『消えた500円玉』
午後の暑い日だった。ちょっと小腹が空いた俺は、近所のコンビニにでも行こうと思って財布を掴んだ。昔百均で買ったどこにでもある味気のない財布だ。中を確認してみると札はなくて、ちょうど500円玉が一枚入っていた。
贅沢はできないけど、ジュースと好物のあんパンぐらいなら買えるなと思って家を出た。んで、俯きながらぼーと歩いていると、地蔵? 子供抱いているからマリア観音ってやつなのかな、まあその地蔵の前に何か小さくて丸い銀色が落ちていた。小さくて、丸い、銀色。すぐに金だと思った。よく見ると案の定それはお金で、しかも500円硬貨だった。俺は内心小躍りした。
幸い周りに人気はなかったけど地蔵の手前、別に信心深いわけじゃないけど何か見られている気がしてさ、さっとポケットに突っ込んで逃げた。まあそんな後ろ暗さも、コンビニでジュースを選別している頃にはすっかり霧散していたんだけど。
それで、ここからが本題なんだけど、レジにあんぱんとジュースと弁当置いて財布開いたらさ、ないんだよ。財布の小銭入れに入ってた500円玉。恐怖云々なんかよりも、まず焦ったね。だって家を出る前には確かにあったはずなのに、現に消失してたんだぞ。それで何かの手違いだと思って、怪訝そうな顔してる店員さんの前で財布の隙間とか念入りに捜しまくったんだけど、やっぱりなかった。
それで結局どうしたかって言うと、道端で拾ってポケットに入れたままになっていた方の500円玉を使ったよ。もちろん、夕食用にと思って手に取った焼肉弁当も買えずじまいだ。
帰り道にもしかして、と思って地蔵の前を通りかかった際に周囲をちょっと探してみたり、家に帰って部屋の中や玄関とか探してみたんだけど、何も出てこない。
俺は一体どのタイミングで500円玉を失くしたんだろうか。
あの日以来、外に出ると下を見ながら歩く癖が付いた。けれどただの一度として得をしたことはなかった。