言った。


「いや、俺のことはいいから村人を守ってくれ」

 シロネの優しさは嬉しいが、守らなければならない存在だと思われているなら少し落ちこんでしまう。


「村人達を村の中心に集めたらいいんじゃない? そうすれば私たち少人数で守れると思うし」


「それが出来たら苦労はないんだがな。大抵の村は冒険者が村人を守るのは当たり前だと考る風潮があるからな。話を聞いてくれない可能性が高い」

 守るのが当たり前、傲慢な考えである。しかし、その原因は冒険者ギルドの仕組みにある。


 冒険者ギルドの役割は依頼主と冒険者の仲介役である。依頼主から依頼をするとき、同時に報酬となるお金を請求する。命の危険がある仕事ということもあり、請求する額が高額なのだ。その結果、高額なお金を払っているのだから助けるのは当たりまえだと考える人が増えた。


「夜襲が来ないことを願うしかないってことか」

 息を吐き出しながら、アルトは呟いた。


「安心しろ。ちゃんと作戦は考えてある」


「本当に大丈夫? 変な作戦だったりしないよね?」

 疑いの目を向けるララノア。その目を見てもストックは怯むことなくこう答えた。


「任せとけ」

読んでいただきありがとうございます。


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