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贄の王  作者: どんより堂
20/22

20 友人

「司馬さん!」

 扉を開け、部屋に入る。司馬が血だらけで横たわっていた。服のあちこちが破れ、そこから血が流れ出ている。

「これが、拷問かよ! 殺人じゃないか!」

 私の怒声に反応したらしい司馬が、ゆっくり目を開けた。

「うるさい。もう少し小さく叫べ」

 私は駆け寄った。「大丈夫ですか」

「見てのとおり、大丈夫ではないな」

「斉門が?」

「あいつ以外に、誰がこんなことをやるんだよ」

 司馬は皮肉げに笑おうとするが、うまくいかず、咳き込んだ。口からも血を吐いた。

「何をされたんですか」

「思い出したくもない。まあ、いい」

「よかないですよ、早く治療しないと」

「無理だ。ここには、包帯さえないからな」

「でも、布はあります」私が着ている服を脱ごうとすると、司馬は手でそれを押しとどめた。

「いい。どうせ、もう長くは持たない。経験上、知っている」

 司馬がまたも自嘲する。今度はうまくいった。見ていられなかった。でも、目を逸らすわけにもいかない。

「秋津、悪いが俺はこれで退場する。あとは任せる」

「任せるって、何をすればいいんです」

 おかしい。視界が滲んできた。声も震えて、思うように言葉が出ない。腹が立ってきた。

「ありがとう」司馬がつぶやいた。

「何がありがとうなんですか。似合わないですよ」

 司馬の顔に水滴が降り注ぐ。私は少し顔を離した。

「志半ばで斃れるのは、無念だ。しかし、最期は悪くない。……正直に言おう。お前と手を組んだのは、親近感を抱いたからだ。他に理由はない。身よりはなく、六人村の一員でありながら疎んじられている存在。お前は俺だ。この七年間、俺は孤独だった。人を殺したくはなかった。だが、みんな俺に殺してくれと泣きながら頼んでくる。六人村の上下関係は厳しい。富士見兄弟のような連中だけじゃない。王になれなかった候補者、王に疎んじられた住人、風習になじめない人々。彼らは、外に逃げ出す方法も知らず、生きていく気力もない。彼らの逃げ道は死しかないんだ。でも、他の人間が自殺の手伝いをしてくれるわけがない。そして、噂を耳にするんだ。司馬は儀式のときに人を殺した。そうするとどうだ。夜な夜な死にたい連中が、俺のところに自殺の依頼にやってくるんだ。断れなかった俺は、自分が快楽殺人者であると思い込むことで、罪悪感を乗り切ろうとした。でもなあ、そんなのは無理だって。俺の心はずっと前から壊れていたよ」

 一気に喋った司馬は、言葉を切り、呼吸を整えた。その呼吸は浅く、雑音が混じっている。

「俺はずっと『普通』の生活に戻れることを憧れていた。それは最後まで憧れだったが、孤独感は消えた。秋津信彦、お前のおかげだ」

 私は彼の手を握った。もう握り返す力もないようだ。

何か言わなければ。急いで言葉を吐き出す。

「それはこちらの台詞だ。恋人に裏切られ、わけのわからない血縁でおかしな儀式に巻き込まれた俺が、今もまだ生きていられるのは、司馬、お前のおかげだ」

「見え透いた嘘を言うなよ、ばーか」

 司馬は目を閉じた。もう動かなかった。私は声をあげて泣いた。

 自分でも意外だった。

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