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マフィンの不思議で不可思議な物語  作者: キョナ
season1 僕と彼女の物語。
10/30

ようこそ、不思議で不可思議な世界へ。

会場の場所は不思議で不可思議な世界の最大広場、アンソデミックパーク。舞台は夏の終わり。僕とマフィンはマカロンちゃんが開催した夏祭りに二人で来ていた。

現在の時刻は八時半。最大イベントである特大花火は10時開催予定だった。

「ごきげんよう」

腕を組みながら歩く僕らに話し掛けてきたのは、他の誰でもないこの世界の創造者、マカロン・ソベンシアだった。口元には笑みを浮かべている。なぜこの人はこんなに偉い立場なのに遊び狂っているのだろう。

「暇ですね」

「あらあら、この祭りを作った張本人に来るなと貴方は申すのですね」

「来るなとは言ってません。ただ暇ですねと」

「一緒でしょう!」

「どこが!?」

僕は声を張り上げる。すると彼女はようやく僕の横にいるマフィンに気付いたようで僕を置いてマフィンを向いた。

「あらあらあらら、マフィンさん。いたのですね。身長とおっぱいが小さすぎて私の視力では確認することはできませんでしたわ」

「いえいえ私バスト115あるんですけどね?」

なんちゅう嘘だ。嘘にも程がある。

「ところでまたまたデートですか。今日はお互い胸を摩りながら歩いているということはかなり二人の関係は縮まったという事ですね」

確かに縮まったが胸を擦りながら歩いてはいない。

「またマコロンちゃんはお散歩してるの?」

「マカロンですよ。故意的な間違いは止めなさい。今日は私の配下二人も連れて来ています。久し振りのお祭りですから日頃の癒しと思って来たのです」

「疲れている様子を僕は見たことが無いのですが」

「そこッ五月蝿いですわよ」

マカロンに指摘される。するとマカロンの後ろから二人のがたいの大きい男性二人が現れてきて僕らは少し驚きに唾を飲み込む。

「マカロン嬢、馬車の準備が出来ました」

「ありがとう、すぐに乗馬の支度をするわ。では二人とも、ごきげんよう」

返事を返す隙も与えず彼女はすたすたと後ろに帰って行った。僕らは一瞬我を忘れていたがしばらくして二人同時に我に返ってお互いを向き合い微笑み合った。

彼女は本当に幸せそうに笑う。僕はその笑みに大きな高揚を感じた。

でも、聞かなきゃいけない事があるんだ。

「ねえマフィン」

「何?」

「この世界に来た理由はなんなんだい?」

彼女は顔を強張らせて黙り込む。予想通りどうやらあまり好きで言いたい事ではないらしい。今までの僕ならここで彼女の気持ちを尊重して聞くのを止めただろう。しかし彼女は僕の恋人であり、これほどまでは突っ込んでもいいだろうと思い返事を待った。すると彼女は顔を引き攣りながら笑ってみせた。

「…な、何か食べようよ?あれとかすごい美味しそうじゃない?」

「待て」

僕は走り去って行くマフィンの腕を掴んだ。自分でもこんなに怖い声が出せるなんて知らなかった。が、丁度それぐらいが良かったのかもしれない。彼女は声を震わせて返事した。

「い、嫌だ。言いたくない」

「僕に言えない事なの?」

「言えない!」

彼女は頭を抱えて叫んだ。そして掴んでいる僕の右腕を振り払う。彼女は震えるようにその場にしゃがみ込み、下をむいたまま震えた。きっと彼女は僕にその質問を諦めて欲しいのだろう。一瞬迷ったがやはりここまで来たのだからそのまま貫こうと決意した。

