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第二話・卑しき僕達1

少し投稿が遅れました。

立ち絵で少し悩んでいたのが原因です。

マダリンの姉さんは少し掲載が遅くなりそうです。

サブタイトルに関しましては、本文内では説明を割愛しておりますが、重要なことではないので気になさらなくて大丈夫です。

 聖母マダリンに抱かれて5分ほどが経つ。

「落ち着いたかしら?」

「は、い……。御見苦しいところをお見せしてすみません……」


「良いのですよ。誰しも、悲しい記憶ぐらい一つや二つ、持っているものなのですから。さぁ、立ち上がりなさい。今日から、貴女も私達の一員ですよ」

 涙の跡が残らないか心配しつつ、渚は席を立って出口へと向かう。


「あ、そうでした。最後に一つ。渚さんは、車は運転できるかしら?」

「へッ?」

 唐突な質問に虚を突かれる。

 他にもっと重要な資格を尋ねられるならわかるが、車の免許の有無と運転技術の可否というのは予想外だった。


「えっと、あまり期待されても困りますけど、人並みには運転できると思います……」

「そう。それなら良かったわぁ。引きとめて御免なさい。細かい業務内容は他の子達に聞いて頂戴」

 これ以上、突っ込んで良いものか悩み、渚は出かかった言葉を飲み込んで部屋を出た。


 出た直ぐで、笑顔のルーデと、仏頂面のエリックが立ちふさがる。


挿絵(By みてみん)

 先ほどまであった用具箱はどこかにどけられており、オフィスが少しサッパリとしていた。

「おめでとう、ナギサ。まぁ、私が見込んだんだから、当然っちゃぁ当然だね!」

「ありがとうございます。でも、私、本当に何も出来ないかもしれませんよ? 運動神経だって並くらいですし、勉強はそこそこですけど天才とか秀才ってほどでもないですし」


 スパイの業務など渚に勤まるのかと、今更ながら不安になってくる。

 敵地に潜入して情報を奪取してきたり、映画張りのアクションなど到底無理な話である。女の武器を使うにしても、何の冗談かと笑い飛ばされるに決まっている。


「大丈夫、大丈夫! ナギサはナギサのやれるようにやれば良いのさ。私らだって、他のことはテンでダメだからね!」

「胸を張るところじゃねぇだろ……。ったく、迷惑な話だぜ」

 ルーデとは対照的に、エリックは不機嫌だ。


「す、すみません……。本来、人間の私なんて敵も当然なのに……。でも、私、精一杯頑張りますから!」

 出会ったときの態度からして、エリックは人間というものが嫌いなのだろうと思う。

 そもそも、魔物などという存在に対して入れ込める渚の方が人間の中では異端と言える。


「別に、謝ることじゃねぇだろ。姐さんが決めたんなら、俺はそれに従うだけだしよ……。しっかし、幾ら『記憶返(きおくがえ)り』とは言え、何でなのかねぇ」

 エリックは仏頂面を崩さず、頭を掻きながら踵を返す。不意に、聞き慣れない言葉が出てきたのを、渚は聞き逃さない。


「『記憶返り』……?」

「あ、あぁ? ルーデ、もしかして説明してねぇのか?」

 渚の問いに、エリックが呆れたようにルーデを横目で睨む。

 ルーデは突き刺さる視線を受けて、苦笑を浮かべながら受け流そうとする。

 エリックは、これ以上詰問(きつもん)しても無意味だとわかっているようにルーデから視線を外す。


「お前、人間が魔物と関わったらどうなるか、知ってるか?」

「え、えっと、消されるんですよね?」

 ルーデから簡単に聞いただけであるため、実質のところは想像の域を出ない。


「そうだ。記憶を消されて、日常に戻される」

 そこで、ルーデの言と渚の想像が食い違っていたことに気付く。いや、ルーデの言い様が紛らわしかった所為と言える。

 今にして思えば、まるでそう勘違いするように仕向けていた節さえあった。


「ルーデさん……?」

「あははッ。ごめん、ごめん。確信まで行ってなかったしさ、あそこで下手に情報を与え過ぎると、『記憶返り』に飲まれてどんな影響があるか分からなかったもんで」

 恨めしそうに見つめれば、次々に暴露し始める。

 怒りを通り越して呆れしまうが、それでも渚のことを思って留めてくれたことに感謝するのだ。


「それで、『記憶返り』というのは、その消された記憶が戻ってくるってことですよね?」

「そう言うこと。流石に、全部戻るか、一部だけか、ぼんやりとか、って言うのは個人差や戻ってくるときの状況で変わる。ナギサの場合は、抜け落ちた記憶の一部だけって感じかな」

