1 暗夜
すでに書き終えたものを、投稿していきます。今月半ばで完結まで投稿しようと思います。シリアスです。人も死にます。ミステリです。
まっすぐ伸びる県道の先で、検問が行われていることに気づいた。
対向車はいない。バックミラーで後ろを確認するが、私に続く車もいなかった。ハンドルをにぎる手が汗ばむ。引き返すか。いや、ヘッドライトを点けている。あたりが暗くとも、不審な動きをすればすぐにばれるだろう。すでに検問を受けていた自動車は遠くへ行ってしまった。白バイのそばに立つ警官は、私を待っている。錯覚かもしれない。だが、その考えが払拭できなかった。
アクセルから足を離す。もう手遅れ。ブレーキを踏み始める。車内は冷房をきかせているのに、汗が頬を伝って太ももに落ちた。彼らが捜しているのは、私ではない。私であるはずがないのだ。いくら自分に言い聞かせても、心臓の高鳴りは静まらない。
自動車が止まる。警官と目があった。窓を開ける。むっとした湿気の多い熱風が車内に押し寄せてきた。警官がマイクのような棒状の機具を私に差し出す。
「すみません、アルコール検査です。ここに息を吹きかけてもらえますか」
ほらな。やはり、私ではなかった。しかし、声は出せそうにない。うなずいて、言われたとおりにする。今日は歯をみがいていなかった。今さら思い出してしまう。口臭がきついのは、不審だろうか。
「はい、ありがとうございました」
警官の声音に、不快そうな響きはない。私はもう一度うなずいて、アクセルペダルを踏んだ。動揺していると悟られないように、ゆっくり加速する。心臓の鼓動はまだ速く強い。窓が開いたままだった。急いで閉める。車内が再び涼しくなるのに、しばらくかかるだろう。
いつのまにか、私は口で息をしていた。
走りながら、バックミラーで背後を確認する。数分もしないうちに、白バイの赤色灯は見えなくなった。その後、きっちり五分走り、自動車を止める。すれ違う車はない。上下一車線の狭い道だが、少しぐらい停車しても問題はないだろう。
サイドブレーキを引くと同時に、ため息がこぼれる。助手席に置いてあるコンビニエンスストアの袋から、ペットボトルのお茶を取り出し、一気に飲み干す。ようやく落ち着いてきた。ティッシュペーパーで汗をぬぐう。
バックミラーに映る自分の顔を見た。取り立てて特徴のある人間ではない。平凡でそこそこ善良な小市民にしか見えないはずだ。
ダッシュボードを開ける。
拳銃がある。
銃刀法違反。
一年以上一〇年以下の懲役。
でも、無事に検問を抜けた。
私がこんなものを持っているとは、あの警官も想像するはずがない。なにしろ、私でさえいまだに自分が拳銃を所持している事実に驚愕しているのだから。生まれてから二十五年の間、信号無視さえしたことがないのを自慢に思っていた。そんな私が、犯罪行為を行っているのだ。しかし、後悔はしていない。むしろ、心は満たされている。もうすぐ、自分の惨めさを感じなくてすむようになる。気持ちが高揚する。嬉しい。
サイドブレーキをおろし、自動車を発進させる。
目的地はもう少しだった。
6話分までは、1時間おきに投稿します。その後は1日1回の予定です。全21話くらいですが、クライマックスはある程度連続で投稿しようと思っています。