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人の世

 帰って来た男達にみな驚いたり、呆れたり、喜んだりする者達で、村や街は賑わった。


 最初はルージュに感謝する人々が沢山いたが、ルージュの外見から半魔で、予言されていた、終わりの魔女だと知ると、手のひらを返した。


「攫ったのは、終わりの魔女なんじゃないか?」

「人を騙す為に、いい人ぶった自作自演じゃね?」

「魅了の魔法で森へ男を誘い込み、誑し込んだんだ」


 夢でしか、力を出せないというのに、それを知らない者が多いのだろう。魅了の魔法なんて、使えないのにと、声を大にして言いたいのだが、信じて貰える段階ではない。


「俺、あの子に抜いてもらいテェ〜」

「一晩くらい相手にしてもらいてぇよな」

「あんた、あの顔に騙されるんじゃないよ」

「可愛い顔をして、男を手玉にとるんだろうよ」


 大半は表立っては言ってこないが、陰口を叩き、そして関わることを避けている。


 あからさまに厭らしい表情で、舐めるように見てくる者達や、金品のように価値を計ろうとする者達なども少なからずいて、それらは不快でしかなく、気持ちが悪かった。


 中には、それだけではなく、絡んできたり、手首を掴んで、何処かへ引き摺り込もうとしてきた者達が現れた。


 人ではないのだから、それをしても問題はないと。魔族には何をしても許されるという、人族の神の言葉を曲解したような教会の言葉を信じているのだろうか。


 種族として対立しているだけに、それとも信じている神の違いによるものなのか、何かが歪んでいる気がした。


 幸い、以前に薬をあげて病気などが治ったといった一部の人族が、それに気がついて、庇ってくれたが、仄暗い澱んだ目が付き纏うようにあって、早く帰りたいと願った。


 初めての街でそんな驚くべき事があり、夢の中に出てきた(あき)の警告を思い出して自衛の為に持ってきた剣を握りしめてた。


「秋くん…」

 人族の街に来たのは時期尚早だったと、感じ入る。


 そして正直、人の身勝手さに、がっかりした。


 記憶の母と同様に、優しい人達を想像してたからだ。

 夢の中で会える人間も、危害を与える印象はなく、どちらかと言えば善良で、種の違いなど様々な理由で傷付き、悲しみを抱えて戸惑っている、そして何となくだが、助けを求めていた。そんな人達であった。

 それだから、悪夢を追い払い、"人"を理解(わか)ってあげたい、可能ならば、助けてあげたいと思っていたのだ。


 実力主義、個人主義の魔族社会で、そんな不埒な真似をする者はいなかっただけに、人族の妙な団結や連帯感、注目の視線は、異様に感じた。


 魔族はこんな事をしない。

 冷たい泉の印象で、ダークブルーの髪に紫紺の瞳…リーヴァイの姿がそこに浮かんだ。


 思いかえすと、魔族領では普段ずっと、魔力が強いリーヴァイが付いててくれた為に、そんな雰囲気を読み取る事が出来なかっただけなのかもしれないと、思い直した。


 結局、自分一人では、何も変えられず、何も出来ないのかと、ため息をついた。



 人族の子供達は、周りの空気に敏感で、石を投げつけて、早く帰れと脅す。


「平和を乱す魔女だ。早く帰れ!」

「魔族は去れ」


 そんな風に囃し立てた。

 どうにも一方的で、話にならない。

 心配をするような発言をする子もいる。


「大概の魔族は、物々交換をしたら、立ち去るんだから、お前も早く帰れよ!何かあっても知らないぞ」

「危ない意見の人が増えてるみたい、気をつけて」

「お前ら、魔女の肩を持つ気か⁈」

「お前は、このお姉さんから、何かされたのかよ?何にもされてねーのに、いきり立ってんじゃねーよ」

「魔族に魂を売ったか!」


 子供同士で喧嘩になったりして、ルージュは居た堪れない気持ちになった。

 長時間いるのは良くない。

 諍いの原因になりたくない。


 そうは言っても、食料は人族か魔族領のどちらからか、買ったり貰ったりしないと生きてはいけない。そして今は、結界が消えた反動のように、急な人族の訪れがあって、保護したが故に、小屋では一気に備蓄していた食料が底をついたのだ。


 その為、どうしても食料を買って帰りたいのだが、終わりの魔女と知るや、売ってくれない事態が発生していた。

 

 そこへルージュに救われたと思った者達が、自分達が飲み食いした分などの食料を集めたり、こっそり隠れて食べ物を手渡してくれた。


「申し訳ございません。こうも偏屈な者達がいるとは」

「ウチの旦那なんざ、ちょっとした発熱で、死ぬ死ぬ言って薬を頂いておいて、元気になった途端に、恩を忘れて悪口言うなんて」

「俺達は、たまたま狩をしたりで、勝手に迷ってたのに」

「天使様はちっとも悪くないのに」


 終わりの魔女だと知っても、ルージュの気持ちを慮る人々が憤慨してくれたりして、温かい気持ちになった。


「ちょっとずつ、わかって貰えれば良いんです。元々そのつもりでしたから、長居する予定ではないので、食料も手に入った事ですし。これで帰れます」

 少しずつ集まった食料を魔法の鞄に入れると、微笑んでみせた。


「預言は外れているわね。こんな女の子が、混沌を生むとか、秩序を乱すみたいな事を謳ってたけど」

人族の年配の女性がそう言うと、口々に、似た様な感想が漏れ聞こえてるが。


「うおおおおオォ、いい子だぁ〜」

「流石は女神さま、そんじょそこらの女とは、格がちがぅ」

「「可愛すぎるゎ」」


 相変わらず何か誤解したような発言も多い。



 ルージュは少し引いた目で見た。


 あぁ、いつかは人と理解し合う日が来るかもしれない……だが、人のこのノリには一生ついていけないだろうとは、思った。


次回の更新は2017年9月2日6時を予定です。

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