5分程度声をかけず待っていると、彼女は恐る恐る顔を上げた。その時の僕の無の表情をみて、彼女は酷い絶望の表情をあらわにした。その表情に心がずきずきと痛む。

「ね、ねえ君…」

「分かったよマフィン」

「…わ、分かったって何が?」

僕は薄い笑みを浮かべた。

「そんなの決まってるじゃないか」

彼女の絶望の顔に強く心が痛む。


「君が僕をそんな風に思っていたということをね」


「え?」

僕はゆっくりと後ろを向いて彼女を置いて歩いて行った。

「ど、どこ行くの?」

「帰るんだ。けじめもついた」

彼女の絶望の表情はさらに強まる。

「け、けじめって?」

「君が僕の事をそこまで好いていなかったという事さ」

「そッそんなのッ!」

彼女は僕の左足を強く握り締めた。が、僕はそれを容易に振り払う。

「じゃあ僕は帰るよ。君はどうする?」

「どうして!どうして私を捨てるの!?」

「そんな言い方をされちゃあ困るな。物も言い様だと言うけどそれにしてもその言い方は酷すぎる」

彼女は少しずつ涙を零している。僕はもう我慢できなくなったが取り替えしが気付けばつかないレベルまで来ていた。

「君が僕をしっかり愛してくれさえしたらこんな事にきっとならなかったのに」

彼女は唖然とした表情を浮かべそこで諦めたように笑った。こちらから見るとまるで気でも狂ってしまっているようだった。そこで雨粒のようにぽつりと一言つぶやく。


「嘘だったんだね」


彼女の声が僕の耳の中をこだました。彼女の涙を堪える声が聞こえる。

「君が私を愛している間はずっと私を捨てないと言ったのは嘘だったんだね。もしくはもう君は私を愛してないの?」

厳しい問いが飛んでくる。僕は少し歯噛みした。

「いえ、僕は今もマフィンを愛しているよ」

「そんな戯言はもう必要ないよ。始めからきっとこれは私の一方的な恋だったんだね」

僕は馬鹿にしたように笑う。

「そんなことがあるものですか。僕は君が僕を愛すよりずっとずっと強く君を今でも愛しているよ」

「それはないね。君の話は矛盾してるもの。ならどうして私を捨てようとするの?」

「矛盾があるからこそこの世界なんじゃないか」

「醜いね。私たちの愛は真実かつ永遠だと私は思ってたよ」

「そうですね、僕も思っていましたよ」

彼女は立ち上がって僕の頬をおもいっきりひっぱたいた。パシンと高い音がなる。僕は一瞬何が起きたのか分からなかったがすぐに叩かれたことを悟った。

「一つ聞いてもいいかな?」

彼女は震える声で呟いた。僕は叩かれた頬を摩りながら前を見返す。

「もう、私は君の彼女じゃないの?」

僕はあああと謎の声を呟いた。何と答えたらいい?僕はこの短期間にどれだけ彼女を傷付けた?

「それにしても、君はどうしてそんなに私の過去に執着するの?いくら恋人でも隠し事の一つや二つ、あるのが普通なんじゃないかな?」

「…」

僕は小さく拳を握り締めた。僕は一体彼女に何を求めていたのだろうか?

いくら彼女の全てが欲しくても彼女をここまで傷付けたら本末転倒じゃないのか。

なんて僕は馬鹿なんだろう。

今更僕は後悔する。彼女を傷付けてしまったふがいなく馬鹿でマヌケな自分自身に。

謝りたい。謝らなきゃ。彼女が消えてしまったら僕はもう駄目なんだ。

辛い過去が頭の片隅から少しずつじわじわと広がってくる。

そんな現実を僕は止めることが出来なかった。



「ねえ母さん、父さん。僕は一体何なの?」

「だまってなさい、あんたに話す権利なんてないのよ親不孝ものめ!」

「僕は一体何をしたの?生まれてきて僕は一体何を犯してしまったの?」

「消えなさいあんたはだって」

母さんはそこでナイフを振り上げた。

「**なのだから」



「…僕は君が知りたかったんだ」

僕の口からまるで止まらない涙のようにぽろぽろと言葉が流れ出る。暴君のような本当の自分自身を彼女に伝える。

「君が僕を捨てるのが怖かったんだ。君がいなければ僕はこの世界では何も出来ない。君を失うことがただただ怖かったんだ」

彼女の表情は窺えない。が、僕は続けた。

「こんな僕を許してくれとは言わない。僕を君の彼氏だと思ってくれなくても勿論構わない。でも、僕の側から離れないでくれ。君がいないと、僕はどんな楽しいことも楽しく感じないし、これから起こる幾千ものトラブルを解消出来る気がしないんだ」

僕がそう言い終わり、彼女の顔をもう一度窺うと。


彼女は両手で顔を隠して泣いていた。また傷付けてしまったと僕は心のなかでそんな馬鹿な僕に失望した。が、実際はそうではなかった。

彼女は涙で顔をくしゃくしゃにしながら笑っていたのだ。僕は幻でも見ているのかと思い目を見開く。

「それならそうと…言ってよぉ~…ッ!」

彼女は服の裾で涙で濡れた顔を乱暴に拭いた。

「私、君に嫌いになられたと思って悲しくて悲しくて…!でも君の気持ちを尊重したかったから我が儘は言えなかった。君の側にいれないならもうこんな世界にはいる必要がないかもって思って…。私には現世でも居場所がないからどうしようかなって思ったりしてたんだ」

