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『北村君』

 俺が高校生の頃、北村君といういじめられっ子がいた。けれど北村君はただのいじめられっ子ではなかった。いわゆる霊感というものがあるらしく、仲の良かった俺だけに色々と教えてくれた。例えば、三丁目の高台にある廃屋には近づくなとか、生協の二階のトイレから嫌な気配がするとか。

 高校生にもなって別に霊感なんて信じていなかったし、そんなことを吹聴するからいじめられるんじゃないのかと思ったりしていたものの、そういうことを語る時の北村君の顔には妙に鬼気迫るものがあったから、危険だと言う場所には極力近づかないことにしていた。

 そんな北村君が特に危険視していた場所が、何故か学校の屋上だった。うちの学校の校舎はL字型だったから、教室からでも容易に向こう側の屋上を見上げることができたのだが、北村君曰く、窓から眺める分には大丈夫だけど、行くことだけは絶対に駄目らしい。と言うのも、霊とは違う得体の知れないものが、屋上の一角に住み着いているんだと。

 それで俺が「屋上なんて行く機会もないだろ、第一鍵が掛かっているし」って冗談交じりに言ったら、凄い顔で絶対に行くなよって二度も念押しされたもんだから、これはよっぽどマズイ場所なんだなって思った。

 Fというクラスメイトが死んだことを知ったのは、翌朝のホームルームでのことだった。なんでも例の屋上からの飛び降り自殺だったらしい。Fはクラスでこそ人気者ではあったが、影で北村君をいじめていた。この前も北村君にバッタを食べさせて笑っていた。とても自ら死を望むような人間には見えなかった。

 自殺の原因もそうだが、それ以上にいくらなんでも昨日の今日でタイミングがおかしかった。それでふと北村君の顔を見ると、北村君はニコニコしていた。いじめられていたとは言え身近な人間が死んだというのに、とてつもなくいい笑顔だった。その時点で俺はハッと気付いてしまった。

 Fは聞いていたのだ。俺と北村君の会話を。いいや違う、北村君はわざと聞こえるように話したんだ。内気な俺と違って、大柄で気の強いFのことだ。行ってはいけないと言われれば、どんな禁忌だろうが迷わず足を踏み入れるに違いないことを北村君は分かっていたんだ。

 俺はなんだか空恐ろしくなって、身体の小さな震えが止まらなかった。

 休み時間になると、北村君が俺の席へとやって来た。けれど俺はとても話すような気分じゃなくて相槌ばかり打っていた。そんな様子の俺を見かねたのか、小声でさらっとこんなことを言った。「あの自殺、実は俺がやったんだ」って。あまりにもさらっと言うから、俺も「え?」としか聞き返せなかった。「Fが来ることは分かってた。後は下から引っ張るだけでよかった」。それだけ言って席を放れていった。残された俺はただ唖然とするばかりだった。


 『引っ張る』? 仮に話が本当なら、そこは『突き落とす』じゃないのか?


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