時の彼方
初投稿となります。
一人の私が過去に書いたものですが、この時の自分自身は壊れそうな状態でした。
ですが、記憶を辿ってみた際、望みのような経験をしたのかもしれないと感じていたのです。
言葉の断片の中に何を見ることができるのでしょうか。
時雨と霧が漂う街の風景。
たった一人の私は、
時計の針が数字を示す度に、
退屈な日々を、
数えながら過ごしていた。
アスファルトの道路、
いつもの道を戻りながら、
思い浮かべているのは、
ピ ア ノ を 弾 く こ と ば か り 。
楽譜を見ることもせずに、
弾かれた音色を聴きながら、
即興の曲が絶えてしまうまで、
乱れた心を調律していた私。
「可愛い出逢いが欲しい」
吐息のような言葉に焦っていた夕方、
私のそばに、
汚れた小犬が近寄って来る。
破れかけの首輪、傷痕の数々を見て、
私と同じだ、そう思っていた。
数日間、
自宅の門前で、
現れたり、
去ったりしていた小犬だったけど、
時の彼方まで旅を続けることに、
疲れたような雰囲気を伝えていた。
時間が経つのは早い。
記憶が消えてしまうことに慣れていたのかもしれない。
小犬は私の親友だったのに、
その死を見ることもなく、
出逢った時と同じように、
時の彼方に、
私だけを残して、
消え去っていた。
もう、ピアノを弾くことはなかった。
「聴けなくなってしまっても大丈夫だよね」
哀しくなってしまうから。
だけど、
可愛い出逢いがあったことを想い浮かべて見ると、時の彼方から、小犬の即興曲が聴こえてくるような、そんな優しい気持ちになっていた。
時雨と霧が漂っていた街の風景。
記憶が希薄になる前に、
可愛い小犬との出逢いを、
言葉に残しておきたかっただけ。
書き終えて、意外に元々の形を変えてしまうことが多々ありました。こんなにも儚く脆い数々の何か。
私でさえも既に読者となってしまった今、何もわからないのが現実です。
ところが夜は到来して私たちを夢の中に放り投げてしまいました。
現実と夢の垣根を越えて、時の彼方への案内人となりたかった者の末路。