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遭難す

作者: 青木翠

伏字にするの忘れてたんだけど、ひょっとすると私はコロプラと同じ運命を辿るのかもしれない。



 雪と風が吹き荒れている山の中腹にぽつんと建っている小屋。そこで二人の男女が立ち尽くしていた。

 「いやー見事に遭難したな後輩!!」

 「そうですね先輩。ところで何が可笑しくて笑ってるんですか」

 「まさかこんな見事に遭難するとは思わなくてな!!」

 「当然の結果だと思いますけどね。それで何で笑ってるんですか?」

 「なんかこう、ワクワクするだろ!!」

 「私は全くしませんけど。何で笑ってるんですか??」

 「すまんな!!」

 「山降りたら覚えててくださいねクソ先輩」

 「任せとけ!!」


 はぁ、と後輩の口からため息が漏れる。

 「とりあえずストーブは……ないですよね。先輩毛布とか」

 「持ってないなぁ!!」

 「ほんと役に立ちませんねクソ」

 「すまんな!!だが先輩をつけ忘れてるぞ!!」

 「え?つけ忘れてましたか?すみません多分本音が漏れたんだと思います」

 「そうか!なら許す!!さて……」

 「許すんかーい、ってどうしたんですか?」

 先輩は自分のリュックを漁り始めた。

 毛布の一つ持ってきてないはずでは?後輩は訝しんだ。

 「何を探してるんですか?」

 「俺が何も用意してないとでも思ってたのか?思ってのだろう後輩、お前は。だが事実は違う」

 「へぇ、何を用意してですか」

 「必要なモノだ。遭難した時に困るのはまず寒さ、違うか?」

 「食料もこ」

 「寒さだ。その対策に1,2枚毛布を持ってきても変わらない、違うか?」

 「違いますね」

 「違うな。寝てる最中に凍死したらどうしようもないだろう!?だから睡眠をとらず夜過ごす、それが正解、違うか?」

 「一理ないこともないこともないですね」

 「だから俺はこいつを持ってきた」

 ガバガバなりに筋が通ってない気がしないこともない理論を展開した先輩に、ほんの少しだけ期待した。

 期待してしまったのだ、愚かなことに。

 「これが俺の切り札、DSとポケモンだ」




 「ねぇ先輩、何でそれにしたんですか?」

 「ワクワクするだろうポケモンは!しかもわざわざ新品を買ってきたんだぞ!!凄かろう!!」

 「それで睡魔を退けると?」

 「あぁ!!」

 「DSが発する熱で寒さをしのぐとかじゃなくて?」

 「お前はバカなのか?カイロ使えば済む話だろう」

 「賤輩?ちょっとそのDS貸してくれませんか?」

 「ああ!!カイロにしたいんだな!ほれ!……何故窓を開ける?何でDSを持って投球フォームに入る?ちょっと待て。あ、ちょっと待って!ちょ、待てよ!!」

 DSを外に放り投げようとする後輩の手をギリギリで先輩は阻止する。間一髪のタイミングであった。

 「止めないで!!これを外にぶん投げて絶望する先輩の姿を見ないと!!私死んじゃう!!!!」

 「すまん!!マジですまん!!許して!!」



 「で、先輩がポケモンしてる間私は何しとけばいいんですかね」

 「見ておけば楽しいじゃないか!!というかお前が何も持ってこないから暇になるのだろう!!」

 「嫌がる私を準備させる暇も与えず無理矢理拉致ったのは誰でしたっけ」

 「まぁまぁ!何だかんだ言いながら楽しそうに来ていただろう!!」

 「このクソ雪崩に巻き込まれればいいのに」

 「先輩をつけ忘れてるぞ!」

 「気のせいですよクソ賤廃」

 「よくわからんが漢字を間違えてるんじゃないか?」

 「完璧に合ってますとも。それで、最初のポケモンは何にするんですか?」

 「それを悩んで決めるのが、楽しいんじゃぁないか!!」

 「暇なんで早く決めてくださいね」

 「任せろ!!」


 ~3分後~

 「ううむ…!!」

 「まだですかー?」


 ~10分後~

 「ううん……!!」

 「サルでも選べるくらい経ったと思うんですけど」


 ~1時間後~

 「zzz……!!あったぁああああ!?!?」

 「いやなに普通に寝てるんですか。何のためのDSですか」

 「すまない!!起こしてくれたのには感謝するが、角材はやめような!!脳天がかち割れるからな!!」

 「じゃあ代わりに先輩、そのDSかち割ってもいいですか?」

 「断る!!」

 「あ?」

 「あぁ!!!!」


 はぁ、とまた後輩はため息をついて折れる。この二人はいつもだいたいこんな感じである。

 「とりあえず先輩、ポケモンは、なしにしましょう。私が暇で凍死しますから」

 「なんと自分勝手な!!だが一理あるな!!」

 「…………」

 「……おい、まさか!?寝るなしっかりしろ!!意識を保て!!睡魔に負けるんじゃあない!!」

 「起きてますよ!見ればわかりますよね!?はぁ、もう……でもどうしましょうか。暇ですね」