「『記憶返り』になった人はどうなるんです? また、消されちゃうんですか?」

「正直なところ、私も詳しくは知らないんだよ。けど、いちいち、そこまで政府は全人類を監視してないだろうね。

 今にしても、ファンタジックな創作物って沢山あるじゃん。全部じゃないにしろ、その一部は魔物に関わった奴が創作したものだと思うぜ」


 なるほど、と渚は納得する。

 73億人の中の何百人もいるか否かという該当者。『記憶返り』が起こる可能性だけで時間と人員を割くなど、非効率極まりないだろう。

 例え『記憶返り』が起こったところで、その人の話す言葉は妄言でしかない。記録に残しても夢物語で片付けられてしまう。

 だから、今まで魔物の存在は幻想の中に秘匿されていたのだ。


「はぁ……。なんだか、色々と繋がってきました。それに、私が大切な約束を忘れていたのが人為的なものだったから、なんだか安心しました」

 失われた記憶の中の渚は、幼いながらも物心が付いたであろう年齢だった。故に、大切な約束を忘れていた理由が、自身の過失によるものではないことを知って安堵する。


「そっか。そいつは僥倖だ。さて、合点が行ったところで、そろそろ他の皆を紹介しよう」

 胸を撫で下ろす渚にルーデが微笑みかけ、背中を押しながらオフィスに向き直る。こっちは、自身の故意による隠蔽を誤魔化そうとしているかのようだ。

 とは言え、渚を気遣ってのことなのでそう攻め立てる気は起こらず、話を未来に向けることにした。

 しかし、相変わらず誰かがいる様子はない。

 渚の疑念を他所に、ルーデは誰から紹介しようかと吟味している。


「まぁ、私は一通り話したから、サックリで良いか。昨日も言った通り、私はライカンスロープ種ワーキャットのゲルトルーデ。実動員兼荒事担当だな」

 まずは自分から紹介し始めるあたり、大雑把ながら変に律儀なところがある。

 オフィスの様子を見ても、ルーデの人と――魔物と成りは理解できた。


「それで、こっちの仏頂面がエリック。捻りもなくエリックだ」

「捻りがなくて悪かったな! それに、もっと紹介することがあるだろうが……」

 どういうわけか、ルーデとエリックは仲が悪いようだ。能天気と神経質、自堕落と几帳面、色々と二人を対照的に見る言葉があるが、いわゆる性格の不一致が原因と言えるのだろう。


「二人とも、仲が良いんですね」

 二人を観察していた渚の口から出た答えは、それだった。


『……』

 二人は、どうしてそんな答えに行き着くのか不思議でならないと、ハトが豆鉄砲を食らったような顔で渚を見つめる。

 きっと、今みたいに息のあった二人の様子に、渚は少し妬いているのだろう。


「だって、本当に仲が悪いならいちいちこんな言い合いや取っ組み合いなんてしません。互いに甘えのない、対等な関係なんだと思います。それで、えっと、エリックさんのお話でしたね」

 良くも悪くも、これぐらいで二人の関係に亀裂ができないとわかっている――信頼している。

 話の腰を折ってしまったことを思い出し、渚は先を促す。

 二人とも、内心ではそんな関係に気付いてはいたようで、バツが悪そうに視線を逸らす。


「まぁ……、俺に付いてだが、確かに多く語ることはない。種族まで言った方が良いのか?」

「言っちゃいなよ。エリックが何であれ、ナギサが嫌いになるわけないだろ?」

 エリックは言い渋りながらも、ポツリと漏らす。

 ルーデも言ってくれるものだ。この短い間に、どこにそこまで渚のことを信用する要素があったのだろう。


「……オーガだ。鬼人種オーガってところか」

 オーガ――鬼、特に人食い鬼を指す。食らった人の姿を真似ることができる者もいる。昔話に出てくるような、狡猾で残忍な性格だと思っていたが、エリックのような性格もいるようだ。

