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魔王の画策

 

 時は、平和条約を記念したレセプションパーティー前の過去に遡る。


 勇者や、ルージュが頑張って自分達の居場所を固め、予言に抗っていた一方で、


 ーーーまぁ、その預言は誤訳だった訳だが


 魔王リーヴァイも、何もせずにいた理由(わけ)ではなかった。


 そう、彼も動いていたのだ。

 ただ、ルージュが考えていなかった方向に……。


 それは勇者の家に、 “ ルージュ様の日々の生活が乱れてはいないか ” の抜き打ちチェックをする為に行った時の事だった。


 ツマミを持って、勇者の家に行くと、まずはルージュ様の肌の状態をチェックする。食生活や心の乱れは、肌にすぐ出るものだ。

 そして次に、これは一月に一度だが、不要だと嫌がるルージュ様を持ち上げて、身長や体重の増減をチェックする。

 魔王に成り立ての頃は出来なかったが、従者の頃は、折れ線グラフを作成して、成長の様子が一目でわかるよう魔王城の壁に貼っていたのだ。まぁ、そのせいでか、それを知った他の魔女達からは、どん引かれた。


 それは良いとして、今週はどんな出来事が起きたのかを、マリオンに聞いていた。勇者は、面倒がって話さないからだ。

 そして最後のシメには、暗黙の了解で恒例の飲み会をして、近所の飲み友(人族)も混ざり、お互いの愚痴を溢しあっていたり、歌を歌ったりしたものだ。


 勇者宅は、隣近所と離れているので、多少騒いでも大丈夫な所が良かった。勿論、ルージュ様の部屋には、静かに眠れるように防音の結界を例の紅い宝玉にて、張ってある。


 ルージュ様はまだ成長途中という事で、それと仕事が夢を見る事でもあり、それ故に早寝をしないといけない。


 話は戻ってその宴会時に、ぐでんぐでんのマリオンが酒の席で言った事が、切っ掛けとなった。


「魔王サマ〜、勇者サマったら、その間、女神神殿を作るって、半分本気で言ってて、後でまた、『直接の女神扱いが嫌なら、女神の化身や神子扱いはどうだ?』とか言っちゃって〜、祀るって意味では神社も捨てがたいとか〜……」


 シンデン(・・・・)それにジンジャ(・・・・)ーとは教会とはまた違った形式の神様の家である。神を祀る建物だそうだ。


 衝撃だった。何故、自分はそんな単純明快な事に気が付かなかったのかと。


 それがルージュ様に相応しいではないかと、考えれば考えるほど、しっくりと来るのだ。

 魔王城はあくまでも魔王の為のものであり、女神の為のものを建築すれば、ルージュ様の為になるだろう。別に人が女神として、崇めなくとも良いのだ。

 魔族の女神だと、魔王が理解していれば良いのだ。

 それ以降のマリオンの話は、その時のショックと自分の妄想の噴出を抑えられずにあまり覚えていない。酒のせいともいう。

 その後の話は多分、誰かが反対したとか、してないとか?そんな内容だった気がした。


 ただ、建物を建てるのには、(魔)人手とそれに伴い金がいる。金の方は問題なく潤沢で、黒字を更新しているので、ある意味問題ない。だが、(魔)人手は足りてない。


 少子化に関しては、以前、勇者からアドバイスを貰っているが、そしてそれは、実行したからと言って、直ぐに産まれてきて直ぐに改善されるという問題ではなかった。


 その改善方法とは、魔族の中で、なるべく、特徴を整えた集まりを形成させるのが重要になるかもしれないという事だった。自由過ぎるのである程度、揃えられるなら揃えて、共に生活をさせることがいいらしい。


 そのヒントとなるのが特徴であり、例えば背が低い者ならば、やはり、背の低い者を(つが)いとし、耳の尖った形状の者は耳の尖った形状の者を番いとする。水に棲まう者は、同じく水に棲まう者同士が望ましいとの事であり、空を飛ぶ者は空を飛ぶ者でと、今迄のように、あまりにも自由でバラけ過ぎた生活をしている事が、子供が出来難い一番の原因となるようだ。


 そこで、魔族は魔族だが、特徴毎の名を付ける事から始めていく事となった。名前付けは、ルージュ様にお願いした。小人族、巨人族、耳長族、獣人族、水棲族、鳥人族、妖精族、精霊族、一般魔人族、悪魔族(魔族領内で犯罪を犯した者)、などといった感じである。その後にもっと、詳細に分かれるのかもしれないが、大まかに属性区分した。


