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魔王の恋人

誤字修正を一つしました。

 

「初めまして。王女様、いえ、元王女のルージュ様」

 ミザが冷たい目で、ルージュを見下ろす。


「回りくどい言い方をしなくていいです。ルージュで結構」


「レヴィ様が、お世話になりましたわ」


 それを聞いて覚った。

「もしかして、リーヴァイの恋人?」

 失恋から、ようやく出来た心の瘡蓋が、じゅくじゅくと剥がれ落ちそうになり、表情に出さないように堪える。


 ミザがくつくつと嗤った。ルージュにはない、大きな双丘を強調するかのように、胸の下で腕を組む。


「よくご存知で。お城へはあまり登城してませんのに。レヴィ様の部屋は別ですけどね」


「それで?」

 続きを促す。


 ミザはまるで駄々をこねる子供に話しかけるかのように優しく語る。

「レヴィ様はお優しい方ですわ。元主人のルージュ様を心配なさってますの。だから、勘違いをなさらないで下さいませ」


 牽制をされているのだとわかる。

「ええ、ご心配なさらずとも、分かってます。リーヴァイにずるずると面倒を見て貰う気はありません」


 恋人が、元主人と言えども、他の女の下にいたのは確かに面白くなかろう。自分も逆の立場なら、そうだ。


 そして何より間違っているのは、リーヴァイは恋人を蔑ろに、義理でルージュを花嫁にと言っているのである。


 このままだと、恐らくリーヴァイは間違いに気付く事がなく、好きでもないルージュと結婚をする道を選ぼうとするだろう。それは避けるべきだ。


 もう、会わない。


 寂しいが、このままお別れをしなければと、ルージュは思った。


「明日の朝までには、ここを引き払い、旅へ出ます」

 啖呵を切ったが、展望は無い。


「話のわかること。では、ご機嫌よう」

 それを聞いて満足気にミザは艶然と笑み、魔法陣の中へ消え、もう一人の女性が陣布を回収し、小屋を去った。



 荷物をまとめ、旅の支度をする。

 時刻は昼を過ぎて、リーヴァイに食べさせる予定だった、スープを冷たいまま口に入れた。

 味を感じなかった。


 ガランとした部屋を眺めていると、不意に涙が溢れた。

 父を頼って、魔族領にというのは違っている。父には会えない。行く宛てのない孤独感。


 自分の居場所は、自分で作る、そうは思っていても、漠然とした不安に押し潰されそうだった。

 涙を拭うと、しっかりしろと、ルージュは自分に言い聞かせた。

 

「私、馬鹿みたいだ」


 それでも意地は張りたい。

 誰かに迷惑をかけたくない。

 重荷になりたくない。


「何処か自分を知らない辺境を探さないと」


次回の更新は2017年9月5日9時を予定です。

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