勇者とダンス
脱字があり、一文字追加しました。(9月11日)
「退治って、ルージュは何かお仕置きされちゃうような、悪い事でもしたのかな?」
秋の目付きが何やら厭らしく、手が何かを揉むような動作をしている。まるでお仕置きとやらをしたいかのようだ。
「してない、してない」
慌てて首を振る。
「なら、堂々としてろよ。まぁ、その外見じゃ無理だろうけどな。人が放っとかない」
「予言の子だってバレちゃうものね…」
ルージュは項垂れた。
「あのな…予言だけが注目されているわけじゃないからな。自覚が足りてない」
秋は掴んでいたルージュの手を、ぎゅっと強く握りしめた。
そうして、自分の方へルージュを引き寄せ、素手で頭を撫でようとして、バチッ!と電撃を喰らっていた。
「勇者って、アホなの?」
「握手するときに片方の手袋を取ったままだった事を忘れてた…」
どうやら、秋にルージュを殺すような意思は全くなく、安堵した。
あの予言のせいで、人族のルージュに対する印象は、魔王より最悪だろうとは、認識しているし、勇者がそれを知らない筈はない。
「予言を信じてない?」
そうとしか考えられなかった。
「まぁ、それもあるかな」
秋にとっては、何でもないかのような素振りだ。
生命の危機の心配が終ると、また別の心配が出てくる。
人族に取って、秋がルージュを生かして側に置く事は、裏切りになるのではないかだろうか。それは秋に取って不味い事態になり得る。
側に置く事によって、ルージュを監視している、というつもりなのか、はたまたルージュが無害な存在であることをアピールしてくれているのか。
秋の意図が読めない。
知らず眉間に皺がよっていたのか、秋はルージュの顔を覗き込んだ。
「難しい事を考えてる? とっても単純なんだけどね」
視線が絡み合う。
秋の黒い瞳が、ルージュを真っ直ぐ捉える。
どこか もどかし気に。
ルージュは思わず目を逸らした。
何故か秋に見られているのが、恥ずかしい。
秋はそれを見て、少し驚きの表情をしたあと、嬉しそうに形の良い唇の端を上げた。
少し頰に熱が登るのを感じ始めるも、ルージュは尋ねた。
「えっ、と、大丈夫なの?」
秋は自信に満ちた表情で応える。
「大丈夫。俺に任せて」
秋が笑う。
魔王に失恋して、もう勇者に異性として意識しているなんて、自分で自分に呆れた。
半分魔族で、半分人族で、どちらにも居場所なんてないのに、片や魔族の頂点に立つ王、片や人族の希望である勇者。
おこがましい事この上ない。
どちらも、自分を助けてくれた。
それでもって好意を寄せるなんて、なんて単純なんだろう。
ほんのりと赤くなった頰を秋に見られないように、手を頰をに当てた。
「どうした?ルージュ」
「恥ずかしいのが秋に伝染しないように、隠すの」
「……」
それを聞いた秋も顔が赤くなり、小さくガッツポーズを取るが、ルージュは見ていなかった。
「確実に俺はステップを踏んでいる…(魔王め、ざまぁみやがれ)」
次回の更新は2017年9月8日12時を予定です。