 「まだ小屋に到着して1時間弱しか経ってない。くそ、DSがもう一台あれば……いや、あの手があったか」

 「あの手って、何ですか」

 「山小屋の怪談だ。あの、四人で部屋の角を回るやつだ」

 「4人じゃなくて、5人いたってオチのあれですか。でもあれって5人必要ですよね?」

 「あぁ!だからその2人バージョンをやろうじゃないか!!では説明しよう!!」

 まず、部屋の隣り合う角に、それぞれ目を瞑って立つ。目はこのゲームが終わるまで開いてはいけない。

 片方が、もう片方の角まで行って相手をタッチする。

 タッチした後はもといた角まで戻る。戻ったら「戻った」と大きな声で宣言する。

 宣言を聞き次第、スタートして同じことをする。

 それを朝まで繰り返す。

 「ということだ!!」

 「思ったんですけど、別に目を閉じておく必要ないですよね」

 「ゲーム性だ!!」

 「まぁどうでもいいですけど」

 しかしこの先輩から、まともな意見がでるとは思わなかった。実はこの人、凍死しかけている追い詰められた状態だから通常の10倍の知能を発揮しているのではないか。

 後輩は訝しんだ。

 「スタート位置についたか!後輩よ!!」

 「はい着きましたよー」

 「じゃあ俺から行くぞ!!覚悟はいいか!!」

 「いいんじゃないですかね」

 「行くぞぉぉぉおおおおおおおお!!」

 「うるさっ」

 

 後輩は目を閉じる。

 今更思い出したが、元の話でこれを行ったのは確か、短い休息を得るためではなかったろうか。二人でやると、短すぎてもはや急速にならないのではなかろうか。

 まぁいい。自分はかなり体力に自信がある。今回、登山向きじゃない格好で山を踏破させられたが、感触的にはあと3倍は持ってこい、といえるくらい余裕があった。

 何故これほど体力に余裕があるのかというと……まぁそれこそ関係ない話。どうでもいい。

 とにかく、朝になるまでこのゲームを続けても体力は恐らく尽きない。あのゴm…ではなく先輩も体力だけが取り柄だし、大丈夫だろう。

 しかし、だ。しかし。あのゴミカス、遅すぎやしないだろうか。ゆっくり歩いてるにしてもだ。


 「ゴミカ……じゃななくて、先輩?何してるんですか?遅すぎません?」

 「そろそろ着くぞ!今着いた!タッチだ!!今から戻る!!」

 「いちいち言わなくていいですから。そのくらいのペースでいいんですね?」

 「あぁ!」


 いったい何だったのだろうか。匍匐前進でこっちまで来たとか、逆立ちで歩いてきたとかだろうか。いずれにせよ気持ち悪い、というかバカなのだろうか。バカか。

 耳を澄ませてみるが、足音は聞こえない。完全に足音を殺しているのだろう。

 無駄なところに力を入れる人だ。

 ……。

 まだだろうか。


 「先輩まだですか?」

 「ううむ!…すまん靴紐がからまってしまった!!あと5分待ってくれ!!」

 

 ~5分経過~

 「まだですか?」

 「ううん……!!あともう10分待ってくれ!!目を閉じたままやったせいで余計こんがらがった!!」

 「開けてください。」


 ~10分経過~

 「10分経ちましたよね。手伝いますよ、うざいんで」

 「あぁちょい待ってくれ!?」

 「?」


 沈黙。その言葉が一番その瞬間に似合っていただろう。

 

 目を開き振り返った後輩の視界には、DSを持ち、ポケモンで遊ぶ先輩の姿があった。いまだに最初のポケモンを決めかねていたようだ。

 後輩は激怒した。

 必ず、この無為無能の先輩を亡き者にしなければならぬと決意した。


 「待った!その巨大な角材を床に置くんだ!!」

 「15分待ちました。あぁ、私、やっと先輩の息の根を止めれるんだ…」

 「せっかく罪を犯す前に更生したのにここで罪を犯すのか!!」

 「私が罪を犯す前にレディースを抜けたのは。きっとここで初めて罪を犯すためだったんですね…」

 「話せばわかる!!」

 「わかりません。しかし先輩の癖に、狡い嘘をつくじゃあないですか。誇っていいと思いますよ、あの世で…」

 「そう褒めるな!!照れる!!だから角材を置け!!」

 「さよならストレスに苛まれる夜、こんにちは清々しい朝…」

 「待っ」

 「死ねぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!」


 結果。いちげきひっさつ級の角材は見事、先輩の頭に直撃。しかしあまりに彼の頭が固かったせいか、角材が折れてしまった。

 「先輩のとくせいって、石頭なんですか?それとも頑丈なんですか?タスキやハチマキも巻いてないのに、何で死なないんですか?」

 「痛い、痛い…!!痛いぞ…!!!!」

 「まぁもう一発かませば、天に召してくれるでしょ。ほい、せーのっと」

 「すまなかった!!許し、ほんとに許してくれい!!!!」

 

