20 友人
「司馬さん!」
扉を開け、部屋に入る。司馬が血だらけで横たわっていた。服のあちこちが破れ、そこから血が流れ出ている。
「これが、拷問かよ! 殺人じゃないか!」
私の怒声に反応したらしい司馬が、ゆっくり目を開けた。
「うるさい。もう少し小さく叫べ」
私は駆け寄った。「大丈夫ですか」
「見てのとおり、大丈夫ではないな」
「斉門が?」
「あいつ以外に、誰がこんなことをやるんだよ」
司馬は皮肉げに笑おうとするが、うまくいかず、咳き込んだ。口からも血を吐いた。
「何をされたんですか」
「思い出したくもない。まあ、いい」
「よかないですよ、早く治療しないと」
「無理だ。ここには、包帯さえないからな」
「でも、布はあります」私が着ている服を脱ごうとすると、司馬は手でそれを押しとどめた。
「いい。どうせ、もう長くは持たない。経験上、知っている」
司馬がまたも自嘲する。今度はうまくいった。見ていられなかった。でも、目を逸らすわけにもいかない。
「秋津、悪いが俺はこれで退場する。あとは任せる」
「任せるって、何をすればいいんです」
おかしい。視界が滲んできた。声も震えて、思うように言葉が出ない。腹が立ってきた。
「ありがとう」司馬がつぶやいた。
「何がありがとうなんですか。似合わないですよ」
司馬の顔に水滴が降り注ぐ。私は少し顔を離した。
「志半ばで斃れるのは、無念だ。しかし、最期は悪くない。……正直に言おう。お前と手を組んだのは、親近感を抱いたからだ。他に理由はない。身よりはなく、六人村の一員でありながら疎んじられている存在。お前は俺だ。この七年間、俺は孤独だった。人を殺したくはなかった。だが、みんな俺に殺してくれと泣きながら頼んでくる。六人村の上下関係は厳しい。富士見兄弟のような連中だけじゃない。王になれなかった候補者、王に疎んじられた住人、風習になじめない人々。彼らは、外に逃げ出す方法も知らず、生きていく気力もない。彼らの逃げ道は死しかないんだ。でも、他の人間が自殺の手伝いをしてくれるわけがない。そして、噂を耳にするんだ。司馬は儀式のときに人を殺した。そうするとどうだ。夜な夜な死にたい連中が、俺のところに自殺の依頼にやってくるんだ。断れなかった俺は、自分が快楽殺人者であると思い込むことで、罪悪感を乗り切ろうとした。でもなあ、そんなのは無理だって。俺の心はずっと前から壊れていたよ」
一気に喋った司馬は、言葉を切り、呼吸を整えた。その呼吸は浅く、雑音が混じっている。
「俺はずっと『普通』の生活に戻れることを憧れていた。それは最後まで憧れだったが、孤独感は消えた。秋津信彦、お前のおかげだ」
私は彼の手を握った。もう握り返す力もないようだ。
何か言わなければ。急いで言葉を吐き出す。
「それはこちらの台詞だ。恋人に裏切られ、わけのわからない血縁でおかしな儀式に巻き込まれた俺が、今もまだ生きていられるのは、司馬、お前のおかげだ」
「見え透いた嘘を言うなよ、ばーか」
司馬は目を閉じた。もう動かなかった。私は声をあげて泣いた。
自分でも意外だった。




