魔王の交代
人里から少しだけ外れた西の森に、ルージュの母が住んでいた小屋があった。
いきなり"人"のテリトリーに入って、怖がられないように、少しずつ馴染めたらいいと思っている。
幸いこの森の近くの村と街は、魔族領の近くという事もあって、魔族との物々交換や、交流が少なからずもある。
人の世界は、人族の領域の中心(王都)に行けば行くほど、交流がなくなり、敵対心が強くなっている。それは魔族も似たような関係だ。
人族は魔族を怖れ徒党を組んで排除しようとするのに対して、魔族は弱き人族を見下し蔑む。
どちらの血も引き継ぐ彼女は、どちらにも歓迎をされていない。
父が先代魔王という立場だったためか、元側近で、一時期は、ルージュの従者兼家庭教師でもあった、現魔王のリーヴァイだけが、ルージュと親しく接してくれた。
そんなリーヴァイに一時期は恋心を募らせた時もあったのだが、淡い初恋で終わった。
リーヴァイの容姿はというと人族が持たない色で、ダークブルーの髪、紫紺の瞳、肌は薄っすらと青白く、喋らなければ、まるで人形のようで、生命力を感じさせない雰囲気を持っている。もっとも、口を開くとお小言や、お説教、過保護かもと思える事ばかりで、冷たい泉のような容姿の印象とは、かけ離れる。
ある夜、リーヴァイの部屋へ向かうと、女性の笑い声が聞こえてきた。
その日までルージュは、彼のことをリーヴァイではなく、愛称として、レヴィと呼んでいた。
仕事とはいえ、リーヴァイはルージュを、時に見守り、時に叱咤激励をして、優しく厳しく、まともに対等な存在として認めてくれて、異性としても初めて意識した相手であった。
そんな彼の部屋から、ひそひそとした女性との会話が漏れ聞こえ、思わずノックをしようとする手を止めた。
時折、揶揄うような甲高い笑い声が、少々ルージュの癇に障る。行儀が悪いとは思いながらも、聞き耳をたてる。
「ねえ、レヴィはお子様とは寝たの?最近では、あの子、明らかにレヴィに想いを寄せているわよね」
それは甘く、どこか挑発的で愉しげだった。
自分の事を話しているのだろうかと、ルージュは一瞬にして固まった。
「……寝てないさ。まだ胸も小さいお子様は、対象外だ。嫉妬しているのかい?」
リーヴァイが返す。
どうやら恋人の女性と話しをしていたようだった。
ルージュは、思わず後退って、音を立てないように、その場を離れた。
心臓が早鐘を打つ中、落ち着かない心を整理する為に。
その後、偶然聞いた話で、彼は胸の大きな女性が好きなのを知った。
リーヴァイも普通の男なのだと、恋人だって、作るだろう、現実は甘くないんだと自分に言い聞かせた。
ルージュは自分の中でのケジメとして、彼に向かってレヴィと呼ぶのを辞めた。
幸いとでも言うべきか、四年に一度の大祭、魔王戦が近く、その都合上、魔王の関係者(主に家族やら、恋人など)は一定期間、不正や脅迫などを受けたり、行ったりしないように、一時的に隔離される時期であった。
その時期が来ると、ルージュは魔族が近付かないよう監視下の元、一人で魔王戦が終わるまで西の森で過ごす。
そして、父が勝利したら、王城へ戻るのだが、
番狂わせが起きた。
それは、リーヴァイが魔王戦で数いる魔人を蹴落とし、魔王との対決をどう制したのか、それは不明だが、16年振りに挑戦者が魔王交代を果たしたのだ。
リーヴァイが魔王に就くとは、誰もが予想していなかった。
父はルージュと会う事なく、王になる以前の元の住処へ向かい、ルージュはもう一つの血"人"を理解するためにも、母が結婚前に住んでいた西の森に、そこに住む事への、きっかけとした。
次回の更新は1時間後の本日2017年9月1日3時を予定です。