 結局、もう一度、角材で後輩は先輩を殴ったのだが、また折れたので諦めた。代わりにDSを破壊しようとするも先輩に死守される。

 妥協案として、カセットを後輩に預けて、DSは自分で所持しておくことを先輩が提案。加えてラーメンを一杯奢ってもらう権利に負け、後輩はしぶしぶ承諾。

 そして何事もなかったように、寝ないためのゲームが再開されたが、常に後輩が角材の破片を手放さなかったため、何事もなく朝まで続けられた。


 朝になり、天気が回復していることを確認して二人は下山した。

 帰りのバスはあらかじめ後輩が調べていたので、スムーズに乗ることができた。

 

 後輩はバスに揺られながらあくびをした。

 「お疲れ様!!しかし流石、元ヤンキー!!『セントローレンスの悪魔』は健在だったか!!」

 「……そのクソダサい通り名で呼ぶのやめてください。あと元レディースって言ってください」

 「謙遜するな!!この謙遜ガールめ!!」

 「うっざ……。私寝るんで着いたら起こしてください。終点なんでボタン押さなくていいですからね」

 「あい分かった!!お疲れ様!!ゆっくり眠れ!!」

 「言われなくても寝ます。あとこれ返しときますから」

 後輩は財布の中にしまっておいたポケモンのカセットを、先輩に手渡す。

 「おぉ!!ありがとうよ!!これで退屈なバスでもワクワク素敵な時間を過ごせる!!!!」

 「子供じゃないんですから…それじゃおやすみなさい」

 「おやすみ!!!!」

 やっとこれで安心できる。このうるさいやつの隣なのは不服だが、とにかく眠たい。できるのなら清々しい気分でバスを降りたいものだ。

 しかしあの異常なまでの頑丈さは、なんなのか。今度またストレスが最大限まで溜まったら、何で殴ってやろう。

 そんなことを考えながら、後輩は眠りに落ちていった。


 ほどなくして、横から揺さぶられ後輩は目を覚ます。

 「ついたんですか……?」

 「いや、そうじゃない」

 「何で起こしたんですか、殴りますよ?」

 「できるものなら、殴ってほしい」

 様子がおかしい。後輩は訝しんだ。

 「どうしたんですか、いつもの元気は。何かあったんですか?」

 「なぁ、後輩よ。お前は肌身離さず、俺のポケモンのカセットを、持っていたよな」

 「肌身離さず持ってましたね」

 「そして俺はDSを肌身離さず持ってたよな?」

 「いや知りませんよ」

 「持ってたんだ、持ってたんだよ……」

 どこかでDSを落としたのだろうかと思ったが、しっかりと彼の手にDSは握られている。

 「一体何なんですか」

 「お前、俺がどこまでポケモンを進めていたか、覚えてるか?」

 「進むも何も、最初の3匹選べてさえなかったですよね。何寝言ひざいてるんですか」

 「そう、だよな。じゃあこいつを見てくれないか」

 後輩はDSを受け取り、画面を見てみる。

 買いたて新品のはずのポケモンのセーブデータは、どうしてか、999時間59分99秒と表示されていた。

 「新品、でしたよねこれ」

 「あぁ、データを開いてみてくれないか」

 「呪われそうでなんかいやですけど……まぁいっか」

 セーブデータを開き、図鑑を調べてみると全国図鑑コンプリート。バッジ所持数を見ると8つ。手持ちを見るとなぜか六体ともレベルが100のソーナンスが並んでいた。

 「……先輩、ソーナンスが好きなんですか」

 「一番嫌いなポケモンだ」

 「……これをやったのは一体」

 「『3人目』だろう。あの部屋にもう一人、いたんだ」

 「じゃないと説明付きませんよね。あ、このソーナンス全部理想個体だ」

 「……ボックスの中身はどうなってる」

 「ちょっとまってくださいー」

 「……どうだ」

 「全部ソーナンスですね。びっしりソーナンスで埋まってます」

 「メガニウムは?アルセウスは?ルギアは?ルージュラは?」

 「全部ソーナンスですね」

 「うわぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!俺のポケモンがぁぁぁあああああああああああ!!!!」

 「……」

 『ちょっとおとなしくしてもらえる?』

 「ほら車掌さんもそう言ってますし……」

 「だが!!!!!!」

 『ね?他のお客さん乗ってるから』

 「先輩、ソーナンスマスター目指しましょう」

 「ちくしょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 あぁ、朝日が眩しいなぁ。後輩は窓の外の太陽に思いをはせる。車掌は朝からおかしな客がいることで憂鬱になり、母親に抱きかかえられた赤子は彼の悲しみに共感するかのように泣き始めた。

 男の慟哭がバスどころか、そこら一帯に響く中、ただ静かに、手持ちのソーナンスだけがぷかぷかと揺れ動いていた。

 



とても下らない内容だったでしょう。自分でもそう思います。

登山は十分準備した上で挑むように。


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