「もしかして君は…」

僕は一呼吸置いてから小さく呟いた。


「もしかして僕と君は現世でも何かしらの関係があったのかい?」


彼女は小さく頷く。僕は覚えていない。僕は現世について殆ど覚えていないのだ。たった一つ覚えていることは現世は辛いものであるという事だった。

「ごめん、それにしても追求しすぎた」

「いいよ、お互いの小さな長所短所を理解し合う事でカップル仲も良くなると私は思うから」

「も、もしかしてマフィン、これからもぼくの事を彼氏として見てくれるの?」

僕は淡い期待を込めて聞くと彼女は涙目で不思議そうに頭を傾けた。そして口を開く。

「当たり前じゃない。私達は永遠の愛で繋がってる、でしょ?」


こんなにも素直かつ可愛い女の子が現世にいてたまるだろうか。現世にはどれほど探してもこんな子はいないだろう。

これはきっと不可思議だ。マカロンはきっと僕と彼女の出会いを不可思議なものとして創造したに違いないだろう。

だってこんな僕のような屑と彼女のような美少女が結び付くはずないのだから。

すると彼女はもう一度恥ずかしそうに下を向いて笑った。


「ねえ君。もう一回キスしない?」


「…!」

この子は一体何を言い出すのだろう。

「君の唇と合わせ合ったその日の夜は何だかすごい安心したの。そうでもしないと今夜この胸の高鳴りが取れるとは思わないから」

「そんなことで簡単に取れてしまうのですか」

「わからない。でも、私は心から君が好きなんだ。君と踊りたいし、君とずっといたい。君の側にいないと、私はもう生きて行くことが我慢出来ない」

「…僕と君は一体前世でどんな関係だったんだい?」

彼女は苦痛そうに顔を歪め、僕に哀れみの表情を浮かべた。まるでもう思い出すことはもう出来ないんだねと確認されているようだった。

「言ってもいいけど、君が自分自身で見つけないと私にとって何にもイミがないから」

彼女のイミとは一体何のことなのだろうか。僕と彼女との現世での関係は?

僕にとって真実の謎は深まるばかりだった。

「分かった。必ず見つけて見せる。君のためでもあるけど何より僕自身の為に」

「そう?私嬉しい」

彼女は恍惚な表情を浮かべた。僕の心臓の鼓動が一気に高まる。

「でも約束して?君はもう絶対に私を捨てないって。私も絶対に君の彼女でずっといることを誓うから」

彼女の宣言が僕の心の中を反響する。まるでそれはマフィンという名のスーパーボールのようで僕の中を跳ね回っていた。

「僕が言える立場かどうか分かりませんが、僕は一度いったでしょう?『もう淋しい思いなんて二度としなくていい。僕がマフィンの愛の欠如を溢れる思いで埋めてやる』とね」

「本当に君はそれを言える立場じゃないね。一度君はその発言を覆しているんだもの」

「そんな事百も承知ですよ。確かにあからさまに嘘臭いですが僕を信じる信じないは君次第…と言っておきましょう」

彼女はそこで決める僕の不敵な笑顔に少し嫌気がさしたようだった。

でも不思議となんだかすっきりしたような笑みを浮かべている。

僕はそんな彼女を見つめて小さく嘆息した。


「君は昔から本当に何も変わってないんだね」


彼女の小さな小さな声を僕は当然聞き取るなんて事は出来なかった。




「ねえマフィン」

「何?」

「僕はよく淋しい夢を見るんだ」

「淋しい夢?どういうものなの?」

「大きな闇の中に僕が一人いて、僕は自分がわからないいままその場で自分自身を探し回るんだ。でも当然見つけることはできなくて、そのまま冷たくてサラサラな地面に転がり込んで泣いてしまうんだ。すごく淋しくて。その夢は僕の過去なのかもしれないって思うんだ」

「…それはすごく淋しいね。でもその夢は矛盾してるから安心して」

「え?」

「だってさ……」

彼女は輝く瞳と流れるような短髪を僕に向けて言い放った。時が経つのをゆっくりに感じる。これは僕がこの不思議で不可思議な世界に来てからもっとも不思議で不可思議でおかしなものだった。心臓が高まる。呼吸が荒くなる。


「ずっと君の側に私はいたはずなんだから」


そう、間違いなく僕は彼女に恋をしていたんだ。


そこで夏の甘ったるく暑い風に揺られた風鈴の音がまるで何かを確かめるかのようにゆっくりと交差しながら僕ら二人の近くを駆け抜けていった。

season1終了しました!


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