仮面の勇者
聖王女から解呪を受ける。
「魔王は貴女のこと、愛してますのね」
不思議な事を言うな…とルージュは思
った。
「花嫁について、ですか? あれはそういうのではなくて、魔王は私の元従者で、元主人の私を気遣っての事なんです。私は半分魔族で、半分は人族なので、おそらく、何処に行っても迫害を受けるだろうと。それで、恋人がいるのに、私を花嫁にすると」
聖王女は目をぱちくりと瞬かせた。
「あの男、恋人なんかいたんですの?! 優男は信用出来ないことね。でも、結界は自分のいる魔王城じゃなく、貴女の住処に張ってたのでしょう?」
それを聞いてルージュは思い当たった。
「もしや、男性が迷い、女性のみ出入り出来る、ふざけた限定結界、あれはリーヴァイが……? (アレが解けたのは良かったけど、餓死しそうな男性達がその後、助けを求めて来たのよね) …なんて事を……」
ダークブルーの髪を無造作にたらし、泉の化身のようなリーヴァイが、紫紺の片目を瞑って、軽くウィンクをしている…そんなイメージが浮かぶ。
黙っていれば、普通に女性達に囲まれる、が、幾分ルージュに説教臭いので、引く女性も多い。
「本当なら、人や殺意を弾くように、部屋の一室や家に張るものよ。それも強度は低いわ。規模にもよるけど、結界は魔力を常時かなり消費をするのよ。前魔王は城ごと張る強大な魔力持ちみたいで強度もあってお手上げだったわね。現魔王も同じ規模を西の森で展開してたみたいだけど、遠隔で張るのに制御に消費する魔力がかなり必要よ。元主人ってだけで、其処までするのはちょっと変だと思うわ。」
ルージュはそれに対して深く考えなかった。
「私に結界を張るなんて、無意味ですよね。それでよく、魔力が少ない状態なのに、勇者やその仲間?から逃れましたね。殺して欲しくないので、良かったですけど」
もし、リーヴァイが殺されてたら、秋の事をどんな風な目で見るか、自分でも、わからなかった。恨むかもしれない。例え、リーヴァイが悪かったとわかってたとしても。
その逆にリーヴァイが秋を殺すとしたら?思考が止まる。考えても嬉しい事ではない。
それまで黙ってた秋が口を開いた。
「聖王女は、そのつもりだったようだが、敵対関係ってだけで、後先考えずに魔王を殺害なんて事をすれば、頭を挿げ替えただけの人類 対 魔族の全面戦争になりかねないだろうが、こちらの方は、まずは血統、次いで、決まらなかった場合、議会の承認やら、長老会で、王様が決まるようだが、魔族は4年毎の勝者順なんだろ? それで、頭の狂った奴が魔王となったら目も当てられない」
「意地の悪い言い方ね。それでは、私がただの脳筋みたいじゃない」
魔王にどんな者がなったのかを知るため、政治的な思惑もあり、侵入をしたという事だった。
「あれ? じゃあ、魔王の殺害が目的ではなかったって事ですよね。でも、あの怪我は?」
リーヴァイの怪我は一体何故か。
「あれね、アレは、ちょっとやり合っただけ」
秋は言い澱んだ。
そこで、聖王女が答える。
「貴女の事で喧嘩したんですのよ」
「バラすなよ」
秋ががっくりと項垂れた。
「私のこと…?」
「ただ気に食わなかっただけだ」
考え方の違いだろうかとルージュは見当を付けた。
魔王城やら、結界の中に閉じ篭っていれば、誰からも傷つけられない。
しかしそれでは、何も知る事が出来ないし、何も得られない。
それどころか、ミザを傷つける結果になっていただろう。
リーヴァイの口から恋人である筈のミザの事は聞いた事がなかった。
秘密の恋人っていうものなのだろうが。
そこでふと、チラリと聖王女メアリーを見る。
秋とメアリーの関係は、どうなのだろうと。
メアリーは、秋の事を好きだと思う。
秋は、どう思っているのかがわからない。だが、仲間として、気安い関係で、凄く親しげだ。
また自分の一人相撲で終わるのか。
不意に
「巨乳派と、貧乳派の戦いだったわー」
そう言ったメアリーに、ルージュの思考が停止した。
次回の更新は2017年9月10日14時を予定です。