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第八話 上官と同僚

「……脱ぐとすごいって、あんまり変わってなくないか?」

「締め付けがきついのよ。これ以上を見たいと思ったら、それなりに努力しなさい」

「ゆ、ユウキ少尉……アムリエル少尉が脱いだらすごいって、もしかして……あ、あのっ、もうっ、お二人は、もうですかっ!?」

「落ち着けエリン、今は整備が先だ。ユウキ、大尉殿が待ってるぞ。二人で早く報告に行ってきてくれ」

「ああ、ありがとう。バッチリ整備しておいてくれよ、ガイ」

「任せとけよ。エリン、始めるぞ」

「き、きになる……でも、私、気にするような権利なんて……」


 エリンが過剰に遠慮していることも気になるが――今は、アムリエルと共に、初戦の報告に向かうべきだ。

 ――と思ったのだが、ドックから廊下に入って歩いていく途中、俺は目眩を感じてふらりとバランスを崩しそうになる。


「急にどうしたの……? ああ、魔力が枯渇したのね。あなた、人間から転生したにしては魔力の量が多いけれど、色々やりすぎたのよ。無駄な魔力が沢山漏れてるわ」

「そ、そうなのか……コマンド操作とかも、魔力を使ってるんだな……」


>『アムリエル』が『魔力供給』を実行しました。実行結果……成功

>あなたの魔力が1000補充されました。

>新規コマンド『魔力供給』を取得しました。


 咄嗟に抱きとめられてしまったが、顔が柔らかいものに受け止められている――アムリエルのスーツの胸はなぜか他の部分より素材が薄く、ほぼ直接に近いだろうと想像される、天使のような弾力が頬に伝わる。


(や、柔らかい……このまま寝てしまいそうに安らいだ気持ちだ……)


「……欲望に正直なのはいいけど、それ以上するとあなたのお給料が半分になるわよ。これはただ、あなたが失った魔力を分けているだけなのだから。それ以外の意図があるなら、代金をもらうわ」

「か、金を取るのか……いや、払ってもいいな、これは」

「冗談よ。私はお金になんてそんなに興味はないわ。でもこの身体になると不思議ね、少しずつお金や美味しい食べ物に興味を持ち始めているの。人間は常に、七つの欲に苛まれているというけど、こういうことだったのね……あっ」


 くぅぅ、と小さくアムリエルのお腹が鳴った。それでつられて俺の腹も鳴った――かなりの空腹だ。


「どうやら、魔力が減るとお腹がすくみたいだな」

「オウムみたいに鳴らさないで、恥ずかしいから。それに私は、魔力が枯渇することはまずないわよ。体質的なものね」


 元は死神なのだから、転生しても普通の人間と違う部分があるということか。俺も魔力は多いらしいが、アムリエルに抱きしめられた時に感じた彼女の魔力の豊かさは、それはもう尋常ではなかった。


「しかしこれだけ腹が減ってると、さぞ食事もうまいだろうな」

「それについては……あまり、期待できないかもしれないわ。この世界の食文化は、味を追求する方向に発展してこなかったのよ」

「え……な、なんでだ?」


 どんな世界でも、料理というものは人間の本能的な欲求に従って発達するのではないか――と思ったが、そうでもないらしい。


「栄養が取れればそれでいい、ということみたい。私たち上層民は、下層民と違って、加工する前の食べ物を料理して食べることはできないの」

「え……それって逆じゃないのか?」

「いいえ、違うわ。上層民はこれでも優遇されているのよ。栄養価という数字においてはね」

「……上層と下層って。そんなはっきり分かれてるのか?」

「ええ。さっきの整備兵の兄妹も……」


(……と考えていて思ったけど、ずっと抱きとめられたままだな……全然気にしないのか)


「お前たち……報告に来ないと思ったら、こんなところで何をしている?」

「あっ……さ、サテラさん、いえ、大尉!」


 気が付くと、俺たちのことを一人の女性が見ていた。腕組みをして、少し怒ったような顔をしている。今の俺は廊下でアムリエルに抱きしめられているように見えるのだから、無理もない。


 声で分かったが、彼女がサテラ・ベルフォール大尉――この世界での俺の姉だという人だ。自分と顔が似ていたりするとは到底思えないほど、整った面立ちをしていて、立ち姿がモデルのようにさまになる美女だった。


 ――そしてどうしても目を引いてしまうのは、軍服のような制服のボタンを開けておかなければならないほど、目を引く大きな膨らみだった。


(こ、これは……ふるふる……いや、グレフル……!)


「……お姉さんでも関係ないの? この、けだもの」

「っ……違うぞ、俺は……」

「何をひそひそと話している? 無事に帰還できたことを喜ぶのはいいが、報告はしてもらわなければな。ユウキも戦果を上げたのだから、しっかりと報告を……」

「ご、ごめん姉さん。報告って、ここでしてもいいのかな?」


 聞いてみると、サテラさん――姉さんは、釣り上がっていた眉をふっと下げて、仕方ないというように微笑んだ。


「司令室でと言いたいところだが……もう、結果はわかっている。四機撃墜、敵の主力機を撃退した。今月の交戦において、最も大きく、途方もない戦果だ」

「本当に俺しか、敵を倒せてないってことですか?」

「……そうだ。これ以上敵との飛空鎧の性能差が開けば、このリュドヴィクはいずれ奪われていただろう。おまえは、その流れを食い止めた。先ほどの戦果を見て、『聖皇』は即座に昇進を認められた。本日この場において、おまえは中尉となる」

「中尉……ほ、本当に……?」


 戦いに放り出され、生き残ることだけを考えていたら、昇進していた。こんなペースでは、姉さんの階級もすぐに追い抜いてしまいそうだ。

 『聖皇』というのは、このリュドヴィク――浮遊都市を統べる人物らしい。一体、どういう人物なのだろう。


「アムリエル。専用機の力を引き出すには、おまえでも慣れが必要なようだな。ユウキと共に、次の出撃までに訓練しておくがいい」

「……分かりました」


 アムリエルは姉さんに対しては敬語を使う。超然とした死神のままでいることに拘るつもりはないようで、少し意外だが、融通も効くのだとわかった。


 ――そうして話しているうちに、奥の部屋から軍服姿の少女が二人出てくる。軍服と言っても、異世界の風合いのあるものだが。


「あいつ、絶対調子に乗ってるよ。あんなのまぐれだっていうのにさ」

「そんなこと……ユウキ少尉の実力は、見ていれば分かったじゃない。素直に昇進のこと、おめでとうって言わなきゃ」


 ひとりはブラウンの髪を肩の辺りで切りそろえて、ヘアバンドをしている、見るからに快活そうな少女。もう一人は腰のあたりまで亜麻色の髪を伸ばした、ふんわりとした受け答えの少女――どちらも、通信で声を聞いた。


※次回は24:00に更新いたします。

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