夜のナイト
ぼくはくま。
くまのぬいぐるみ。
テディベア。
女の子を守る夜のナイトさ。面白くないジョークなんかじゃないよ。
ナイト。騎士さ。
女の子のそばにずっといて、いろんなものから君を守るボディガードさ。
夜は怖いと君は言う。そしてぼくを抱きしめる。ぼくは夜から君を守るナイト。
ひとりはいやだと君は泣く。声の途切れた携帯を握りしめて。
ぼくは震える君の二の腕に手を置いた。
半ば無理やりにぼくの手を引き、ぼくを包み込む君。
逢いたいよ、
君が泣く。ぼくは抱きしめられるだけ。君の涙をぬぐうことはできない。
ぼくは君が逢いたい彼じゃない。
……ナイトなんて嘘さ。ぼくは全然君を怖い夜から救ってあげれていない。
電話越しに聞こえる彼の声。楽しそうに笑う君。
そんな夜もあれば、白く光る画面に虚ろな君の瞳。鳴らない電話。とても静かなときもある。
怖い夜にこそ、心細い夜にこそ、ナイトは彼女を守らなくてないけないのに。
怖い夢を見た君が夜中に目を覚ました。ぼくは起きていた。でも声がないぼくは君に何も言えない。繋がらない電話に唇を噛みしめる君をそっと横で見つめるだけ。
ぼくはくま。
くまのぬいぐるみ。
君のテディベア。
テディベアはテディベアでしかないんだ。