 そうなると、やはり今のエリックの姿は誰かを食べて姿を真似ているのだろうか。


「大丈夫です。私、エリックさんなら怖くありませんし」

 誰かに恐怖されることを畏れているように振舞うエリックの手を握り、渚は優しく微笑む。

 マダリンのような聖母めいた存在にはなれないが、それでもエリックの不安をやわらげたかった。


「ッ!?」

 急に触れられたことに驚いたのか、エリックは渚の手を慌てて振りほどいて後ずさる。

 いや、エリックの顔を見れば、今の心境が手に取るように分かるだろう。


「おー、おー、あのエリックが顔を赤くしてらぁ」

 そんな良い年をした男――実年齢など知らない――が、初心な様子で赤面する姿に渚が小さく笑いを漏らす。

 キッと睨んでくるエリックを両手の平で制し、ごめんなさいと謝るのだ。


「さて、脱線もこれぐらいにして次は……そうだな、やっぱり先に姉さんを紹介するのが筋だったよな。ナギサがさっき面接を受けて、目を泣きはらしたお方は我らが姉さん、マダリンだ」

「な、泣き……って、見て、いえ、聞いてたんですか……!?」

「フヒヒ。ライカンスロープ種食肉目の聴覚と嗅覚を舐めないでもらいたいね。まぁまぁ、別に誰かに話すわけじゃないんだから。これからも遠慮なくナギサのいろんな一面を見せて行ってくれよ」

「うぅぅ……」


 まるで妹をからかうお姉さんのような態度に、唸り声と無言で抗議する渚。

 ルーデはそんなことお構いなしにカラカラと笑い、エリックは横で呆れたように首を振る。新人は弄られるのも仕事の内だ、と言わんばかりである。


「そんで、マダリンの姐さんはヴァンパイアだ。要するに吸血鬼。ドラキュラとも呼ばれる。しかも、これまた『魔界』における全魔物の内で序列3位に入る真祖なんだぜ」

「し、真祖……。それって、確か吸血鬼の大元で、吸血鬼を統べる立場のことですよね……? わ、私、どうしましょう……!?」


 これには、渚も顔を青くせざるを得なかった。

 吸血鬼を題材にした現代の娯楽作品には大概と言って良いほど登場する存在。

 魔術などにより吸血鬼と化した純血の元祖で、多くの眷族を従えているとも言う。最強かそれに準じる怪物というのが大体の設定。それが真祖。

 そんなマダリンに対して無防備に抱き付き、挙げ句には泣き顔を押しつけるという粗相までしたのだから、笑えた話ではない。


「大丈夫、大丈夫。姐さんはちょっとやそっとじゃ怒らない人だよ」

 渚を落ち着かせるように、変わらぬ笑顔で両肩に手を置くルーデ。

 が、直ぐに真面目な顔をする。


「けど、本当に怒らせたら世界がヤバいから気をつけろ。現に、序列4位から12位までが姉さんを怒らせた所為で、全体の序列が繰り上がったこともあるからな」

「や、やっぱり怖いんじゃないですかぁ……!」

 序列とやらの詳細はわからないものの、それは魔物達にとって最悪の偉業のようで、渚も恐怖し涙目になる。


「おい、そろそろ話を進めろ。そんなことしてたら、ここの全員を紹介するだけで一日が終わっちまうぞ」

 今度はエリックが話の流れを修正し、漸くこれまで顔を合わせた仲間達の紹介が終わった。

 続いてルーデが向き直ったのは、エリックの机の前に並ぶ二つの勉強机だった。


ご意見、ご感想、アドバイスをお待ちしております。

最近思うに、線画とはいえ押し絵(立ち絵?)と小説を同時進行するのって結構大変ですね。

でも、弱音を吐いていても仕方ないので頑張りましょう。

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