太陽と、モグラの唄。
「お前なんかきらいだ」
遠い遠い、ソイツに言ってやった。
「俺の前に現れないでくれ」
高く高く、見上げて言った。
おいらはモグラ。
穴の中。
暗く、冷たい穴の中。
わずかにアイツが覗いて見てる。
おいらの声なんて。アイツは気にかけちゃいない。
構わずこっちを見てくるんだ。
そもそも聞こえてすらいるんだろうか。
おいらなんてちっぽけだ。
鳥から聞いた、話によると、
ヤツはとっても暖かく、
近寄るほどに熱くなり、とてもじゃないけど触れられない。
誰もあそこへは近づけない。
きけば聞くほど恐ろしい。
こんな恐ろしい物はない。
出来ればこの目で見たくもない。
冷たく暗い、この場所が。
おいらはここが好きなんだ。
暑くてまぶしいアイツから、
どうにかこうにか逃げなくちゃ。
こんなときに鳥ってやつは、のんきに歌ってやがるんだ。
いい天気だよ。遊ぼうよ。
そんなの知るか。うるせぇな。
そんな事より逃げなくちゃ。
上から照らす、アツいアイツが恐ろしい。
出口はどこだ。逃げ道は?
どうやら深い、穴に落ちたらしい。
穴を掘って進んでいこうとも、
掘っても固くて進めない。
どうしよう、どうしよう。
アイツがこっちを見ているよ。
おいらはアイツに見られているよ。
だんだんおアツくなってきた。
おいらここで終わりなのかな?
太陽に当たったら死んじゃうんだって、
どっかの誰かが言っていた。
ここがおいらの墓場なのか。
助けてくれる者はいない。
いるとすれば、アイツだけ。
アイツはおいらを助けてくれるのか?
アイツにおいらは見えているのか?
おいらの声が聞こえるのか?
おいらの願いを聞いてくれるのか?
おいらにはアイツは眩し過ぎる。
暗い、おいらを笑ってるみたいだ。
明るい方へ出ておいで。
地上の奴らは笑ってる。
頼むから、おいらを暗い所へやってくれ。
冷たい土へ、連れてってくれ。
死んだら湿って柔らかい、
土の中へと埋めてくれ。
おいらをそんなに照らさないでくれ。
ああ、でも生まれ変わったら、
地上に出ても生きられる、そんな体で生まれてみたい。
一度でいいから見てみたい。
地上の奴らを見返したい。
土はこんなに柔らかいんだって。
土はこんなに優しく、冷たいんだって。
死ぬほど照らしてくるような、アイツから守ってくれるんだって。
いつだか鳥が言っていた、
風というものに吹かれてみたい。
空というものを飛んでみたい。
一度でいいんだ。
一度だけ。そしたら、やっぱりこっちが良いって思うんだ。きっと。
もしかしておいら、うらやましいのかな。
地上の奴らがうらやましいのかな。
そんなはずはない。
「お前なんかきらいだ」
気付けばアイツは見えなくなった。
こっちなんか見たくないと、白い何かに隠れていった。
アイツはおいらを見捨てたんだ。
助けてなんかくれないんだ。
それならおいらはもがいてやる。
ここからでようとあがいてやる。
固い、石のような地面を掘って、ほって、ほって、ほって、ほって。
深い穴を登って、のぼって、のぼって、のぼって、のぼって。
ちっともここから動いてなかった。
掘れてなんかなかったし、登れてなんかいなかった。
わかったのはその手のアツいこと。
あぁ、痛い、痛い、痛い、痛い。
これで終わり。
ちっぽけなおいらの、ちっぽけな命。
そんなちっぽけなおいらのちっぽけな悪あがき。
全部終わった。
涙が溢れる。
この手の痛み、そんな事よりも心が痛む。
きっとアイツがうらやましかった。
大きなアイツがうらやましかった。
眩しくて明るくて、とてもじゃないけどカナわなかった。
アイツも泣くことがあるのかな。
なんだか空が暗くなってきた。
零れてくるのはアイツの涙?
涙がおいらを濡らしていくよ。
おいらはもう、動けない。
動けないおいらを濡らしていくよ。
なんだか心地よく感じるよ。
ホントはおいら、知ってるよ。
これは雨っていうんだよな。
別においらのために泣いてくれてるんじゃないんだって。
そんなことは知ってるんだよ。
別においらのために泣いて欲しいだなんて思ってなんかいないんだよ。
最後に。ああ、最後にお前の姿が見たかったな。
おいらの事を見て欲しかったな。
でもわかった気がするんだ。
声がした気がするんだ。
遠い、遠い、お前の声が。
高い、高い、お前の声が。
「助けてあげられなくてごめんね」
おいらがきらいだった、お前の涙。
雨がおいらを濡らしていくよ。
動けないおいらは歌っているよ。
動かないおいらは歌いながら、
きっとお前の所に行くよ。
そしてこの歌を届けるんだ。
「ありがとう。
おいらのために泣いてくれて」