青年の依頼(前編)
ルージュの唯一の特技というか、魔力の使い先が、夢である。
攻撃魔法など、他の魔族や人族の一部が当たり前のように実践的で使えるものは、全くの不向きなようだった。
自身の魔力が見えないのも原因かもしれない。
役立たたずの王女。予言で、混沌を生み出す、秩序を破壊する、と謳われたにしては、魔族では、そう評価される事が多かった。
それと、混沌と言えば魔族の種は、様々であることと、秩序と言えば、魔力の最高位である魔王(最低4年間は魔王)に服従の意を示すことくらいなので、人間の血を引いてるという事で、歓迎はされないものの、人族程、予言を恐れる事はない。
そんな役立たずの魔女だが、夢だけは、かなり自在に操れる。
「申し遅れました。僕は、ウォルター。夢で会いたいのは、僕の母に当たる人です」
教会のシンボルペンダントを握り締めている。
夢でもいいから、会いたい、それは心の何処かで、何か不安に思ってる事がある、苦悩があるのだろうと、ルージュは観ている。
椅子に腰を掛けて貰って、話を進める。
「お会いしたい方は、お母様ですか。もっと、具体的に聞いていいですか? 出来れば、お名前や、具体的な外見や雰囲気など」
真摯な眼差しのルージュを見て、ウォルターは頰を赤くし目を伏せた。
「な、名前はケイシーです。外見に関しては一度も会った事がないので、わからないんです」
情報はあればあるほど、その人物を探索しやすくなる。なので、出来るだけ聞いておきたいところだ。
それと相手が同じく、会いたいと願っているようなら、探しやすいのだが、感情に波があるように、常にそういう状態ではないのだ。
「お名前だけですか……。わかりました。では、ウォルターさんのお父様に、お伺いしてもよろしいですか?」
「父ですか?、それは難しいかと……、母の事は、あまり聞かれたくないようです」
「わかりました。では、本日の夜から試してみますが。長きに渡りお会いしてないとの事から、お母様も躊躇われるかもしれませんね」
「まるで、本当に会えるような言い方をするんですね。気休めの呪いとは、わかってますが……」
ウォルターは苦笑した。
「夢で本当に会えますよ」
ルージュがそう微笑む。
そして、夜が更けて、未明にそれは叶った。
ウォルターの母ケイシーの意識と、ウォルターの意識を夢で結びつける。
ケイシーだと思われる人物の意識を、情報が少なかった為、探すのに多少手間取ったが、何とか見つけられて良かったと思う。
ルージュは姿を見せないように、透明化して、意識だけをそこに置いた。
それはまるで、秋の世界にある、テレビを見る感覚と似ている。
二人を直感で親子とわかるようにした。
実際、二人は親子である。
そうでないと、なかなか二人は、喋りそうにないからだ。
「母さん?」
ウォルターが呟く。
そこに居たのは、緑色の髪と目を持つ魔族の女性だった。
「もしや、ウォルター?」
「やっぱり、魔族だったんだ」
自嘲気味に笑う。
おそらく、ウォルターは予想をしていたのだ。
予想は確信となる。
ー登場人物ー
依頼者 ウォルター
依頼者の母 ケイシー
次回の更新は2017年9月13日17時を予定です。