聖王女の来襲
家も決まり落ち着いた頃だった。
ルージュは夢に関した仕事をしている。
依頼された人物に、その人の見たい夢(それは過去に生きていた、逢いたくても、逢えない人だったり)を見せ、人によっては、悪夢を見ないように払うのを仕事としてするようになったのだ。
呪いにより悪夢を見る人などもいて、その際に悪夢払いで解呪も有効だと わかった。
中には眠れない人もいて、母直伝の睡眠薬を、間違えた飲み方をして害が出ないように、小分けで売った。
勇者がルージュの保証人になってるせいか、これといった問題は起きなかった。
年がら年中、フードを目深に被るのも、怪しく見えるし、鬱陶しいので、人通りの多い場所以外は隠していない。
秋の人徳か、人が人を呼び、依頼相談が増え好評を博した。
しかし、男性の依頼相談の際は確実に秋が、まるで見張るかのように常に側にいるので、それが一部で不評となった。
「ルージュの解呪の件、王宮魔道士に依頼した」
周りとだいぶ打ち解けて、剣で身を守る事も上達してきた頃、そんな事を言われた。
「ありがとう。でも、そんなに不便には思えないし。だいぶ稼いだとはいえ、依頼料大丈夫かな」
「大丈夫、友情価格でやってくれるから。触れない呪いなんて、百害あって一利無しだ。…(いや、他の男は触らなくていいが)…とにかく、依頼人とか間違えて触れたりでもして、誰彼構わず電撃が走るのは、商売上良くないだろ?」
秋が力説する。
(折角ちょっといい雰囲気になっても、触れないなんて、蛇の生殺しもいいところだ)…という本音は語られなかった。
そうして、やって来たのは、聖王女だった。
近衛騎士団の騎士カーライルを護衛として、他従者二名を連れて、わざわざ、王都から数時間かけて、来てくれたようだった。
メアリーは、落ち着いた茶色の髪に同じく、茶色の瞳、胸は控えめ、何処となくだが、親近感を感じる。
メアリーを応接室の上座に案内すると、護衛騎士がその後方に位置取る。ルージュは紅茶を淹れてから、腰をかけた。
「(チッ)、俺は、魔道士を呼んだ筈、お前は呼んでない、チェンジ」
秋が舌打ちする。
「何を仰いますか、ド腐れ勇者さま」
メアリーが嗤って応戦する。
ルージュが驚いた。
秋は勇者とは言え、相手は聖王女なのだ。
「……。本日は、聖王女様に、おいで頂き誠に有難うございます。……勇者の仲間なんですよね?」
コメントのしようがなく、前半は王女に、後半は秋に言葉を紡ぐ。
「わたくし、王宮魔道士から、解呪を頼まれましたの。勇者のくせして、呪いを受けたんですか?」
まるで鈍臭いとでも言いたげな台詞だ。
メアリーは秋のことが嫌いなのだろうかと、ルージュは一瞬、疑問に思った。
しかし、嫌いな人に会いに、数時間も馬車で移動してくるなんて、それはおかしい。聖王女が呼びつけるなら分かる。まして嫌いな相手に対して、聖王女が、そこまでする必要性は感じられない。
おそらく、その逆である。
メアリーは秋に好意を持っている。
ただ、素直になれないのだろう。
会いたくとも、会えずにいたのだろうと推察した。
軽く様子を見ていると、先程から秋しか見てない。
見えてない。
「違う。解呪して貰いたいのは、こいつだ。魔王から、呪いを受けて、人と接触すれば、電撃が走るようになっている」
秋の態度は特に変わってはいない。
これが普通なのか、秋がメアリーの思いに気付いてないのか、まだまだ付き合いの短いルージュには判断出来なかった。
メアリーが、ルージュを見て些か引き攣り、顔色を変えた。
「…とうとう、攫って来ましたか」
「人聞きの悪い事を言うな。あのままだと、魔王の花嫁になってた。本人の希望じゃない」
メアリーが、微妙な表情でルージュを見る。
それはそうだろう。
好きな相手に、別の女が側にいるのだから。
ルージュは心の中で、秋を罵った。
(秋の鈍感!)
「とりあえず、解呪はするわ」
メアリーは複雑な顔をして、そう言った。
ー登場人物ー
聖王女 メアリー
護衛騎士 カーライル
次回の更新は2017年9月9日13時を予定です。