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第四話 流れを読む力

>姿勢制御フルオートモード 動作は正常です。

>敵性飛行体を発見、レーダーに表示します。


 空中でどうやって姿勢を保てばいいのかと思ったが、動力はブースターだけでなく、飛空鎧自体を浮遊させる別の機構が備わっていた。


 今のところはオートに任せるが、マニュアルでも自由に姿勢を動かせる。無数の制御命令の組み合わせで、あらゆる動きが可能だ――いきなりできることが増えて頭がパンクするということもない。


(敵性飛行体……こいつを倒せってことだよな。他のところでも戦ってるし……あれは仲間か? そして、あれが……)


 レーダーに赤い点として表示されているもの。モニターに映しだされたそれを、俺は『拡大したい』と念じるだけで、そのとおりにできた。


 『スクリプト操作』能力で、飛空鎧の機能にも干渉できている。それを確かめると、格段に安心感が増した――普通に操作する方法もあるのだろうが、こちらの方が直感で操作できるだけに安心感がある。


 ――しかし、拡大した敵性飛行体と、それが追いかけている他の飛空鎧を見て、俺の緊張は一気に増した。


>飛空鎧『マスカレイド』1号機が被弾しました。

>ダメージ33% 出力減少。速力減少、現空域より離脱不能。


(逃げきれないってことか……まずい、このままじゃ……!)


 黒い鳥のような敵の飛空鎧は、銀色の飛空鎧を追い回し、容赦なく攻撃を続ける。追われる側は回避機動で避けているが、撃墜は時間の問題だと思えた。


『――ユウキ。聞こえている? あなたのバディが、今落とされようとしているわ』


「っ……ほ、本当に来てくれたのか……通信をジャックしたのか!?」


 さっきまで聞こえてきた大人の女性の声とは違う、死神の少女の声が、鎧の中に響くようにして聞こえてきた。


「とりあえず、助けろってことだよな……全く困った世界だ。俺はこんなふうに戦うつもりは無かったんだけどな」

『そう? あなたの力を利用して使える兵器としては、理想的なものだと思うわよ。私は操作の仕方が分からないけど、あなたは分かるんでしょう?』

「ま、まあ……いや、そっちは操縦できなくても問題ないんじゃないか?」

『……まあ、いいわ。とにかく、追われているバディを助けなさい。そうしないと、寂しい思いをするかもしれないわよ』


 ――あの追われている機体、『マスカレイド』と言ったか。俺の飛空鎧と比べると幾分女性的なフォルムをしている――ということは、パイロットも女性なのだろうか。


 俺がデルタ1、彼女がデルタ2。コンビを組んでいる相手ということは、俺とはそこそこ親しい間柄だったりするのだろうか。恋人ということもありうるか。そんな展開になったら、まだ心の準備ができていない。


『恋人ではないけれど、見知った間柄ではあるみたいね』

「そうか、じゃあ助けないとな。ああそうだ、最後に一つ聞かせてくれ。俺は、この世界の誰かを乗っ取る形で転生したのか?」

『いいえ、違うわ。あなたという存在が、元からこの世界に存在していたように、因果律を調整したの。もともとデルタ部隊はなかったのだけど、新米飛空兵のあなたと、そのパートナーが所属する部隊として、この世界に追加されたわ』

「……良かった。じゃあ、俺は俺で、それ以外の何者でもないってことだな」


 引っかかっていた部分は解消された。俺が誰かの居場所を奪ったりしていたら、それはちょっと寝覚めが良い話じゃない。


『……っ、もう少しで被弾しそうよ。早く助けてあげないと、撃墜されるわ』

「ん……? どうした、何か調子が悪そうだな」

『な、なんでもないわ。あなたは自分が生き残ることを一番に考えていればいいのよ』

「それもそうだな……よし、戦闘開始だ!」


 俺はマスカレイド――銀色の飛空鎧を追いかけている、黒い敵影に目をつけた。

 まるでコウモリか何かのように、高速で翼をはためかせ、人型の飛空鎧には不可能な動きで飛び回りながら、マスカレイドに向けて射撃を続けている。マスカレイドの回避機動はそこまでこなれたものではなく、動力をやられていることもあり、捉えられるのは時間の問題だと思えた。


 こちらの武器は――考えただけで、モニターに装備のリストが表示された。


>近接武器:魔導光刃ライトサーベル 弾数:∞

>射撃武器A:熱誘導小型ミサイル 弾数8

>射撃武器B:機銃 弾数60

>特殊武器:魔導光弾 弾数:搭乗者の魔力を使用する


(熱誘導ホーミングミサイル……これなら、俺でも当てられそうだ……!)


「――いけぇぇぇっ!」


 敵影に向かって、俺はホーミングミサイルを発射する――思い浮かべるだけで飛空鎧は思うままに動き、翼の部分に搭載したミサイルを一発発射する。


>『スケアクロウ』は回避しました。


(なにっ……ほ、ホーミングじゃないのか……!?)


 追尾が弱すぎて、敵影にかすりもせずに、ミサイルはむなしく爆散した。敵の回避機動が、ミサイルの回避に慣れているのだ。


>敵第四部隊所属 『スケアクロウ』 高速機動型無人飛空鎧 サイズ:S


(無人の飛空鎧……そんなものがあるのか。ということは……)


 俺の飛空鎧と同じで、敵の制御命令をすべて解析できるかもしれない。


>解析中……『スケアクロウ』のコマンドリストを出力します。


>1:加速

>2:転回

>3:射撃

>4:回避機動マニューバパターンA

>5:回避機動パターンB

>6:……

>7:……


(多すぎる……動き方が解析できても、どれを繰り出してくるか分からない……!)


 延々と表示され続ける敵の回避機動パターンを見て、俺はやはり素人が出撃しても何もできないのか、と諦めかける。

 このままマスカレイドを落とされ、バディを失う――顔も見たことがない相手でも、死なせるなんてことは絶対にしたくない。


「――くそっ!」

『……あなたは転生する前、何を聞いていたの?』

「えっ……?」


 熱くなってしまったところで、再び死神の声が聞こえて、俺は冷静さを取り戻した。少し突き放すようでいながら、静かで穏やかな話し方だった。


『虫けらのあなたにも記憶力というものがあるなら、思い出しなさい。あなたが手に入れたのは、敵の制御命令を洗い出したり、飛空鎧を操作するだけの力じゃない。相手がどんな行動を選択するか、流れを読む力なのよ』


 ――流れを読む。

 それを意識した時、俺の目に映るスケアクロウの機動パターンに、ある一定の法則が生まれる――。


>敵機行動予測開始……終了

>加速>回避機動G>転回>射撃>回避機動F>加速>回避機動H>……


(見えた……回避機動G、その後に必ず転回する。その瞬間に、奴は止まる……!)


 マスカレイドが最後の力を振り絞って敵機を引き離そうとする。それを追いかけようと加速した直後、敵が回避軌道を取り始めたとき、俺はその終端を狙って――誘導ミサイルではなく、機銃を選択して、たった一発だけ射出した。


 誘導が弱いミサイルでも、機銃より威力は高い。しかし、止まっている敵の弱点を射抜けば、機銃でも一撃で撃墜できる――俺にはその『流れ』も見えていたのだ。


「――落ちろぉっ!」


 一発だけ発射された弾は、回避機動を終えて次の行動に移ろうとするまさにその瞬間、スケアクロウに命中したように見えた。


 ――数秒後、スケアクロウは爆散し、空の藻屑と消えた。


※前半の区切りが良いところまでは、早めのペースで更新してまいります。

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