プロローグ
ようこそ、不思議で不可思議な世界へ。
ようこそ、不思議で不可思議な世界へ。
貴方の来場をずっとずっと待っていました。
立ち話というのもおかしいですし、少し近くの喫茶店に寄りませんか?
ええ、そうですか。なら喫茶店に着くまで私の過去のお話でも聞いて下さいな。
そう断らずに、私からもお願いしますよ。
どうせ、私の過去を知らない限り、次に進めませんから。
ああ、聞く気になって頂けましたか。嬉しいです。
なら少し長くなりますけど。
のんびりと道中の暇潰しと思って聞いてくださいな。
これは約10年前のある雨の日の事でした。
その頃私は若く、(今も若いですけど)活発な女の子でした。好奇心に満ち溢れており何かを見つけたらどうしてもそれを知りたく思っていました。
父も母も研究者でした。そうです、両親は暫く前に死にました。ここでは時の感覚が現在のこの世界に比べて薄いので何時かは覚えていませんがね。だから十年前と言ったのも適当に過ぎません。すみません。
父と母はいつも一つのある薬を研究しており、好奇心盛んな私にとってそれはどうしても知りたい物でした。その頃では世界で一番知りたいものと言っても過言では無かったでしょうね。
でも両親の研究は無論到底私の理解の範囲を越えており、わたしは説明書というものを読んだことがありましたが、意味はわかりませんでした。今ではその説明書というものを欲しいとしか思っていません。
私はその日、両親の研究室に入り込もうと思いました。入り込んで当時は理解出来ていなかった薬というものを確かめようと思ったのです。
が、両親に見つかり、私はこっぴどく怒られてしまいました。今となってはお恥ずかしい過去です。
でも私は諦めませんでした。なぜこんなに好奇心に満ちていたのかはよく分かりませんが若気の至りでしょうか。今も若いですけどね。
そして私は次の日父から実験は成功したという報告をききました。これからはもっともっと大きな家で、もっともっと美味しい食べ物を食べ、もっともっと可愛い服を着れると聞きました。その時私は餃子をたべたいと父に頼みました。父と母は少し離れた、それでも往復一時間かからない餃子屋に買いに言ってくれました。あ、何ですかその蔑むような瞳は。ああー、馬鹿にしてますね?餃子を食べてみたかったんですー。食べたことなかったんですー。
そこで私は餃子を楽しみに待っていました。好奇心などどこかに消え去ってしまっていましたよ。でも両親の大切そうな袋を見つけると、その好奇心は直ぐに戻ってきました。
私はその袋の内容を見ました。中には彼らが長年開発していたキボロメンチゼンという薬がはいっていました。
薬は食べるものという印象は当時の私の中にもありました。そして私はその薬を取り出し口に…………
つまりその薬との出会いが私を最悪の樹形図の分かれ道へ誘ったのです。
そこから先は早かった。胸が苦しくなり、意識があやふやになる。吐き気が催し体全体が恐ろしく痒くなった。
私は体全てを掻きむしりながら大きな声で叫びました。両親も勿論いないので誰も助けてくれない。
その時私は最期に淋しさと言うものを実感しました。
話が暗くなってしまいましたね。
ああ、そんなに暗い顔をしないで。泣かないで。
…まあ貴方が泣く気など無いことを分かっているんですけどね。
でもそう笑うのは失礼ですよ、止めなさい。
ああ、それからなぜ私がこの世界に来たか、ですね。
知りたいですか?また、きっと話は長くなりますけど。
でもやっぱりそろそろ着くので止めましょうか。
そう失望しないで。私ともっと親しくなればきっと自然に私の口から出てくるでしょう。
そしてすみません、ここは喫茶店じゃなくて。騙してしまいました。全ては貴方に驚いてもらいたい一心だったんです。ここは私の世界の入口です。
改めてようこそ。不思議で不可思議な世界へ。私はこの世界の住人Aです。
貴方の名前を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?
ふむふむ、了解です。よろしくお願いしますね。
ではこの世界の在住を私が許可します。
この世界は矛盾だらけ。矛盾9割真実1割です。
貴方がすぐに思い浮かべることが出来る矛盾もあれば、有り得ないような矛盾もあります。そんな世界で住むのは大変困難ですが、楽しく過ごしましょうね。
もう一度改めまして。
いらっしゃい、不思議で不思議な世界へ。
きっと想像できない幸福が君を待ってる。
さ、行きましょう。私について来て。決して見逃さないでね。
そうだ、私の名はマフィン。ずっと君に会いたかった。
だから少しぐらいの我が儘は優しく受け取ってくれるよね?
閲覧ありがとうございます!