青年の依頼(後編)
枝葉の話です。あと7日位続きます。本筋に戻るのは2017年9月20日辺りです。
夢の世界だからこそ、言葉だけでなく、伝えられる手段がある。
ウォルターの背景に、幼少の頃のイジメが映し出される。
人の世界で、滅多に見られる事のない緑色の髪をしているが為に、魔族と謗られ、繰り広げられる陰湿なイジメ。
子供は特に、自分達と違う者に敏感だった。大人の見てない所で、馬乗りをされて、尻を叩かれたりする事もあった。汚水をかけられたりする事もあった。
父は庇ってくれず、酒や女に淫蕩に耽った。
逃げ場として教会に浸った。教会では、信仰が足りないから、そんな魔族のような髪色なのだと、告げられた。そして、未だに、変な目で見る人もいる。
教会で神様に祈りを捧げる日々を過ごした。
魔族が人よりも力が高いのは、神様から、その一部の力を盗み奪ったからだと、教会は説く。
魔族は多くの種族の集まりで、その姿に醜い者が多いのは、神様からの罰であり、人を頂点とする為に分かりやすく選別したからだと、教会は説く。
魔族の出生率は人よりも低い、滅多に生まれない、それは、神様から滅ぶように運命付けられているからだと、教会は説く。
人と魔族の間では、子供は生まれない。神様の愛が魔族に注がれない故に出来ないからだと、教会は説く。
神様の愛は、常に人に注がれていると、教会は説く。
何故なら、治癒の魔法は、愛の魔法と呼ばれ、神の御技であり、人族しか、持ち得ないからだ。傷ついた者を癒す力その力は、神の末裔である王族に伝わり存在する。
人と、魔族。そこに子供は出来るのか。
魔族同士でも種族にもよるが、子供は生まれにくい、人と魔族では、それは有り得る筈は無いのだと考えるのが、一般的だが、予言されし、終わりの魔女は、半魔であり、半分は人なのだと言う。ならば、自分も、もしかしたら、という疑惑は晴れず、とうとう、評判になっていた、勇者が保護している、夢見の魔女に依頼をしたのだ。
魔族と聞いていたが、魔力が無く、夢でしか、その能力が現れないそうで、その容姿は、素晴らしく美しいと、聞いていた。
夜のような漆黒の髪に、紅玉の瞳、くすみのない肌で、整った顔、それだけでなく、声も高過ぎず、低過ぎず、落ち着いていて、心地よい、これが本当に醜いと散々、教会で罵られる魔族なのか、と衝撃を受けた。
まるで、生きた宝石ではないかと。
天使がイタズラで落ちて来たのか、女神の降臨としか表現出来ない。
人間の方が醜いのではないかと。
微笑まれた時には、攫ってしまいたくなる劣情を、理性で必死に抑えた。
それはさておき、夢で会えた母は、やはり魔族だった。
母の背景も、映し出される。
魔族にしては、色が違うだけで、人と差がなく、痩せ細ってはいるものの、優しい印象だ。
ある日怪我を負った父と出逢う。
父の怪我を見て、母が介抱し、やがて若い二人は恋に落ちた。
暫くは一緒に住んでいたのだが、強い迫害を受ける度に、転々として、祖父母の反対もあり、援助も受けられず、貧しさに負け些細な事でも苛立ち喧嘩をするようになった夫婦、結局どうする事も出来ない状態となり、別れる事となった。
引き離されたのは、母と子。
ある日突然、夫と息子が消えたのである。
消えた息子を泣き叫び、探す日々を過ごす。
何日も何日も、消えた息子を求め、裸足で彷徨い歩き、膝下は、草で切ったのであろうか、細かい擦り傷だらけ、足首や足の裏は、血泥塗れとなった。
魔族は、子供が産まれにくい。
それ故に諦め切れぬのか。
愛情が深いからか。
周りには気狂いと遠巻きにされた。
それから、いつしか探すのを諦めて、元夫と共に生きていると信じて、過ごした。
ウォルターは母の背景を見て、ウォルターの母は、息子の受けた仕打ちを見て、どうしようも出来なかったことを泣いた。
互いの状況がわかるように、互いの気持ちが分かり合えるように、ルージュは調節する。
そうして、二人を見守り、安らかな眠りに誘った。
その夜の夢を忘れないようにと。
これから二人の未来が幸せなものに、変わっていくように、魔女の願いも込めて。
ー用語解説ー
魔族男性=魔人
魔族女性=魔人、魔女
次回の更新は2017年9月14日18時を予定です。