勇者と同居?
秋が提案をする。
「俺と一緒に住まないか?一人じゃ退屈だし」
「……め、迷惑じゃない?」
ルージュは戸惑った。
「全然。とりあえず今日は宿を取ってあるけど、住む場所は、好きな所をルージュが決めるといいよ。家の一つや二つ、買えるくらいの経済力はあるつもりだよ」
「人族の貴族か、何かなの?」
「違うよ。どちらかと言えば、旅行者や冒険者、だね」
「秋くんは謎が多いね」
秋が笑う。
「そのうちわかる。行こうか」
差し出してきた手に、ルージュは内心不思議に思いながらも、その手を重ねると、やはりバチッと、秋にだけ雷が走る。
「っ痛ー。刺激的だねぇ」
「秋って、分かっててやってるでしょ。馬鹿ね」
ルージュは笑った。
秋は人の心を軽やかにしてくれる。
不思議な人だ。
人里に住むのは初めてで、フードを深く被り、何日間か、宿を渡り歩いて、物件を見て、場所は結局、秋に決めて貰う事となった。
しかし、何が悪いのか、フードを被っていても、何故か周りからジロジロと見られている気がした。
それを言うと秋は苦笑した。
「ルージュの女神オーラみたいなもんが漏れまくっているんだろうね」
「何を言ってるんだか」
ルージュは呆れて溜息をついた。
「家は本当に俺が適当に決めていいの?」
「秋は家主だよ。私は同居予定の居候」
まずは仕事が決まってはいない、何をすべきかも分かってないルージュよりも、秋がお金を払うのだし、当然、秋が仕事をするのに適した場所が一番だと思っている。
そうして家を探している最中、よく実験と称しては、秋はルージュに触れてくる。
「どうやら、素手や素肌で触れるのが一番電撃が強く、薄い布越しでも、電撃が走るな。ゴム手袋で触れるのなら、大丈夫のようだ」
誤って他人にぶつかったりしたら厄介で、色々と試している。
「呪いって言うより、呪いって言った方がしっくりくるな。まぁ、これくらいなら、宮廷魔道士か聖王女が、解呪出来そうだ」
秋は誰かしらの依頼を受けて動くようで、魔物退治や華やかなパーティーに客として出掛けるのが最近の主な仕事としているらしい。場所が遠くにあって、泊りがけでの仕事では、一人でルージュを置いて出掛けるのは駄目だと、連れて行かれた。そこら辺は、まるで魔王に似て過保護な気がした。
いつものように魔族だとすぐに分からないように、ルージュはフードを目深に被ると、秋は皮の手袋を嵌めてルージュの手を軽く握った。
依頼の終了、結果報告をしに行く。
依頼主は、何故かご機嫌伺いでもするかのように、商人のように揉み手をして、歓迎をしたり、大袈裟なアクションで両腕を広げたりする。
一方、不遜で、いつも通りの秋の態度。
それは、相手が人族の貴族であっても変わらない。
変わっているなぁと、不思議には思っていた。
そして漸く、秋の謎を知った。
社交儀礼で、秋の興味を引き寄せたい思惑が見え隠れするが、興味のないルージュは殆ど話を聞いてはいなかったのだが。
「…勇者様におかれましては…」
「ふぇ?……勇者?!」
いきなりのルージュの発言に、ビクッとする、人族。
目で、なんと言う無礼な…と言いたそうに、頰が引き攣っていた。
「あぁ、連れが(飽きて)いるので、この辺で」
秋は軽く微笑んで、帰る合図を出した。これ以上、引き留めるなよ、という雰囲気を発して、相手の返答を期待してない。
「あっ、はい。それでは、お気をつけ下さい」
気が抜けたような表情をした男に、ルージュは内心謝った。
一拍おいて再確認。
「秋は勇者なの?!」
「気がつくまで、大分時間がかかったね。そんなルージュも可愛いけど」
にっこりと秋が微笑む。
秋は勇者だった。
そして、周りの人族もそれを当然知っていた。
知らなかったのは、ルージュだけであった。
「ぇ、やだ、もしかして、私、退治されちゃうの?」
秋はにっこりと微笑んでみせた。
次回の更新は2017年9月7日11時を予定です。