 そうして、子供を求める者達で、その属性毎に分かれ生活してもいい者だけ、集められた。

 真面目に子供が欲しいと考える者達で、表情は真剣そのものだ。

 念の為、一応聞いてみる。

「子供が欲しいかー!?」

「オオ!!」

「子供を育てたいかー!?」

「オオ!!」

「子供を作るぞ〜!!」

「イエーイ!!」

 見た目に反して魔族のノリは皆、良かった。

 住居の変更を同意した者達だけで集い、各属性の長を決めて、属性毎に子育てに良さそうな環境に住まう場所を決め、新たな生活の為に資金援助をしたり、補助として魔族軍の一部を派遣して、工事したり、より快適に生活が出来るように環境作りの手伝いをさせた。

 一部の者は、殆ど金がかからない者、金を使わない者で、それと、その連中に関して言えば、献金もしない者でもあったが、それでも、その者達に対しても、同じ対応をした。


 そうして、属性毎に数人の班に分けて生活をさせて、ある程度の期間で、(つが)いが出来て、妊娠をする者が出てきたのだ。そこで(つが)いが見つからない場合、その者は同じ属性の別の班に入り、新たな出会いを作る。

 妊娠から出産に関しての期間はまちまちで、そこでも属性毎に特色が出ているようだった。

 妊婦は増えつつあるようだが、人口増加にはまだまだ時間がかかる。そんな感じだ。しかし、その世代で絶えようとしていた、淘汰されようとしていた属性群にとっては、大変朗報だった。後は、安心出来る出産に子育てと言う事で、出産をした、子育ての経験のある女性達に、手伝って貰うことにした。


 食料に対しても、勇者は思う所があるらしく、魔族領は主に北方に位置した山間部で穀物が育ち難い地域なのだが、いつまでも、自然に存在している果樹や、人族の食糧を宛にするのではなく、高原地帯に何年かかっても、自給自足が出来るような、寒さに強い、大麦、小麦の品種改良栽培を行なったり、芋の栽培、などをした方が良いと言っていた。

 その研究にも、人手が必要で、そんなこんなで、現状、常に(魔)人手が不足しているのだ。

 しかし、リーヴァイは神殿を諦めてはいなかった。


 魔族じゃなくとも、人族がいると。

 半ば諦めてはいたのだが。

 平和条約があるからか、募集をかけると意外や意外と、集まってきたのだ。


 それは大勢の人の中で、ルージュが細い糸を手繰りで寄せた結果だったのかもしれない。

 魔王リーヴァイに対しての、怖い物見たさと、一部の人からの親近感からなのかもしれない。

 偽勇者と教会から、手の平返しに謗られた、秋への同情からかもしれない。

 単純に教会への反抗心からかもしれない。

 自らが建築に参加する事が出来なくて、他人を寄越す者も多くいた。


 そうして集まってくれた人族がいて、神殿作りを始める事が出来たのだ。


 リーヴァイは考えを、改めた。


 この世界に降臨したのは、確かに魔族領だったし、その恩恵は結界という形で今も宝玉の恩恵を受けている。

勿論、基本はルージュを結界で守るのがいいのだが、ルージュはそれを望んでいない。


 ルージュが今現在、救った多くの者は人族が主で、募集をかけて集まった者も人族だった。

 ルージュは魔族だけの女神ではなく、この世界に降臨した女神なのだ。と、認識を改めた。


 これに対して、不思議に思う魔族は多かった。

 外見こそ、美しく見栄えが良いが、役に立つとはどうしても思えない前魔王の娘が、実は女神だか何だかで、秘密裏に神殿を作って贈ると聞いたからだ。


 そして、募集の結果、人族の者が多く集まったので、それに興味を持つ者が、人族から話を聞きに行った。

 話を聞くうちに、人族と親しくなる者もいて、一緒に手伝う者も増えてくるようになった。


 人族の中での話は、面白可笑しく、尾ひれはひれが付いた物もあったが、勇者と共に悪巧みを阻止したり、引き裂かれた親子を出会わせたり、死者の願いを叶えたり、冤罪を明らかにしたり、病を治すという、信じがたい話も沢山あったが、同じ魔族として誇らしいものだったのだ。


 魔族としては一番大切な事だと教えられる攻撃魔法がなくとも、立派な体格や力がなくとも、彼女は彼女が出来る事を懸命にやってきたのがわかった。


 夢を操るという一見、能力と思われない、下らないと思われた能力で、それも種族が違う事による偏見もある中で、女神とさえ、思われるようになっていったのだ。

 まぁ、実際は、それだけではなかったのだが。


 魔族の中で自然と、ルージュに会いたいと密かに願う者が増えていった。


 

次回完結します。

更新時間は、2017年10月18日4時予定です。


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